バニラの香る暗殺者
かなりの残酷描写がありますが血なまぐさい話ではなく、
グランという少女の冒険と成長の話が中心です
生命の躍動がこだまする森の中,
新芽の吹くこの季節には相応しくない殺伐とした光景が
今、目の前で繰りひろげられようとした居た。
沼のほとりに覆い茂る草の上に、一匹のアマガエルが乗っていた。
何時も自分を狙う天敵のへびは、人間の足音に驚き自分のねぐらに逃げ込んで往った。
静寂な空間をかき乱す足音は、アマガエルの近くまで来ると静かになり
下卑た、男たちの不愉快な歓声に変わった。
「ひっ、ひっ、、、ふっ、此処までくれば、邪魔はこねぇ!」
「誰が一番だ?、決めようぜ?」
「俺は、最後でいいぜ、其のほうが興奮するからなぁ?」
「へっ、お前の趣味には辟易するぜ!人がやった後の、キタねえのが好きだとよ!」
「お前に言われたくぁ、ないな!この変態ヤロウガ?」
此処は森の奥深く、よほどの物好きでなければやぶ蚊や、まとわり付く小バエの群がるこの沼に
足を運ぶものなど居ない。
だが、アマガエルはつい最近にも同じような光景を眼のあたりにしていた。
ああ、、、また同じ惨劇が繰り返されるのだ。・・・
男たちは連れさらってきた少女を、何度も陵辱し飽きることなく其の体を、、貪った。
三人のケダモノは、快楽の叫びをあげ。生贄の少女は悲痛な叫びをあげた。
男たちの欲望は尽きることなく永遠に続くと思われた、、、
少女の届くことのない、嘆願する声だけがこだまする。
太陽が光を失いつつ、西の山の頂上に沈む頃、惨劇は幕を閉じた。
少女の哀れな骸{むくろ}を残して、、
アマガエルは只、見ていた。
再び繰り返されるであろう惨劇を、、、
だが?、違った!、、、今回は!?
「この前は、俺があとだったから今度は一番だ!」
「へっ!?好きにしろ!どっちにしても最後は俺がいただくぜ!
断末魔の叫び声が一番興奮するからなぁ!」
その時!、、今まで恐怖のあまり悲鳴さえ上げられず沈黙を続けていた、、、
そう思われた少女が、静かに搾り出すように声を吐き出す、、、
「貴様か!アノ娘{こ}を殺めたのは?!!!!おまえかぁー!!!」
其の刹那、アマガエルの居る草むらに血の飛沫{しぶき}が飛んだ!
アマガエルの直ぐ目の前に粘り気のある鮮血が滴り落ちる。
ポタリ、ポタリ、、、
男の一人は、顔の半分が無くなり地面に仰向けに倒れると、
ピクピクと痙攣をした後、動かなくなった。
「フハっ?、、、なにをしたんだぁー!?このアマァー!」
あまりの恐怖に判断力を失った男が無謀にも、つかみ掛かる、
彼女の黒髪が鈍く銀色に光を放つ、、、そのとき!?、、、!!!
その可憐な唇を尖らせ男の指先に息を吹きかける、、、口笛を吹くように!?
息をかけられた男の指が崩れ落ちる、、、砂のように!、
其の真っ白な断面から次の瞬間!霧を噴くように赤い血がふきだす。
思わず、、もう片方の手で無くなった指を形作るように包むと
自分の目の前に手をかざし確かめるかのごとく凝視した。
其の腕を少女の手が掴む 掴んだところから、”クニャリ”と垂れ下がる男の腕、、、
「うぎゃあぁー!!」
融けたロウソクのように曲がった腕を、抱えながら地面をのた打ち回った。
男の腕は、内出血をおこしてパンパンになり三倍にもふくれあがって居た。
少女は大して力を込めているようには見えない、いや 実際、力など籠めていない!
男の腕は自らの重さで下に垂れ下がっただけなのだ。
転げまわる男は、少女の足元に当たり思わず下から見上げた、、、少女が握った手を開き眼前に差し出す!
赤い指輪が見えた、、、と其れが男がこの世で見た最後の光景になった
「あ、、、あ、、がぁ!」
体中から血液が噴出し真っ赤に染まった体が、風に吹かれるチリのように崩れて
消えてなくなった。
最後のケダモノは、地面にひれ伏し只ひたすら懇願する!
「たッ、助けてください!?命ばかりはお助けください!」
少女の虚無感に満ちた冷たい眼は、このケダモノの断末魔の叫びを欲している、、、
だが、、、
「命だけは残してやろう!この恐怖をならず者たちに語り継ぐがイイ!」
「ほっ、本当ですか?」
顔を持ち上げ、意外な言葉をなげかけた死神のような少女を見上げる。
、、、其の瞬間!
わずかな希望を浮かべた男の両の肩に少女の指先が触れる。
ダラリ!、、、と垂れ下がる二本の腕、支えを失い重力のままに!
「がっ、ぎゃああぁー」悲鳴を上げるも、のた打ち回る間も無く男の体は地面に沈みこむ、
底なし沼に沈むように、、、、
胸まで埋まったところで、辛うじて停まった。
「はっ、はぁ、出してくださぃー、こっ、ここからー」
罠に張り付いたゴキブリを見るような醒めた表情の持ち主が、つぶやく、、、
「其の腕は、二度と使い物にはなるまい!、骨はなくなり、肉は別のものに変わり果てた、
やがて腐り落ちるだろう。」
「運がよければ、誰かに見つけられて命は助かるかもしれない、もし同じような馬鹿者たちがいたら
この恐怖を語り広げろ!」
「そためだけに、今は生かしてやる!」
そう云い残すと、銀色に光を放つ少女の髪は闇のような黒髪に戻りバニラの香りを残して
静かに去っていった。
アマガエルだけが其の光景を見届けていた。
つづく