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守護神シリーズ

守るもの。

作者: 櫻井 満月

今回は攻略対象である「武巳」君のお話です。


相変わらずの文才ですが、読んでいただければ嬉しいです。


なんだか最近不穏な空気を感じる。

不意に自分の意志ではない言葉を言いそうになったり、

頭では行動しなくちゃと思ってるのに、全然体が動かなかったり。

頭の中にかすみがかかってるようにぼーっとしてしまう事が増えた。

なぜだろうか…。




「龍弥!

 お前また修練サボったな?お師さまがかんかんだったぞ!」

「修練なんかしたって、精霊はあいつのところにいるんだ。

 やるだけ無駄だろ?」

「お前!なんてこと!!!!」

「うるさい。」

「あ、おい龍弥!待て!」



いつもと変わりない日常のはずなのに。

いつからか小さなほころびが出始めた。

あの子を守るための輪だったはずなのに、異質なものが混じり始めた。

この世界でのあの子は幸せにならないといけない。

そのためなら、なんだってやると決めた俺は、その異質なものを取り除かなければいけないんだ。

あの子を幸せにするために。




俺の名前は黒河内くろこうち 武巳たけみ皇守護家と呼ばれる5つの一族の中の1つ黒河内家の長男だ。

春暁学園と呼ばれる学園の高等科で生徒会長をしている。


俺にはとても大切な女の子がいる。

名前を安陪あべ 巫女みこという。

俺は彼女をもうずっと昔から大切に思っている。

それは、みこが生まれるずっとずっと前のはるか昔から…。



俺は所謂「転生者」というやつだ。

一回死んで、もう一度前の人生とは違う世界での人生を送るっていう…。

俺はその転生をもう何回も繰り返している。

ある約束を果たさない限り終わる事のない輪廻。


一番初めの記憶にある俺は、どこかの国を治める「大君」と呼ばれる人の息子だった。

兄に妻を取られた俺は、復讐のために反乱を起こし、兄からそのすべてを奪った。

しかし、その代償に愛しい妻をこの手で殺めてしまうという耐えがたい苦痛を味わうことになる。

その時妻は言ったのだ。

「愛しいあなたといることを、誰よりも望んでいました。

 願わくば、次の世でもあなたと添い遂げられるように…。

 私を見つけてくださいませ。」

そういってこと切れた妻は、俺の腕の中で死ねるのが嬉しいと、笑顔で逝った。

俺は妻に必ず果たすと約束した。


その数年後、病の床に就いた俺は身まかる最後の時まで、

次の世でも再び愛しい妻に会えるようにと強く願った。


願いはかなえられ、次の世に俺は前世の記憶を持ったまま生まれた。

だが、身内を自ら滅ぼした代償は重く、俺の愛しい人は常に俺以外に最愛の人を見つけていた。

魂の誓いは封印されているのだ。

何度転生を繰り返しても、妻の最愛にはなれなかった。

だが俺は、妻をこの手で幸せにすると誓ったのだ。

あの人の最愛になれなくても、あの人の幸せを願い、あの人の幸せの手助けをすることはできる。

運命の神は悪戯好きで、俺を必ずあの人のそばに転生させる。

この罰を100回受ければ次の転生の時俺はあの人の最愛に戻れるのだ。

父であり、兄であり、弟であり、息子であり…。

あの人の一番近くに生まれた俺は、いつかあの人の一番近くにいる「他人」になることを渇望していた。



「今生でやっと神との約束の時が終わる…。」



今俺がいる世界は100回目の輪廻の世。

俺は今生で生を全うしたら、来世で愛しい人に再び「他人」として出会えるのだ。



だから、俺は今生の彼女の事もきっと幸せにする。



俺の転生した世界は前世で俺の妹がやっていた乙女ゲーム「あなたの守護神」というゲームに酷似した世界だった。

病弱だった妹が親友が暇つぶしにどうかと持ってきたのだというゲームを熱心に解説してくれた。

ヒロインの性格から、彼女を取り巻く攻略対象と呼ばれる男性キャラ達の設定。

そして、ライバルキャラである少女の背景。

最初このゲームを妹に教えられたとき、このライバルキャラを出す意味があるのだろうか?と疑問に思った。

特に嫌がらせをするわけではないし、自分の婚約者を一途に思っているけなげな少女なだけだった。

事実、このゲームを作った制作側はイラストからキャラの性格設定をしていったらしいのだが、あまりにもデザイナーが彼女を可憐に書きすぎた為、

性悪な性格にできなかったと裏話で語っている。

だったら書き直せよと思わないでもないが…。

彼女を題材にしたスピンオフ小説や、漫画。イラスト本などゲーム以外のところでは彼女はヒロインだった。



俺の妹は27歳の時に亡くなった。

毎日毎日辛い治療と戦っていたのに、笑顔を絶やさない女の子だった。

彼女の幸せを願っていたのに、彼女は自らが幸せになる前に逝ってしまった。

だが、去り際に「お兄ちゃんが素敵な奥さんを見つけて、楽しそうに笑っててくれたら私は幸せだからね!」そういった彼女の願いのために俺は愛する人を見つけて家庭を築いた。


