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グランとヴァニーユ 酒場にて

   「た、たす、、、けっ、、てっ、、、だ、だ、れ、、、、かぁ、、」


哀れなケダモノの声が、尽き果てようとする頃、

アマガエルは自分のねぐらに帰る。


 其の時には、黒髪の少女は既にこの地を後にしていた。


 彼女にとってもはや何の未練もない場所だった。

 

只、時折森の入り口に佇み透き通るような声で、

口ずさむ歌を聞かせてくれる幼顔の少女を観ていると心静かになり、

もう一人の自分が其処にいるような錯覚を覚えるのだった。

 其の思いに浸っている間だけ彼女は過去に戻っていられたからだ、、、

 

 だがその思いは或る日、いとも簡単に崩れ去さった、、、

三匹のケダモノによって、、、


 歌を口ずさむ少女を、無理やり連れ去った男達はよそ者なのだろう。。

もし、この周辺の者であったら、一人で無防備に森を散策する少女に決して手を出さない!


 ”バニラの香る暗殺者”そう呼ばれる少女の噂がこの地に流れ始めたのは、半年前位からだった。


 其の少女の表情は冷たく虚無感に満ちていて、瞳は少し緑がかった悲しい色をしている。

髪は鈍い銀色にひかり、残された屍のそばには、バニラのかすかな香りが残されされている、、、、


 森に入ったまま戻って帰らないのは、たいてい町の鼻抓み者だったから、、この森にはならず者と称される男達は

寄り付かなくなり、噂が広がるとともに、

この森には平和な時が流れていた。


 彼女は決して酷薄{こくはく}ではなく殺人を好んでいるわけではない、

何度か絡み付いてくる糸を、振り払ったに過ぎない。

まして報酬を受け取って人を殺めたことなど一度もない。

 

 この”バニラの香る暗殺者”も最初、彼女の噂を耳にした者たちが、

作り上げた創造の産物にすぎなかった。だがその噂を巧みに利用した偽者が多くの犯行を重ね、

いつしか噂が独り歩きを始めた結果だった。


 なぜならば!実際、彼女が今回のように痕跡を残すことは極めて稀だからだ。


   ・・・”跡形も無く消し去ることが出来る。彼女が本気になれば造作も無いことだ!”・・・

 

 本物の彼女が立ち去った後 残るのは能力を使った時に立ち込める


        ・・・”バニラ”の香りのみ・・・





    __________________________________





 彼女は、森の近くにある港町に来ていた。

船の案内所にきてみたものの、入り口は閉ざされている。

入り口には”出港が決まり次第お知らせいたします”とだけ書かれている。

 手短にそばにを通る船乗りに尋ねた。


 「アノ、お尋ねします、船はいつ出るんですか?」


 「客船だろう?、時化で船は、いつ出るのか解からないいなぁ、、、」

体の引き締まったいかにも海の男風の船員は、同情するようにそう答えた。


「そう、どうもありがとう。」

短く礼を述べると取り合えず今夜の宿を探す為に、酒場に足を運んだ、。


「いらっしゃいませ!」

「奥の席が空いてますよ、お連れの方は?、、へっ、おひとりですか?」


 女の一人旅、しかも年端も行かない少女となれば珍しいのも当然だ。

食事のついでに、船が出るまでの宿を探している旨を伝えると、


 「お任せを、店の者に手配をさせておきます、ごゆっくり、、、」

 愛想のよい主人はそういいながら、キッチンに戻っていった。


 ウェイターの運んできた込んで来たラタトーュに口をつけた時、少し離れた席に腰掛けていた、

いかにも乱暴者の男がからかうように言葉を投げかける、、、


 「おう、お姉ちゃんきれいだねー、こっちで酒の相手でもしねぇかぁ?」


 「・・・・・」


 「無視するとたァねーだろう?」


 あきらかに連れの者が居ないとわかると、欲望を露{あらわ}にし卑猥な笑みで酒臭い息を吐き出しながら、近づいた。


 こんな男を軽くあしらうのは、わけも無いことだったが昼間、能力を使ったため少し興奮状態にある、

髪の色が変化しかねないので、黙って料理を食べ続けた。


 

「なぁ?好い事でもしねえかぁ?」


 口元を緩ませ、舌でいやらしく自分の唇をなめながら、

肩に手をかけようとしたとき、、、男の首筋に後からピタリと刃{やいば}を当てたものが居た。


 「その娘{こ}は、あたしの連れだ!汚い手で触れるな!?」

 

少しでも不穏な動きをすれば躊躇なく刃{やいば}を首に食い込ませるだろう、

そう思わせる胆力のある声だった。


 「???」


 ・・・私よりも二、三歳年上だろうか、短いクセ毛がボーイッシュで、

かなりの手練れだと言う事が伝わり、

多くの修羅場を経験してきた雰囲気を醸し出している。・・・


 「へっ?へっ、へっ、へ じょ、冗談だよぉ、姐さん冗談だよ。」

卑屈な態度に身を翻すと男は頭をボリボリとかきながら自分の席に戻っていった。


 ウェイターに料理を注文し、反対側のイスに腰掛けながら、

女が問いかける。


 背中に剣を、携え凛とした貴賓を漂わせるその姿はどこか王宮の戦士を思わせる、

 

  「怖くなかったかい?」


 荒くれ者が集うであろう酒場に少女一人、武器も持たず、、、どこかあどけなさの残る顔立ち

あまりにも場違いだった、、、


  「いえ、べつに!」


 素っ気無い態度が逆に、その女に興味を持たせたようだ。


・・・強がっているわけじゃない、さりとて剣や格闘術に長けているような雰囲気は無い?・・・


 「あなたの強さは何処からくるんだい?」


 ひと目でただの少女ではないことを、見抜いたこの女も只者ではないのだろう、、、


 

「あたしの名は、ヴァニーユ、人を探して旅をしてるんだ。あなたの名は?」


 身のこなし方からかなりの剣の達人と思われるが人懐っこい性格なのだろう、


其の笑顔に思わず答えた。


 「私の名前は、・・・グラン」

 彼女にしては珍しいことだ、普段決して自分の名前など明かさない。


 「へー、いい名前だね、あなたにピッタリ!」

そういいながらにっこりして見せた、さっき男に見せた表情からは想像できない笑顔だった。


 グランもヴァニーユに興味があるようだ、

質問を投げ返す。


「どんな人を探しているの?」


 

 「殺し屋なんだ、バニラの香る暗殺者、、、とか云う」

少し、口ごもりながら戸惑うような低い声で答える。


多少困惑の表情を浮かべたグランだが冷静な口調で聞き返す。

 「・・・?!!!、、、なぜ?」

 

 「訳ありでね、ある方に頼まれたんだ!」


 「殺し屋って、どんなひとなの?」


 「若い女の子で髪の色が銀色だということしかわからないんだ、、

見かけからは想像できないほどの能力を持っているらしいんだけど、、、                                                                                                   つづく

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