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回想 其の参 囚われの王子

「あ、兄貴ぃーしっかっり!?」

「 何時も颯爽{さっそうと}と肩で風切る兄貴が?」

 

 其の兄貴分があげる "醜態を晒す叫び声" を

打ち消さんが如く大声でグランに短剣で襲い掛かる、、、


「くっ、、くっそう!兄貴に何をしやがった!?」 

だが!、、、「???うおっ!?、つっ、、つかめねぇー」

 

 だがどうしたものか、!??手にしっかりと握り締めたはずの短剣がすっぽ抜けてしまう、、、

あわてて拾いなおすも、まるで、短剣は、氷になったがごとくにツルツル滑り男の手から逃げてしまうのだ?

「なっ!?なんだぁ?」驚きのあまり叫んだ。

   ”何が起こったんだ?”

 「こんなものいらねぇー」

 短剣をあきらめ、

 少女に掴みかかろうとするが今度は、、、

地面が滑り立っていることさえおぼつかない???

まるで床一面にパチンコ玉をばらまられたように。

 

 「うわっ!」

 思い切り尻餅をついてしまった!

男は地面に手を突いて起き上がろうとするが手がまったく地面を、捉える事がができない、、、



 「ばかな、ばかな!、なにがいったい?」

自分の身に起こったことが信じられずに其の言葉を繰り返す、、


 ”まるで悪夢を見ているようだ”


男には理解出来ようはずがない、これがグランの能力なのだ!


 起き上がることさえままならず、地面の上で転げまわる男は、無駄な抵抗を続けたが暫くすると疲れ果て諦めたように、

大の字のまま動かなくなった。


 「ふっ、、、はぁ〜っ??!!!」

やっと自分の強がりが蟷螂の斧に過ぎないことが分かったようだった。

 

 腕を抱えたまま呻き声を上げる男と供に、その場に放置してグランは

、足早に立ち去った。


  ・・・バニラの甘い香りを残して、、、・・・


   


 

 暫く、後ろを何度も振り向きながら様子を伺うが、とりあえず追って来る気配はないようだ。

 

「ふうぅ?追ってこないわね。」

グランは安堵の息を漏らす。






    __________________________________






 暖かな日差しを与えてくれる太陽がグランを真上から見下ろす頃、何とか山の麓まで、たどり着いた。


 木こりの老人にもらったパンと干し肉を木陰で食べようとしたとき、ふと視線を感じた


 「???!!」

六歳ぐらいの男の子だろうか?、草に覆われた林の中から、じっとこちらを見ている。

まだあどけない表情だが、どこか高貴な雰囲気の顔立ちだった、、、

 グランの持っているパンをじっと凝視している。


 ・・・こんな辺鄙なところに子供?・・・


 不思議に思ったが、なんとも目がくりっとして愛嬌のある顔立ちなので、話しかけてみた。


「坊や、この辺の子?」

だが返事はない、無言のまま少しおびえるようにはにかんだ。


「パンたべる?」

グランの問いかけに声を出さずに頷くと、そばに駆け寄ってパンに

夢中でかぶりついた、、、よほどお腹を透かしていたのだろうか?

 ところが分け与えたパンを半分ほど食べると、

はっと思い出したように、グランに語りかけた

食べものを貰えた事で、少し気を許したのだろう、


  「リバロが、リバロがしんでしまう、、、」


  「リバロ?だれ?」


  「ぼくのお城の兵士、このしたの川のそばにいるの。」


  「なにがあったの?」


 そう問いかけると、小さく”あぁ!”とおびえた表情を浮べながら、身をすくませた。


 「さっきぼくたちの前にふたりの男が出てきて、リバロがぼくを逃がそうと、、して、、、」


 ・・・兵士という事は、この子は其の兵士の主の一族なのだろう、

それに二人の男というのはさっきの者たちに違いない・・・

 

 「この下の川にいるのね?、其処に連れて行って?」


 だが小さく震えながら首を振るばかりだ、、、


 「リバロという人は、あなたを守ってくれた大切な兵士なんでしょう?

大丈夫 今度は、私が守ってあげる!」


 グランはそう言うと、子供の目をじっと見た最初目を合わせようとしなかったがやがて、思い立ったように、うなずくとグランの視線に答えるように目を見つめ返した


  ・・・やはり、幼いながらも自分の立場を承知していたのだろう、それなりの勇気と機智をそなえた子のようである・・・

 

