#2出発
さて、最寄りの駅までやって来た。でも、もう、最終列車は過ぎ去った後で、あたしは時刻表を眺めながらどうしようか?と考える。
まず、宛所の無いこの旅なわけで……最終地点なんて何処にもありはしない。だから、時刻表に載っている始発の時刻を見る。
AM5時20分が、この駅での始まり。それまで何処かで時間を潰そうか?と考える。この歳で、こんな駅で寝ていたら、家出してきた子として補導されるのがオチね。見た目からして如何にも中学生だと自分でも自負できる。
こういう時、少しでも大人っぽい容姿をしていたら、問題ないのに……なんて思うけど、今更言っても仕方がない。だけどそれも事実。そしてちょっとだけ、隣のクラスの佐伯さんを羨ましく思う。
彼女は、高校生並みのプロポーションで、見かけも、考え方も大人だ。去年同じクラスになったことがあり、少しだけ会話したこともあったけど、自分と比べて大人の発言をしていた。
とかく、あたし自身、大人だと思ってた節があったから、彼女の社会批判の現実論を聴いて、あたしは彼女に負けてるなって思った。その後、会話をする機会もなくそのまま一年が過ぎ去ってしまったけれど。
そんな事を考えて、あたしは、近くに在る公園へと足を向けた。ここの公園は小さい頃からよく遊びに来ていたから、身を隠すことが出来る土管のある公園であることも知っていた。
土管と言っても、工事をする時に使うあんな物ではない。遊具としての土管である。
コンクリート製というのは同じだけど、大きく繰りぬかれていて、大人二人丸々入ることが出来るくらい広い穴。そしてその外壁は赤や青や黄色などカラフルな色をしていて横になってたり、縦になってたり。
その上には、雲梯があって、ちょっと見、小型アスレチックのようになっていたりする。
あたしはこの公園が大好きだ。ちょっと他の公園には無い遊具が一杯だったから。
滑り台も裾広がりの山のようになっていて、あたし達子供は、富士山と称していた。
その公園で、あたしは一夜を明かすため、土管の中に身を潜めた。まさかこんな所に子供が居るなんて思いもしないだろう。
土管に入ってあたしは鞄から、目覚まし時計を取り出す。そして、タイマーを五時にセットして、就寝に入った。旅立ちの第一歩の野宿。初めての体験だった。
耳元で『ジリジリ〜〜ン』というけたたましい音で目を醒ましたあたしは、まだちょっと暗い中、公園の脇にある水道で顔を洗い歯磨きをする。タオルもちゃんと準備してるし、万事朝は快調な滑り出しだ。
朝も早いし、人もいない。でも、後一時間もすると、この公園でラジオ体操に訪れる小学生達で一杯になるんだろうな〜そんな事を考えながら、あたしは、鞄を背負い、駅へと急ぎ、改札の前で切符を買ってプラットホームへと歩いた。
始発の電車はまだ着いていなかった。あたしは、ベンチに腰をかけて、周りを見渡した。人は疎らで、通勤のおじさんかなと思われる人が白線の内側で待機している様子を見た。
後は……酔いつぶれてるのか?変なおじさんを見た。後方のベンチに横になって寝ていた。あたしはこんなだらしのない大人になりたくは無いなと心の中で呟いた。あ、これって大人に対する子供の偏見かな?後で気付くまで、あたしの偏見は続く事になるんだけどね。
時間になって、電車がやって来た。プラットホームも少し人が多くなってきて、あたしは負けじと、席を確保するために前に並んだ。
他の乗客は殆ど会社勤めの方達だったようで、きっちりとスーツを着込んでる。あたしだけ何だか此処にいてはいけない者の様に感じられて、それが逆に嬉しくてちょっとだけウキウキしていた。
さて、何処に行こう?今年の夏は暑くなりそうだから、北海道にしようか?ラベンダー畑を見てみるのも一考だしなぁ〜なんて勝手な理想を思い浮かべていた。
直に東京駅に辿り着く。上野まで出ようかなと思った。そうしたら、北に向かって一直線。でも何を間違ったか、品川へと向かう山手線外回りに乗ってしまったわけだったり……こういう間違いをしてしまったのも、何かの縁かも知れないと、気のむくまま、品川駅で一旦下車し、東海道線に乗った。
新幹線に乗ったのは、何時以来だろう?小学生の修学旅行時以来の気がしたり?ワクワクしながら、席に着く。さてこれから何処に行こう?あたしは、北が駄目なら、南にしようという考えに至った。沖縄も良いなぁ〜南国って開放感ってのものを感じるし?自分の中で楽園というイメージが湧いてくる。それに心を癒してくれそうだ。
特別に疲れを感じているわけでは無いけれど、そう言うのもまたオツではなかろうか?
そんな夢心地の自分のその胸に魔の手が伸びるなんて、この時は一切考えてもいなかった。あたしはのんきにそんな事を考えていた。




