回想其の七 フォンの兄暗殺される!
あれから一週間が過ぎた。
どうしたものかセリィユの義弟はまだ到着していない。
図らずも長期の滞在になってしまったが、どうして、どうして
中々楽しい、期間であった。
よくよく観察してみると、シレモンは宿の前を通っては、道端に佇み、
こちらを楽しそうに眺めていた。はじめは、気が付かずにいたグランだが、
彼の行動は日課になっているようで、毎日同じ時刻に現れる。
ところがある日、たまたま目が合ってしまい、何の気なしに
手を振ると、急にきょろきょろとした後、恥ずかしそうに、走り去ってしまったので、ナンダか悪いことをした様で
見てみない振りをすることにしたグランだった。
「セリィユさんは、シレモンさんのことをどう思っているんですか?」
とグランが聞くと、相変わらずのように、
「ばっ、なっ!なにょ〜う!いきなり!、、、」
と言いながらあからさまに、態度が変わった。
そういう話になるとセリィユは、決まって別の話題に話を振った、、、
「あ、あのね!グランは、お化粧とかしてないでしょ?、女の子なんだから少しは気を使わなきゃ駄目よ?、私がメイクを教えてあげる!」
そういいながら、紅の付け方や、アイシャドウの使い方を教えてくれたりもした。
「ほら、これでどう?いいわよ〜とーってもきれい!、、ねっ!ポポタもそう思うでしょう?」
後から鏡越しに覗き込んだフォンだったが、
心なしか嬉しそうにニヤニヤしているのが見えた。
「使い古しで悪いけれど、この化粧品はあげるから、自分で工夫してみて!」
そういいながら、ウインクして見せたセリィユだった。
「そうそうこのスカーフもあげるから、服装とのコーディネートも考えてね!」
今までこういった事をことを教えてくれるものなどいなかったので、
本当の姉が出来たように嬉しかったのだ。
楽しい日々が続いていたが、いつまでもこうしているわけにも行かない。
「おっそいわねェー、今回はどうしたのかしら?」
セリィユも首を傾げるばかりだったが、そんな心配をよそに、
その日の午後、何時もと変わらぬ様子で馬車が着いた、、、が、宿に入ってくるなり、
「いやぁーまいった!参った!、義姉さん遅くなりました。出発するときに、
町で一騒ぎあって、足止めを食らってしまい、遅くなってしまいました。」
「本当に、まいった!」
しきりに頭を撫でながら、”まいった”を連発した。
「何があったの大丈夫?」
少し心配そうな表情で、様子を伺うセリィユだったが、本人に異常がないと分かるとホッとした顔になった。
そして義弟の顔色を伺いながら、セリイュは改まった口調で話しかけた。
「あのね、実はお願いがあるんだけれど!?」
「珍しいこともあるんですね、義姉さんがあらたまって?」
「なっ、なによ!普段からあたしがよほど、
ずけずけものを言うみたいじゃない?」
「イヤ、イヤ、、そういうわけでは、、在りません、、、
おォ、コワ、!?」
両の手を 外に向けながらなだめる様に小刻みに振ると、
「それで、たってのお願いとは何です?」
顔色を伺いながら聞き返した。
少し憮然とした表情だったが、ふっとやさしい表情になると、、
グランたちのほうを指差して、
「あのね、この二人をパン・ポアレの町まで送ってほしいの、
、いいかしら?」
少し、上目遣いに”おねがいだからぁ”と言う顔でたずねると、
ああ!なんだぁ、ホッ!、、と言うような顔で答える義弟だった。
「おやすいごようです、一人旅よりは、むしろその方がありがたい
OK!承知しました。」
「じゃ、たのんだわよ、今夜はご馳走するから、発つのは明日の
午後でしょ?」
またあの大量の料理が食卓に並ぶのか?、と思うと少し胸焼けがした
グランだったが
フォンを見ると、うれしそうにニコニコしていた。
二人そろってどんな胃袋をしているのだろう?、、、特にセリィユはあれだけ食べてこの見事なプロポーションを保っているのか謎だった。
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次の日、セリィユに礼を述べ別れを告げると、
馬車はパン・ポアレの町に向け出発した。
船で行けば、一日の距離だが、陸路となると3倍の三日は
優にかかるだろう。
しかし徒歩でいけば、一週間以上ははかかるから、
それに比べれば苦ではない。
幌の着いた馬車の荷台に載り、馬の歩に揺られながらフォンと
いろいろな事を語った。
その日の夜、となりの村に付き、一軒しかない宿屋に泊まり夜を明かした。
翌朝は、早くのうちに宿を出てひとつ山を越えた町に入る予定だったが、
セリィユの義弟が馬車の先から荷台に回ると、並んで座っている二人に
神妙な顔つきで話し始める。
「この町に入る前に、お話しておきますね、じつは、パン・ポアレの町を出るときの噂では第一王子のブロン様が
何者かに暗殺されたらしいのです。」
「!、、??!!!、、?」
・・・其の話を聞いたとたん、フォンの顔色が変わった。
思わず”ぎゅっ”と、フォンがグランの手を、握り締める!・・・
「この町の出入り口でも、かなり警備が厳しいと思うので、
二人は私の身内ということにしましょう。、、
そのほうが面倒なことに為らないと思います。」
と、告げると再び馬車を進めた。
グランは驚いたが、其の言葉を聞いたフォンは相当ショックなようで、
小刻みに震えながら下を向いたまま押し黙ってしまう。
グランは何か声を掛けようとしたが、ポタリと落ちたものを観た瞬間、
何も言えなくなってしまった。
黙って肩を抱き寄せフォンの頭を撫でているのが精一杯だった。。
つづく