「うん!こっちなんだ、、きて!」

大きな声でグランをいざなうように歩き出す、林の中の斜面を、慎重に下っていくと川のせせらぎが聞こえる、、、

川辺に一人の男が身を横たえていた。

 男の左足は、腫れ上がっていて腹部には、鮮血がにじんでいた。

まだ息はあるものの、苦痛に顔をゆがめ身動きできないでいる。


 「リバロしっかり、人を連れてきたんだ。」

 すると其の問いかけに、おぼろげながら意識を取り戻したのだろう、目を閉じたままか細い声を搾り出した。


 「おお、、王子様、、、ありがたい、、、もうしわけのない、、ことで、、、ぐっ、、、」

あまりの痛みに話すこともままならないようだ。、傷は深そうで、動かすことは無理だろうと思われた。


 ・・・グランの髪が銀色に輝く・・・

グランは、ばあさまに施したように、傷口に手を当てると能力で傷の周りの細胞を変化させた。


 ふっ、と痛みが軽くなるといままで閉じていた目を静かに開き男は

礼を述べた。

 「どのような魔法を使われたかは存ぜぬが、痛みが楽になり申した、

ありがとうございまする。」

 凛とした話し方は、其れ相応の立場にある兵士のようだ。

 そして、高潔な眼差しでグランのほうを見ながら気丈に振舞って見せた。


 「御免なさい、痛みは和らぐだろうけれど直すことは出来ないの、、、」

 グランは申し訳なさそうにつぶやいた。


 「何を、おっし遣る、、、これで、十分です。」

 「その方を見込んで、、、、お頼みしたいことがあります。引き、、受けてくださらぬか?」

 其の表情は、穏やかに為ったものの肩で息することに変わりはなく、男の最期が近いのは、明白だった。

男は、最後の願いを託す懇願をこめた目で、グランに視線を向けた。

 

「わ、私に出来ることなら、、、何をしてほしいのですか?」

思わず男の手を握りながら、一言一句聞き漏らさぬように耳を傾ける、、


 「ありがとうございます、、此処におわします御方は、我がグラスド・デミ国の第二王子、フォン様なのです。、、実は隣国に人質として囚われておりましたが私が連れ出したのです。」


 「、、と言うのも、お恥ずかしい話なのですが、我が国の悪しき大臣がクーデターを企んでいるらしいとの情報を得ました、王子を暗殺するつもりなのです、、」


 「隣国で王子が殺されたとなれば、軍隊を差し出さなければ為りません、其の隙に手薄になったところを一気に国をのっとる計画なのです。」


  ・・・国の大事を話してくださるとは、私のことを信頼してくれたのだろう・・・

 「でも、人質を勝手に連れ出して大丈夫なのですか?」



 「それは問題ありません、むしろ隣国は戦いを望んでいないので、、、はぁ、、っ、、自国で暗殺されないように連れ出すのも見てみぬ振りをしている、、、のです。」


 「この書簡に、、其の大臣のクーデターの全容と、王子を連れ出した経緯を、フ、、ハッ、、、したためて置きました、フォン様と、グゥッ、、、、一緒にグラスド・デミ城まで送り届けていただきたいのです、、!」

 

 「おねがいします!!」

 

痛みは和らいだものの、話をするのは相当苦痛のようだった、兵士の命を削る嘆願を受けとめないわけにはいかなかった。

 グランは、兵士の申し出を聞き入れることにした。

 「わかりました!きっと王子を、お城まで送り届けます。」

 

 「かっ、かたじけない、城下町に着いたら、、、マスカルという兵士を、フぅー、、、探してください、私の盟友です、

其の他の者を信用なさるな!、、全部罠です。其れと私の荷物を持っていきなされ、、」


 「中に、通行証と、、、ハッ、フッ、、、書簡があります、情けないことですが旅の路銀は賊に奪われてしまいました、はぁ、、っ」


・・・もう話をするのも儘ならないのだろう、、、・・・

 「承知いたしました、だからもう話さないほうが、、、」

 「さっ、最期に私のわがままを聞いてくだされ、、、、荷物の中に苦しまずに死ねる薬があります、、そっ、、それをとりだして、、、ふぅー、、ください。」



 「!?、、、なッ、何を言います、近くの村から人を呼んで来ますから、、、」

 

 ばあさまと兵士を思わず重ね合わせたグランだったが、兵士は、悟ったようにつぶやいた、、、


 

「この傷ではもはや助かりますまい、血の匂いにつられて、狼にでもハラワタをくわれるのが関の山です楽にしてくだされ、死すべき時に死ねぬのは、生き延びるよりもっと辛いことなのです、、、」


  ・・・ばあさまも同じ気持ちだったのだろうか?・・・

「無言のまま、大き目の巾着袋から、薬らしい包みを取り出すと、兵士に手渡した、、、」


 兵士は”いやなことを頼んで申し訳ない”とグランに頭を下げると其の薬を飲み干した、、、そして、静かに其の命を終えた、、、


「り、リバロ!?」

いままで黙ったまま二人の会話を黙って聞いていたフォンであったが、さすがに悲しそうな声を上げた。


 だがやはり王家の血筋を引く子供である、それ以上は取り乱さず必死に悲しみに耐えている。

 「悲しければ、泣いていいのよ、おいで、、、」

 グランが手を差し伸べると、大きな目から涙をポロポロトこぼしながらグランの胸に飛び込んだ、


 「うぃ、ひっく、うっ、うっ、、」

 抑えきれない嗚咽の声が、尚いっそう悲しみを伝えた、、、グランは力いっぱいフォンを抱きしめると、静かにリバロの亡骸を消し去った。

 「うっ、、、うっ、、うわーーん!」


 ・・・嗚咽は慟哭に変わり少年の鼻にはバニラの香りが漂った・・・




                             つづく


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