俺は俺なりに幸せだと思える人生の幕を閉じた。


そして今生…。

妹とそしてのちに生まれた娘がそれぞれ遊んでいたゲームの世界。

妹がいなくなり娘が中学に入るあたりにリメイクされたそのゲームはかつてライバルキャラだった少女を大幅に変えた内容だった。

これ以上ないくらいに性悪で傲慢。これぞ悪役!という出来栄えだった。



「何の因果か…。」

俺は苦笑する。

今生の俺の立場は攻略キャラのうちの一人だ。

そのことに気づき、そして愛しいあの人がライバルキャラの立場だと知って、最後の最後になんという試練を持ってきたのだろうと俺は運命の神を呪った。

前世での俺の妹であった「美湖」は今は俺の婚約者の「安陪巫女」だ。

巫女と初めて会った瞬間俺の魂が震えた。

俺の愛しい人だと。何か間違ったのか今生で「他人」として出会えたことに喜びを感じ、この世界の事を思い出し一瞬ののちに絶望した。

俺はまた愛しい人を自分の手にかけるのかと…。


だが、巫女を見つめ続けて気が付いたことがあった。

それは、巫女にも前世の記憶があるようだという事。

そして、この世界がゲームの世界と似ている世界であるという事を知っている。

ゲームの中では、巫女は「精霊」に嫌われて式神を扱えなかったが、

現実の巫女はまだ物心ついたあたりだというのに一人死に物狂いで修練を積み、今では皇守護家の中でも随一の術の使い手となっている。

そして、かたくなに俺たち攻略キャラとのかかわりを拒否する。


これは俺にとっては吉報だった。

前世の記憶があるのであれば、自分のキャラがこの後そのような末路になるのかを理解しているはずだ。

巫女は自らそれを回避してくれるだろう。

そして、俺もそれを手助けできる。

何もかもが本筋とずれている世界…やはりゲームはゲーム。現実は現実だ。

この世界に生きている者たちにはしっかり自分の意識がある。


だが、厄介なのは、巫女は俺を…いや、俺たち攻略対象を避けているという事。

乙女ゲームと考えているからこそだとは分かっているが、面白くない。

俺が前世での兄だという事は気づいていないだろうし、

やっと「他人」として出会えたというのに。

俺を避けるなんて許せるはずがない。

今生では結ばれるのは無理だろうが、俺は巫女に「愛しい」と告げる権利を放棄するつもりは毛頭ないのだ。

だから俺は幼い頃から巫女のそばから離れず。

巫女だけを守り、巫女だけを愛してきた。

俺がこれだけ執着する巫女に興味を持った「玄武」までもが巫女を気に入り、四神すべてが巫女の守護についたせいで他の守護家の奴らも巫女の周りをうろうろすることになったのは誤算だったが、晴れて婚約者となったから良しとしよう。

これから時間をかけて巫女を俺だけのものにしようと思っていた。


そう、安心していたのだ。

それなのに、俺が18歳となり巫女たちよりも一足先に大学生になった歳にその違和感は突然訪れた。


いつもなら巫女とともにいるはずの精霊「貴人」がとてつもなく不満そうに巫女のお気に入りの木のしたに座っていた。

俺はその日講義が午後からだったため、少し遅めの修練を終えた後だった。

貴人は俺を見つけるとちょいちょいと手招きをした。


「貴人どの、どうしたのです?」

近くに行くと益々貴人の期限は下降する。

「巫女とともに学園に行かないのですか?」

当然の疑問を口にしたのだが、それを聞いたとたんに、貴人は顔を歪めて泣き出した。

「ついていけないのじゃ!」

「え?」

「きじんはみこといっしょにいたいのに、

 がくえんにおかしな結界がはられておるゆえに、みこのそばに行けぬのじゃ!!!!!」

そういって俺の首に巻き付き大声で泣く。

(そういうことだ?)

もちろん、学園には「妖魔」が入り込まないように結界は張られているが、

「精霊」が入れないように結界を施すはずがない。

「貴人どの、他の十二神将の方々も?」

「そうじゃ、みなは貴人がミジュクだからキョウカされた結界にぶつかったのだといったが、ならばみなも

 行ってみればよいと言ってやったところ、

 ダレひとりとして学園には入れなかったのじゃ。」

「十二神将を拒む結界など我々は張った覚えがございませんが?」


おかしい…。


「当たり前じゃ!

