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超短編

にんじんさん。

作者: しおん

「にんじんさん、にんじんさん。あなたはどこからきたのですか?」



年端もいかない女の子の問いかけに、



「私は土の下からやって来たのです」



真顔で答えるオレンジ人間。



「ちかていこくですか?それならわたしといっしょですね」



そんな不審者に笑いかける女の子。



「まあ似たようなものです」



そう言うと、クスリと笑って少女の右手を取るニンジン人間。その姿からは犯罪臭しかしない。






「カーーーーーーーット!!」



大きく響いた監督の声に撮影が終わったのかと僕は席を立った。


僕の妹は人気子役。

くりくりとした大きな瞳と愛らしい行動が大人気なのだと、暇つぶしに読んでいた雑誌には書かれていた。だが兄妹という関係だからなのか、妹のどこがそんなにいいのか理解できない。むしろ複雑な思いを抱えている。


「おにーちゃん!」


そういってかけよって来る妹の姿を横目でで確認しつつ、僕は雑誌から目を離すことはしない。というか撮影現場に親族を連込んでいるのは妹ぐらいだ。

妹はわがままで、一人ならお仕事しないなどとマネージャーに言ったらしい。この仕事は重要なものだからやってもらわないと困るんだとそのマネージャーに泣きつかれたのが昨日。さすがに家族のわがままで他人を困らせるのは良くないだろうと、座って観ているだけという条件付きで承諾し友人との約束を断り撮影に参加した今日。僕の機嫌は最高潮に悪い。


「何?」


嬉しそうに飛びついてくるが、鬱陶しくて仕方がない。遠巻きに見ているスタッフさんたちのかわいい兄弟ねなどという言葉に、どこを見たらそうなるんだと胸中でツッコミを入れる。


「どうだった?」


無邪気を装って聞いてくる妹に、


「よかったんじゃねーの」


と適当に返事をする。

こちとら役者でも何でもないんだ、演技の良し悪しなんてわかる訳がない。


そんな妹の話を適当に流しつつ雑誌を読んでいると、マネージャーさんが現れた。


「今日はありがとうございます」


元はといえば、うちのわがまま娘が原因なのだからお礼なんて言われる立場ではないのだけれども、否定するのも面倒だったので


「いえ別に、マネージャーさんこそお疲れ様です」


取りあえずのねぎらいの言葉を言っておいた。


それにしても僕の興味はあのオレンジ人間にある。

彼は売れっ子の俳優だ。仕事を選ばないとは噂されていたがこんなことまで引き受けるとは……うちの妹にも見習ってほしいものだ。


「ところで、あのオレンg……に、ニンジン役の彼はよくこんな仕事引き受けましたね。僕なら断固拒否しますよ」


マネージャーさんに話しかけるも話しにくいことなのか視線をらし苦笑いを浮かべるばかり。



芸能人も大変なんだな。



わがまま娘に振り回されて訪れた先で、世間の厳しさの片鱗を見た気がした。




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