表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜空の三重奏  作者: 星河翼
20/20

#20夜空のカルテット・そしてエピローグ

「さて、諸君!天体観測のお時間です〜」

 クラクションの『パフパフ〜』なんて音が聴こえてきそうな延光の、号令。

 あたし達は、延光に連れられて、もう少し山の方に足を向けた。

 小高い丘。そこまで来ると、延光は、

「さてご覧あれ!これが、綺麗な夜空なんぜよ!沖縄まで行かなくても見れる光景や!」

 なんて言って、あたし達は空を見上げた。

 そこには、数えきる事の出来ない星が瞬いていた。

 あたしは、こんな星空を見た事がなくて、

「うわ〜っ」

 と、言葉が漏れ出した。

 凄い。こんなに空には星が有るのか?と思えるほど、何処を見てもキラキラとした星が広がっていた。

「冬の夜の方がもっと凄いんやろうけど、夏の星空も、またイカシテるよな?」

「うん……」

 隆も惚けたように、今にも落ちてきそうな星達を見上げていた。

「ほら此処!一等席やで?」

 延光はそう言って、座れる所を確保して、そして、寝っころがった。

 その横に、隆も寝っころがった。そして、二人して、夜空を見上げていた。

「葵っちも来いや〜気分ええで?」

「うん!」

 あたしも、その横に並んで寝っころがった。

 見上げと、東京では見れない小さな星までくっきりと見える。周りに明かりがないためにとてもくっきりと。

「夏の大三角形!見つけたで〜」

 と言って、延光は夜空を指差した。

「え?夏の大三角形?」

 あたしは何処かで聴いた事がある単語を口に出した。

「白鳥座とわし座と、こと座のことだよ」

 隆が補足してくれて、ああ〜っと思い出した。

「凄いね〜こんなに星が見えると、どれがどれだか判らないや!」

 と言って誤魔化しておいた。

「白鳥座は、デネブって星が一番大きい。で、わし座は、アルタイル。こと座はベガ!」

 延光は、それらを指差して、三角形に点と点を結ぶようにまるで夜空に線を引いてるようだった。

「何処何処?」

「葵っち、無知〜天高い、今の時間は丁度上や!」

 そう言って、あたしの目にも判るように手を使って指した。

「あれが、デネブ。んで、これがアルタイル。で、それがベガ!」

「なるほどね。判った気がするよ」

 あたしは、こうやって教えてもらえてフムフムと頷いた。

「白鳥座って凄く大きいんだよね〜」

「そうそう!隆は良く判ってるやない!」

 そう言って、延光はケタケタ笑った。

「夏の大三角形は、有名だもの?」

 そうですか。あたしが無知で悪うございましたね。ちょっとだけムッとした。

 暫く眺めていると、

「オレ等みたいやな?」

「どうして?」

 あたしは何に対してそう言ったのか判らないので、延光に寝っころがったまま問いかけた。

「三つの点。それが人。で、今は夏。さしずめ、こと座は女の子の葵っちで、白鳥座は優雅な隆。んでもって、一風変わったわし座はオレ」

 なんのこっちゃ?あたしは頭を捻りそうになった。

「離れた所でも、これらは星座として自分達と言う形をとっててな、いつまでも空にあるんや。それらは過去の遺物かも知れへん。でも、共鳴してる。ずっと、この宇宙(そら)にある」

 あ、なるほど。離れても、自分達はずっとこの地球に居ると言いたいわけね?延光ってば、遠まわしにロマンティックな事を言って〜とあたしはクスリと笑った。

「あ、気が付いたんだけど、確か……こと座のベガは七夕の織姫で、わし座のアルタイルは牛飼いだったんじゃない?で、白鳥座はその天の川の架け橋となる星座でカササギの橋……だったよね?ふふ〜ん。のぶちゃんは、知っててそんな事言ったのかな〜ぁ?」

