回想 其の弐 重い十字架そして希望
着の身着のまま、村を逃げ出したグラン!
其のまま森の中を彷徨うのだった。
昼なお暗い森の中、何度も木の根につまずき、草に足元を獲られつつも必死に逃げた。
二時間も歩いただろうか、疲れ切った足を休ませるに手ごろな
大きな木の根元に、腰を下ろした。
その頃村では大騒ぎになっていた。
・・・村はずれのばあさまが殺されて、グランが連れ去られた。・・・
村人たちは口々にそう語り合った。ただ奇妙なことにばあさまの亡骸は見つからず
甘い香りがだけが残され、グランの行方も要として知れない、
銀色の髪をした女が、グランを連れ去り、、、、
彼女は殺害されてしまったのだろうと、噂した。
グランは奇しくも彼女自身をも殺害した犯人と誤解されてしまったのだ。
だが!髪の色が黒髪に戻ったにもかかわらず、なぜ?村に戻らなかったのだろう?
・・・何者かに連れ去られて命からがら逃げてきた・・・
そう話せば何とか辻褄を合わせることも出来たはず、、、
しかしグランには出来なかった。
なぜか!?、、グランは森をさ迷ううちに、自責の念に駆られていたのだった。
・・・ばあさまに施したことは、正しかったのか?間違いではなかったのか?・・・
まだ幼い彼女が背負うには、、、、
・・・あまりに重過ぎる十字架だ。・・・
何度自問自答を繰り返しても、答えなど出なかった、
ますます自分自身を責めるのだった。
それはまるで錯覚絵にある終わりのなき階段を何度もぐるぐると回るようなものだった。
人は取り返しの付かない回廊に陥ったとき、
・・・何をきっかけに絶望の淵から這い上がるのだろう?・・・
そしてグランは、ある決心をした、、それは、、、
・・・自分と同じ能力を持つ者を探そう、
そしてばあさまに施した方法で自分の身も消し去ってもらおう・・・
・・・そうする以外自分の魂が救われることはない・・・
そう思い込んで疑わなかった。
イヤ!、そう思わずにはいられなかったのだ!
自分の体には自分の能力は無力だったので、ばあさまが本当に
安らかに息を引き取ったのかは、彼女自身にも分からなかったからだ。
グランはそのまま放浪の旅に出た、皮肉なことだがグランの背負った十字架はそのまま
彼女が生きていける希望になったのである。
グランは、かなりの遠方だが比較的大きな港町をを目指すことにした。
住んでいた村を大きく迂回しなければならないが、当然多くの旅人が行きかう幹線道は通れない、
途中に各自治体の関所があり旅人の動向をかなり厳しくチェックくしていたからだ。
其れに女の一人旅、しかも年端の行かない少女となれば当然関所は通してはもらえない。
必然的に人目をはばからなければ為らない者たちが通る裏街道を進むこととなった。
グランのような幼顔の少女が、武器も携えず一人で山道を進む、、、
まさに、ならず者たちに取っては格好の餌食なわけだが、
村を離れて二日目のこと、
歩きずくめで、さすがに疲れ果てたグランは、草むらに座り込んでしまっていた。
そういえば昨日から何も口にしていない。
・・・ガサリ!音とともに、、、小枝が揺れる、・・・
「なに!?熊?イノシシ?」
・・・思わず身構えるグラン!・・・
だが視界に入ってきたのは、この山で木こりを生業としている老人だった。
「ふむ?若い娘がこんな山奥で、どうしたんじゃ?」
着の身着のまま、とても山を越えるような格好ではない、、、
ひと目で分かる何か分けありの出で立ち、老人は、黙ってうつむくグランを見ると
こう話しかけた、
「これ、其処の娘よ、よかったら、うちで一晩泊まってていくがえェ、この辺りは熊も出るでな?」
気難しそうだが優しそうに微笑む老人の言葉に、グランは甘えることにした。
「そのかわり、飯炊きを、手伝うんじゃぞ?、たいしたもんは食わせられんがの、ほっほ!」
気の良い木こりの家に一晩世話になり、
山を越えたところにある町を目指していると話した。
木こりの老人は分けありのグランに何も聞こうとせず親切に振舞うのだった。
そして次の早朝
「この先はたまに物騒な連中がおる、無事越えられると思うが、気をつけていくんじゃぞ。この干し肉とパンも持っていくがええ、非常食として作っておいたのじゃが、この爺には硬すぎるでな、ほれ!」
食料をうけとると、グランは、ぺこりと頭を下げた。
「はい、おじさんありがとうございました。ご恩は忘れません。」
そうお礼を述べると、再び町を目指して歩き始めるのだった。
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グランが、町を目指して歩を進めた頃
山の反対側からは、どうにもいかがわしい風体の二人連れが、物騒な話をしながら
山道を登っていく、、、
「あにき、あの親子連れわけありのようでしたが、結構もってやシタネ。」
「ああ!思わぬ儲けだったな、当分遊べるぞ!」
「しかし、親父を殺っている間に逃げた小僧は何処に行ったんだか?気になりヤス。」
「どうせ、人里離れた山の中、誰も見ちゃいねえ、ほっとけばの垂れ死んじまうさ!」
ふたり組みは山賊か盗賊といった輩なのだろう、旅の親子連れから金品を奪い、
上機嫌で、傍から聞けば不愉快な会話をしながらグランの進む道を歩いていた。
「あ、あにき!若い女が一人で山を降りて来ヤス?」
「ホントか?ほんとに一人か?今日は運がいいぜ!」
「この辺りに隠れて、いい思いをしようぜ!」
どうもこの手の男たちは、欲望のままに生きることしか頭の中にはないようだ、だから自分たちに
起こりえる悲劇などというものには、考えも及ばない。
、、、愚かなことだ。
「ひっひひ、お嬢ちゃん一人で何処得行くのかなぁ、天国へいこうぜ?おれ達となぁ〜」
そういいながら舌なめずりをした髭面の男とあばた面の男が、
短剣をチラつかせながら現れたのは、
町まで後、数キロのところまで来たときだった。
ほとんど村から出たことのない、世間知らずのグランにはかなりの衝撃だったに違いない、
特殊な能力があるとはいえ、まだ15歳の少女なのだ。
出会った事の無い、下卑た男たちを目の前にしたグランは、思わず身を硬くした。
男たちは、グランが無謀にも一人旅だということを再度見極めると、
少女にさまざまな卑猥な言葉を投げかけた、、、
まだ無垢な少女のグランには、耳をふさぎたくなるような暴言だった。
男達は異臭を放ち、飢えた猛獣のようなギラギラした目でグランの体を視姦する。
そうするうちに、あばた面の男は短剣をもう一人の男に手渡すと、後からグランの肩を掴んだ。
・・・思わず身を硬くするグラン・・・
片方の手を首に回し、残った腕を幼い胸に降ろそうとした、、、
「きゃっ、いやっ!」
・・・その時、髪が、銀色に鈍い光を放つ・・・
「うっ!?ナンダこの女の髪は?」
グランは、いやらしく降りてくる男の手を引き離そうと腕を掴んだ。
”ぐにゃり!”と男の腕がブーメランのようにひしゃげて曲がり、、、
男は思わず後ろむきに腕を抱えたままもんどりうって倒れこむ、
「わ、うわぁ-いでぇよー!!!」
そう叫びながら草の上で身動きも出来ずに、叫び続けた。
グランが身を守る為に、人間相手に能力を使った最初の出来事だった。
つづく