第十一話 女騎士アンジュ
流石に裸のままにさせておくわけにもいかないので、彼女を縛めから解いて、近くに散乱してた鎧や服を集めて渡してあげた。
まぁ流石にそれはメリッサとカラーナが行って、俺は後ろを向いているように言われちゃったけどね。
でもしっかりあの裸体は脳内にインプットされたけどね。
う~ん背中まである金髪に、痛みの全く感じられない白い肌。
背は女性にしては高めで、スタイルは抜群のモデル系。
だけど引っ込むことは引っ込んでいて出るとこはしっかり出ているというメリハリのある身体。
う~ん思い出しただけで涎が……
そんな事を思いながら俺が一人ニヤけていると、もう大丈夫ですよ、と声がかかった。
なので俺は女騎士を振り返るけど。
「た、助けてくれて、か、感謝している」
……う~んなんか気恥ずかしそうに俺から目を逸らしながらお礼を言ってきたな。
頬も赤いし……惚れられたか?
「ご主人様。余計な期待は持たないほうが宜しいかと……」
囁くような声でメリッサに言われてしまった。
なんだろ? ちょっと不機嫌ぽい?
あ、もしかして妬いてるのかな?
ふふ、なんだやっぱり可愛いとこあるじゃないか、ういやつめ。
「……ご主人様、何がそんなに面白いのですか?」
「え? う~ん別になんでもないけどな」
つい口元が緩んじまったぜ!
「ところで、なんでこんなとこに騎士様がひとりでおるん?」
「そ、それは勿論盗賊どもを退治するためだ! 騎士としてな!」
カラーナの問いに堂々と答えたけどな。
「……一人で?」
なんとなく疑問に思って聞いてみる。
「……まぁそうだな」
頬を掻いて、なんだろな? なんか言いにくいことがあるような感じだけど……
「でも、まぁいっか。助かったわけだしね」
「あ、あぁ本当にありがとう。しかし貴殿はとても強いのであるな」
「貴殿とか堅苦しいのはいいよ。俺はヒット、こっちは奴隷のメリッサ。で、もう一人がとう」
「うわぁああぁああ! あれや! うちはトレジャーハンター的なあれや! そやろヒット~」
なんか俺に向けてウィンクしながらそんな事を言ってきたな。
なんだ夜の誘いか? いや~大胆だな~。
「……ご主人様。一応念のためですが、カラーナは騎士に素性を知られたくないだけだと思いますよ」
……うん! 勿論判ってたさ。
まぁ騎士の前で堂々と盗賊と紹介するのも確かにあれか。
で、カラーナも自分の名を告げる。
「そうか。そういえば私もまだ名を申し上げてなかったな。アンジュ・クロースだ改めて本当に助かったありがとう」
「お礼なんていいって。宜しくなアンジュ」
俺はそういって右手を差し出したけど、え? となんか戸惑ってる様子。
あれ? 握手の文化ないんだっけ?
「握手のつもりだったけど、そういうのしないんだっけ?」
「い、いや! そ、そんな事はないぞ!」
そういってアンジュが俺の手を握り返してくれたけど、顔から湯気が出るぐらい真っ赤になったな。
「……わ、私の、は、じめ、て、が……」
うん? なんか顔を背けて呟いてるけど、辿々しくてよくわからないな。
まぁいいか。
「アンジュ……クロース?」
うん? なんかメリッサが思案顔を見せてるな。
「どうかしたメリッサ?」
「あ、いえ、う~ん。大丈夫ですなんでもないです」
「そう? ところでアンジュはこれからどうする?」
「あぁ、王都まで戻る予定ではあるが……」
「なんだ、それなら俺達と同じだな。じゃあ一緒に戻ろうか」
「あ、あぁそうだな。ではご一緒させて貰おう」
う~んなんか堅苦しいな。
まぁいいか。
「じゃあ王都まですぐ――」
「ちょっと待って下さいご主人様!」
ん? なんか止められたけど。
「ご主人様。この方は恐らく王国の騎士。その前でこのような力を使うのは如何なものかと……」
「えぇ? 別に大丈夫じゃない?」
「いやいや! うちも賛成やで。あんたのはちょっとおかしすぎるし」
失礼な! でもまぁそこまでいうなら。
て、わけで、面倒ではあるけど、王都まで歩いて戻ろうって事になった。
そして洞窟の外に出たわけだけどね。
◇◆◇
「ぐうぉおおおぉおおおぉお!」
「ば、馬鹿な! レッサードラゴンがこんなところに!」
「…………」
うん、洞窟から出た瞬間、上空からドラゴンとやらが迫ってきた。
俺達を餌と思ってやってきたらしい。
「この辺でよく出るの?」
「いやいや! うちはそんなん聞いたことないで!」
「カラーナの言うとおり、ドラゴンがこんなところまでやってくるなど聞いたことはない。くっ! しかしマズイぞ! よりによって盗賊を相手にして疲弊しているところを!」
うん、さっぱりしてませんよ。
それにしても普段でない魔物がね。
これは雨なんとかみたいなトラブルメーカーがいるな! 全く誰だろなマジで。
「メリッサ、あれってどれぐらいの強さだ?」
「レベル95ですねご主人様」
メリッサがさくっと教えてくれた。
てかしょぼ。まぁドラゴンといってもレッサーは下位のドラゴンだしな。
一応口から火の玉吐いたりはするけど。
「だったら楽勝だな」
「そういうと思いました」
メリッサがしたり顔で応える。
なんかすっかりこういった状況に慣れたみたいな感じだな。
「は!? な、何を言っている! レッサードラゴンは王国騎士団でも中隊レベルの討伐隊が組まれる程なのだぞ!」
「そ、そやで! とにかくここはなんとか逃げる手を――」
……いや、正直メリッサ以外は慌て過ぎだと思うけどな。
「ご主人様。レッサードラゴンが攻撃態勢に入りましたよ」
ん? あぁ本当だ。空中で大きく息を吸い込んで、口から火の玉を吐き出してきた。
「な! あんなもの着弾したら!」
「あ、あかん! もう終わりや!」
いや、終わらせねぇし、キャンセル!
「……へ?」
「ひ、火の玉が消えた? え? どないなっとるん?」
アンジュとカラーナが怪訝な感じに言ってるけど、メリッサはため息を吐いてるな。
で、それから更にレッサードラゴンは火の玉を数発撃ってきたけど全てキャンセル。
そろそろ面倒になってきたから、キャンセルで空中に移動し、そこから。
「居合百閃! キャンセル! 一刀両断! キャンセル! 無裂無用! キャンセル!」
居合による一〇〇の斬撃と、そのままずばり一刀両断にする剣戟と、そして宙を蹴って突っ込むと同時にずたずたに斬り刻む連撃を全てキャンセルで結果だけ相手に与えた。
まぁそんなわけで、華麗に着地した俺の頭上から、ドラゴンのミンチと核がパラパラと落ちてきたわけだけどね。
「ふぅ、終わりと。これでもうだいじょう……あれ?」
「……ドラゴン、ドラゴンをたった一人で……」
「な、なんや! なんやのあんた一体!」
「はぁ……」
アンジュは目を白黒させて、カラーナは口をパクパクさせた後叫びあげて、メリッサはなんか大きくため息を付いているわけだけど――
あれ? もしかしてやりすぎた?