「え?」

 隆は意味ありげ〜な事を言った。

「何でこんな奴と!」

 あたしと延光は、一緒に否定した。あたしの頬はちょっと高潮してたかも知れない。

「あっやしい〜って、ま、ボクは客観的に応援してるよ〜」

 なんて言ったものだから、延光は、隆の頬をつねった。

「痛い〜!」

「この口が言うからや!」

 全く〜ロマンチストも、子供じみてるとちょっとかっこ悪いかも。

「さて、こと座のベガさん?何か歌っていただけるかい?」

 隆は、まだ延光とじゃれあっているが、話をあたしに振った。

「音痴だから嫌!」

「んじゃ、オレ達も歌うわ〜」

「え?マジですか?」

「マジマジ!」

「うんうん」

 なんて事で、三人で、合唱。まるで、延光の言葉を借りれば、夜空のカルテットって所だ。

「遠〜き〜山〜に〜陽〜がお〜ちて〜……」

 キャンプ場なんかで歌われる歌を歌って、あと少しの旅を盛り上げる。そう、今夜はお祭。思いっきり騒ごう!

 この時を忘れないために……


「ヒック・シュン」

 夜のパーティーは盛り上がった。

 でも、あたしの体はちょっと異変が出始めていた。

「大丈夫なの?葵ちゃん?」

 テントに戻る時、隆が心配してあたしに問いかけた。

「らいじょうぶ。ちょっと鼻風邪みたい……寝たら治るよ。きっと……」

テントに戻ったあたし達は、直ぐ様寝る準備をした。勿論歯磨きもしたからね。

「おやすみ〜」

 消灯して、眠る。

 そして、あたしは、徹夜の疲れも有りグッスリ休んだ。

次の朝、大変な事になるとも知らないで。


「葵っち〜まだ寝とるんかい?おきいや〜」

 耳元で延光の声が聴こえた。でもあたしは覚醒できない。喉が痛くて、ガンガンと頭に響く。何これ?気持ちが悪いよ〜

「なんやこれ!熱が凄い!どうしよう?隆!」

 耳元で、雑音混じりに延光の声が響く。

 そしてバタバタとした足音が、耳に響く。

 その後のあたしの記憶は無かった。


 目を醒ましたあたしの目に映ったのは、お父さんとお母さんだった。

「葵!大丈夫?」

 お母さんが、あたしの顔に手を寄せた。

「あれ、ここは?」

 あたしは見た事のある天井を見上げた。

「そうだ、あたし旅をしてて……?」

 記憶がぶっ飛んでる。変だな?何でここにお父さんとお母さんが居るんだろう?

「良かったわ。葵ちゃん三日も眠り続けてたのですもの……ここは、須藤さんのお宅よ?葵、あなた旅で無茶して肺炎起こしかけてたのよ!」

 お母さんが血相を変えて喚いている。

「延光君達が、須藤さんのお母さんに連絡を取って、家に連絡してくれたの。全く人騒がせな子……」

 あ、そうなんだ〜あたしの頭はまだちょっと覚醒しきれてなかった。

「ちゃんと、お礼を言うのよ?病院まで運んでくださって、大変だったみたいだわ」

 とお母さんは涙目でそう言った。

「ん〜と……延光君と、隆君は?」

「今、下にいる。ちゃんと反省をする事!」

 お父さんは、怒りたい所を我慢しえるみたいだった。

「呼んで来てくれるかな?あたし、二人の旅の邪魔しちゃったんだよね?ちゃんと謝るよ」

 あたしが此処に居て、信光や隆もいると言う事は、旅はその時点で終わったと言う事かも知れない……ああ、楽しみにしてたのに、ぶち壊しちゃった〜はあ。

 父とは母は、一階に一緒に行った。

 その後、一分くらいで二人が部屋に入ってきた。

「あ、元気になったんか?」

 延光は、心配そうな顔で笑った。

「あの後どうしたの?旅続けれなくてごめんね?」

「のぶちゃんが、タクシー呼んで、病院運んだんだ。それから、熱が引いたから、葵ちゃんおんぶして、汽車で高松まで出て、岡山の此処まで運んだんだよ」

 あ、凄い迷惑掛けちゃったんだ……

「ごめんなさい。延光君……」

 あたしは、恥ずかしくなって布団を少しずりあげた。

「謝らんでええよ。葵っちくらい軽いもんや。保険証無かったから、実費だったけど、何とかなったわ。マジ心配したで?オレ等がもっと気を遣えば良かったんやし……」

延光は、自分を責めている感じで苦笑いをした。それを見てあたしは自分を恥じた。

「そんな……体調悪いのに気がつかなかったあたしも悪いのよ。謝らないで!……それより、自転車は?」

 そう、旅で使った自転車はどうしたんだろう?