 われらはみこの式なれど、帝釈のととさまの子でもあるのじゃぞ。

 そのわれらをこばむなどおのずから「妖魔」に気に入られようとしている

 ようなものじゃ。」


「精霊」を拒む結界…。

どういうことだ?


「それに、さいきんの主ではないみこの許嫁どもの行動も目に余る。」

「龍弥たちですか?」

「そうじゃ、みこではない女をちやほやしているらしいと、陽から聞いておる。」

あいつらが?

あれほど巫女の事しか目に入っていなかった龍弥たちが?

もしや…?

「べつにみこいがいのおなごを好くことを否とは言わぬが、

 その女の言うとおりにみこを貶めるなどもってのほかじゃ!!」

貴人はなおも悔しそうに文句を言うが、

俺の耳には大半が聞こえてこなかった。


『黒河内先輩ですよねぇ…?

 高等部に行きたいんですけどぉ…、学園が広くて—-迷っちゃったみたいなんですぅ…。」

数週間前、まったく知らない女に声をかけられた。

あったこともない女だったのに、向こうは俺を知っていた。

頭の奥底では「なぜ俺を知ってるんだ?」と思ったが、すぐに疑問は消えて、その女との会話を楽しいと思った自分がいた。

そして、女を高等部の正門まで送って別れたところで巫女にあった。

「武巳さま。

 珍しいですわね、武巳さまが笑顔でお話しされているなんて。お知り合いの方でしたの?」

そう巫女に聞かれ、はっとした。

あれは…誰だ?

「どうしたんですの?驚いた顔をされて?」

巫女がキョトンと首をかしげる。

さっきまでの頭の重さが嘘のようになくなった。

そうだ…あれは誰だ?

俺は巫女と自分の身内以外に興味がない。

だから、今の女と連れ立って歩くなどいつもの俺ならあり得ないはずなのに…。

しかも笑っていただと?

自分の行動がわからなかった…。


その後からだ、巫女に対してこうしてやりたいと思うのに、

考えていることとは全く別の行動をしそうになったり。

言わなくていいことを言ってしまったりすることが多くなった。

なぜだかわからない。

だが、愛しいはずの巫女に対してしてはいけない事、言ってはいけないことを言いそうになってしまう。

そんな自分が嫌で、ここ最近は巫女に会うのを避けていた…。


そんな時の貴人のこの訴え…。

もしや……。


この世界はゲームの世界に酷似しいる。

だから、どんなことがあってもおかしくない。

ましてや、俺がすでに転生者という通常に考えたらありえない存在なんだから、何が起こっても受け入れる。


思い出した。

前世で娘のやっていたゲームには、2クール目があった。

攻略対象は1クールでヒロインに選ばれなかったものに加え、学園の教師や、ヒロインのバイト先の先輩などになっていた。

前作のヒロインと位置づけられる姫宮陽は今では巫女の親友で

そしてライバルキャラは何故かまた巫女なのだ…。

1クールで死んだはずの巫女が生き返り、ヒロインに復讐をしていくというあらすじだったと思う。


そうだ…。

あの女はそのヒロインそっくりだ。

そして、同じくあの女も転生者だろう…。

出なければ本筋と変わった行動をしている俺に出会えるわけがない。


巫女を守らなければ…。


「たけみ!聞いておるのか??

 きじんはみこのそばにいけぬ!みこを守ってやれぬのじゃ!

 たつやたちなどもうしんようできんっ。

 きじんのみこに暴言をはいたりするようなおとこは大嫌いじゃ!」

そういってふたたび泣きはじめた貴人の声に意識を布き戻された。

そうだ、俺にはまだ強制されるほどにあの女の影響はない。

「貴人どの、おかげで助かりました。

 貴重な情報をありがとうございます。」

「ふぇ?」

俺はにっこりと、どす黒いオーラ満載の笑顔をを作り出し、これからの事に考えを巡らせる。



今生での俺は巫女を愛していい立場なのだ。

では俺は必ず巫女を守り抜こう。

ここはゲームの世界ではない。

だからこそ、シナリオ通りの結末なってくそくらえだ。


巫女の幸せを壊す異質なもの。

それは必ず排除する。

あの子は幸せにならなくてはいけないんだ。

絶対に…。

そのためには俺はなんでもしよう…。

あの子の幸せを壊すものは許さない。






よんでいただき、ありがとうございました。


感想や、誤字脱字のご指摘などいただけましたら幸いです。



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