「運送屋さんに運んでもらったわ。その辺りは隆がしてくれたんよ。運送屋って手もあったんやな?」

 そうか〜旅はあそこで終わっちゃったんだ。

「そっか……」

 すると、隆が、

「お母さん達もいらしてるんだし、もう少しお話したら?帰っても話せるだろうけど……今話しておく事ってあると思うよ?」

 ここは、自分達より、家族で話をしたら?と隆は持ちかけた。

「うん。そうする……ありがとうね。色々と……」

「良いって事よ!んじゃ、今日のところはこれで!」

 延光達はそのまま去った。

 そして、お父さんと、お母さんは再びこの部屋に戻ってきた。


「話は終わったの?」

 お母さんは問いかけてきた。

「うん。話した。そして、謝ったよ?」

 あたしはこの気持ちをどう説明すれば良いのか迷った。が、謝る事にした。

「家出なんて勝手な事してごめんなさい!」

 それに関しては、お父さんが、

「全くだ!この親不孝者が!」

 と言って、怒っていた。でも、

「自分で納得行く旅が出来たかい?」

 今度は優しくそう問いかけてきた。

「うん。良い旅が出来たよ。自分自身を知るには丁度良かった。色んなことが有った。それが、今後どう自分に結びつくか判らないけど、今までの事を振り返れたし、身に着いた事もある。本当に良い旅が出来たって思う」

 あたしは珍しくお父さんと向き合って話してる気がした。

「それは良い事だ。その年で見たり聴いたりすると、一生の価値だ。お父さんは、今後その成果をどう葵が生かすか?それを見たいと思う。とにかく、休みなさい。此処に帰りの運賃と、お世話になった分のお金を置いておく。使いなさい!」

 お父さんはそう言って、緩やかに微笑んだ。

「あ、お父さん?須藤さんへのお金は、あたしがちゃんと返すから良いよ?これはあたしの事だから。だから、運賃だけにしてくれるかな?」

 そう、旅行で使ったお金は、自分で返したい。

「そうか。わかった。好きなようにしなさい。体が完治したら、帰って来るんだぞ?」

「はい」

 お父さんは、世間体を気にするかと思ったのに、あたしの意志を汲んでくれた。

「ありがとう。お父さん……」

 あたしは、お父さんに微笑んだ。

「あのねお母さん。心配掛けてごめんなさい。あたしがミサチャンの事で失語症に掛かった時、お母さんの言葉で色々立ち直る事が出来たって事も話してなかった気がする」

 そう言って、あたしは過去の話を持ち出した。

「喋れなくて、家に閉じこもってた時、お母さんの顔を見る事が出来なかったんだよ。でもね、夜にお母さんいつも泣いてた。それを見てて、早く立ち直らなきゃって思ったの。

そうしないと、お母さんが駄目になっちゃうと思ったんだよ。そうしたら、少しずつ回復して行ってね?そして、話に耳が傾くようになって話が出来た。ありがとう」

 そう言った瞬間に母の目から涙がこぼれた。

「もう良いのよ?今、元気に話せるようになってる葵ちゃんを見ていられるんですもの。お母さんは、それだけで十分よ……」

 今が大切。って言いたいのだと判った。

「さて、そろそろお暇する。一人で今度は帰れるな?」

「うん。もう一人で何でもやれるようにならなきゃいけない年だからね?あ、帰ったらね、お母さん。料理の仕方を教えてもらえる?」

「ええ、良いわよ。早く良くなりなさいね!」

そう言うと、お父さんとお母さんは須藤家を後にした。

 あたしが、病気から完治して、この家を出るのは三日後だった。


「葵ちゃん。おうちに帰っても、元気で居るのよ?もし、こちらに来ることが有ったら、是非足を向けてくださいね?皆、待っていますからね?」

 おばさんは、旅行から帰ってきて、帰省するあたしに玄関口でそう言った。

「はい!それから、旅行の代金も必ずお返しします!」

「葵おねえちゃん、きっとだよ?」

 優香ちゃん達もそう言って笑って見送ってくれた。

「延光と隆は、一緒に岡山駅行くって言っていたから、外で待っているわ。道案内してもらいなさいね?」

 最後の最後まで、色々ご迷惑掛けちゃってる。あたしは苦笑いするしかなかった。が、

「よう〜早くせんと、列車出ちまうで?」

 玄関から出たところで、延光は自転車に跨ってそう言った。

「のぶちゃんの後ろに乗ったら良いよ〜」

 二人乗りはいけません!

 なんて思ったけど、最後くらい羽目を外すか?

「宜しく〜」

 あたし達は、一気に岡山駅へと向かった。


「元気でな〜オレも、三日後には高知に戻る事になってるん。でも、また逢えると思うわ!楽しい時間ありがとうな〜」

 プラットホームにJR西日本のアナウンスが聴こえて、あたしは新幹線に乗り込んだ。

「ボクは、岡山にずっと居るから!手紙でも書いてね?のぶちゃんも、住所ちゃんと渡しなさい!持って来てるんでしょ?」

 つっ突かれて、延光は日焼けした顔を染めて白い紙を手渡してくれた。

「うん。手紙書く!じゃあ、元気でね!」

 あたしは、閉まるドアの向こうで、手を振り続けた。また逢う事を誓って。


 旅もこれで終わり。此処岡山に辿り着いた事は、ある意味幸運だったのかも知れないな。なんて思う。あたしは、一般車両の座席に着いた。ああ、これから東京に戻って生活をする事になる。

 あの慌しい毎日は心の奥に仕舞い込んで、あたしは、荷物を肘に置いた。

 すると、何処かで聴き覚えのある声を聴いた。

「お譲ちゃん?隣、良いかな?」

 あたしは、良いですよ。と言うつもりで頭を上げた。

「あ〜〜〜〜!」

 そこには、あたしの財布とカードを抜き取って行ったあの、おじさんが居た。

「返して!あたしの財布とカード!」

 あたしは、この奇妙な偶然を、神様の贈り物だと思った。今は新幹線の中。もう、この人の逃げ場所などありはしない!

「げっ!」

 っと退くおじさんの手首をあたしは鷲掴んで、しっかりとしがみ付いてやった。

「勘弁!もうしないから!」

 おじさんは、周りの乗客の視線が自分に注がれている事を確認して、しょんぼりと、あたしにお財布と、カードを返してくれた。

「もう絶対しませんよね?誓いますか?そうしたら、あたしは警察には通報しません。言っておきますが、あたしの父は警視庁で働いてますよ?」

 にっこり笑ってあたしはおじさんを見た。

 おじさんは、『もうしません』と言って、そそくさと違う車両に去って行った。

「さてさて、どうだか?」

 あたしは、これからのあのおじさんの行動を想像して呟いた。ちょっとだけだけど、あの間抜けなおじさんに感謝していたりしている自分がいたりしてね?

 新幹線の中、あたしは品川までずっと車窓から外の景色を見ていた。


 実家へ戻る前に、あたしは、ミサの眠るお墓を訪問する事にした。

 色々話したい事がある。

 そして、謝りたい事も。

 ミサのお墓は、あたしの家から南に位置する少し小高くなっているお寺の傍にあった。

 そして、お寺の住職の方に案内して貰って、あたしはミサの墓前に立つ。

「不幸な出来事でしたよ。娘さんまで道ずれにして。ええ。本当に……」

 住職さんは一礼し、あたしに一言添えて立ち去った。それから、あたしは此処まで来る間に買った白い百合の花を添えて、手を合わせた。

「今まで一度も来てあげられなくてごめんね。ミサ……怒ってる?今さ、話したい事が沢山あるんだよ。あのね。あたし、ミサの事を忘れようと思ってた。だって、凄く辛かったんだよ。ミサがこの世に居ないって事を信じたくなくて……でも、違ってた。延光や隆と出会って旅をして、気付いた。あたしは、ただ逃げてただけなんだってことに。そんなの虫が良すぎるよね?幻滅する?かな……やっぱり。だけど、今は違うよ?鮮明に、色褪せないミサとの思い出を胸に焼き付けて、これから生きて行きます。ミサの分も。ミサがやりたかった事。感じたかった事。それら全部を、あたしは変わりに体験してあげる。そして、全てを今日から日記にしたためます。それは、ミサへの天国への手紙。見ていて?あたし頑張るから!」

 あたしは、堪え切れない胸の奥の涙を押し止めて笑った。ミサの前で泣いちゃだめ。きっと、心配するから。

「今日も天気が良いね〜空が綺麗だよ〜海が見えたらもっと良いのにね?知ってた?海の碧さは、空の蒼色が反射してるんだってこと。あ、ミサは知ってたのかもね?あたしは、知らなかった。そう、あたし達はちゃんと繋がってる。だから、絶対忘れない!ここに誓います!」

 あたしは、にっこり笑って、何も返事をしてくれないお墓に向かって宣言した。

 もう二度と、泣かない。そして、ミサの事を忘れない。

 やっと、新鮮な空気を吸った気がした。肩の荷が下りた感じだった。

「じゃあ、また来るね。うん!」

 あたしは、しっかり地に足を着けて歩く。帰って色んな事をしなくちゃならない。

 学校の宿題も残ってるし、岡山の須藤さんに送金もある。

 現実世界を肌に感じて、そして、生きていく。そう、これはあたしの人生なのだから、自分で切り開かなければならない。頑張ろう。


 そうして、家に帰ってまずしたこと。

 押入れの奥に仕舞い込んだアルバム。

 心の奥に封じてしまおうとして、一度も開く事の無かった物。

 その中の一枚を取り出して、フォトスタンドに入れた。

 六年生の時の運動会の写真。

 確か、あの時あたしは後ろの方に並んでクラスの端で興味なく映ろうとしてたっけ?それを、ミサが、あたしの腕を掴んで中央に入るようにって引っ張って行った。

 驚いて何するの?って問いかけたけど、

「ほら、優勝に貢献したクラスの立役者!笑って笑って!」

 と言って、押し出した。あたしは、立役者という大げさな言葉に可笑しくなって、大きな口を開け笑った。ミサはそれを嬉しそうに見ている。

 その瞬間のクラス写真。

 それを勉強机の上に飾る。

「良い顔しているじゃない。あたし!」

 貰った時は、変な顔って思った。でもこうして見ると、幸せな顔。あたしはそれを見て、真新しいノートに日記を書く。

 ミサへの手紙として。


 それから七年後。あたしは社会人としてОLをしながら、施設団体のボランティア活動に参加している。

「おい、葵っち!明日は時間取れるんやろ?飯作って!」

 そう。どう言う訳か、延光は東京の大学を受けて上京してきた。

「自分で作りなよ〜人にばっかり頼ってさ〜自覚足らないんだから〜もう、君も大人なの!」

「あはは〜もう結婚したら?殆ど同棲してるような感じじゃん!」

 そして此処にも見知った顔。隆である。

「誰が誰とよ!」

「誰が誰とや!」

 同時に言い放った。

 大人になってもまだまだあの頃のように子供染みたあたし達。

 でも、判ってる。大人になっても子供の頃の心で居られる幸せを大人は持ち合わせているのだと。

 そして、いつでも子供時代を懐かしく思う心があることを。

 いつしか時は流れ、あたしは延光と結婚するだろう。隆も今の彼女と結婚することになると思う。

 あたしたちは幸せな家族を作る。

 そして、人はまた初めましてと子供を産んで、さようならと、死んでいく。

 出会いと別れ。その両方は絶対にある。

 まるで物語の始まりと終わりのように。

 だけどそれは人生の旅なのだ……


―人生は 旅を重ねて 出会いと別れ それを知ってて またぞ旅する―

              美空 葵 作

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