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夜空の三重奏  作者: 星河翼
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16/20

#16道後温泉

 そこから川内町に入るのは一時間後。かなりペースは速かった。坂道を対向車に気をつけながら下る。そして、眼下に平野が広がった。

 そこからまた西を目指す。なるべく大きな通りを選んであたし達は進んだ。そして、国道三十三号線に出た。

 車の往来が今までとは違って多い。大きな道に出たのだと判った。

 その道を、北上。ズンズンと進む。

 もう、松山市の端に到達していた。

「このまま、地図を北上して、どうすれば良いんや?どっかに細かい地図売っとる本屋なかろうか?」

 なんて話していると、左手に、大きな本屋を見つけた。

「おっしゃ、あそこで、地図見させてもらおうや!」

 買わずに見るのね……

 あたしは、延光のそのちゃっかり加減は、関西人のそれと同義だと思ったりした。

 って良く考えると、延光って関西弁を喋るんだよね?関西出身なのかしら?

 彼の生い立ちを知らないから、そうなのかどうなのか判らないけど、一々耳につく。関西弁。隆は標準語しか喋らないから、余計に耳に残る。

 でも、この旅で、判る事であるし、今知る必要なんて無いんだと、この勘ぐり精神を抑えた。

 本屋を出たあたし達は、真っ直ぐこの道を進む。そして、本屋で仕入れた(そこだけ書きなぐったメモ用紙)地図を頼りに、この街を探索して、ようやく道後温泉へと辿り着いたのである。


 道後温泉に着いたのは、夕方前。

 その近くの格安四千円程度のホテルに一先ずチェックインして、初めての愛媛県のお寺、石手寺を目指した。

 道後温泉から南東に位置するお寺。

 第五十一番札所『熊野山(くまのざん) 虚空蔵院(こくぞういん) 石手寺』と言うらしい。

 線香の香りが絶えずするお寺である。

 四国でも名の通っているお寺であるらしい。が、見栄え的に見ると、あたしにはどう異なってるのかさっぱりである。そして、四国霊場でも、髄一の寺宝・文化財を有する名刹らしい。 って言われてもなぁ〜?

 本堂は至ってシンプルで、階段をひょいひょい上っていくと直ぐそこにあって、あたし達は、普通にお参りをした。

 そして、国宝と言われる三重塔を見た。これって中に入れるのかしら?何て思ってあたしはのんびり外からそれを見た。塔って何のために作られたのかを知らない。全く疑問の一つである。住む訳でも無いのにさ?ね、疑問でしょ?

 そう言ったら、

象徴(シンボル)なんだよ」

 と言う言葉が返って来た。シンボルね〜昔の人が考える事ってよく判らん。ってそんな事言ってると、東京タワーの意味は?エッフェル塔は?自由の女神像は?って事にもなりかねない。色々意味があって建てられた物。である事を今更ながらに自分で納得した。

 それから、()()帝母天堂(ていぼてんどう)を見た。その中に、鬼子母神を祀る物もあった。延光もだけど、隆もそれに興味があるみたいだった。鬼子母神とは、子供を守る神らしい。男の子なのに、変なものに興味があるものだ。女のあたしにだって、まだそんな物に興味ないってのに……でも、あたしと、延光とはまた生きてきた道がちがうからか。と、この旅で気付いてたはず。生まれた環境の違いだ。

 とりあえず、安産祈願の名所?と言う事らしい。あたしにとっては、今はまだ関係の無いことだけど将来の事もあるし?なんて軽い気持ちで見ていた。

 そして、詳しく説明を見ると、妊婦さんが、堂の前にある石を持ち帰り、無事出産が終わったら、石を二つにして堂に戻すと言う事らしい。

 ふ〜ん。だから、ここに小石が一杯積み上げられているんだな〜と納得したのである。

 そんな感じで石手寺を見て歩いたあたし達は、夕焼けから、七色の空に変わりつつある空の下、道後のホテルに戻り、そのホテルにも有る温泉を利用しないことにして、お風呂の準備をした。


 歩いて此処、道後温泉の本館に辿り着く。かなりの年代もの。正月前には一斉に煤払いをするらしいけど、それでも、木造のこの建物は歴史という物を感じさせてくれる。こういうのもまた良いなと思う。

 そして、明治をイメージするガス燈が七本周りにあって、ここだけでも日本の文化を象徴しているようで趣があり、あたしはちょっと嬉しかったり。ロマンティックな気分に酔いしれたりしちゃいました。

 そして、何より、あの有名な聖徳太子も入りに来たとされている、温泉であるとか!

 歴史って凄いなぁなんて思いますよ。マジで。それも言い伝え、伝記として残ってる所などが特に!これもロマンの一つだな〜なんてね?

 そんな有名になった温泉も、時々湯が沸かない時が有ったそうで。それを考えると、残せる物を大切に思う人達の願いやら、思いと言う物は、かけがえの無いものに感じられたり。そんな事を考えた。

 (たま)の湯と、神の湯、椿の湯がある。その中でも霊の湯が観光者に人気だとかで、あたし達はどれに入るか協議をした。値は、やはり霊の湯が一番張ってて、子供が六百円する。でも、この位の出費良いよね?一時間以内、貸浴衣・お茶・せんべい、貸タオル(石けん付)であるし。至れり尽くせりである。

 あたし達は、それぞれ別行動。

 女湯は、中央に湯船があった。でも、中は近代的でちょっとだけ外観とのイメージと違って残念だった。綺麗なんだけどね?

 そして、ゆっくり体を洗い流した。もう焼けた皮膚が剥け始めている。余り擦らない様に気をつけた。だって、色が剥げた皮膚ほどみっともないもの無いじゃない?そして、時間一杯ゆっくり湯船に浸かることにした。

 周りの観光客もザワザワと、入ってきたり、出て行ったり。何とも普通に旅行をしてる観光客のように自分が感じられた。が、一風変わってるんだけどね?本当は……

 こう人が多いと、昨日みたいに頭の中にあの子の事が頭を過ぎることがない。

 なるほど。そうか……人が居るから回りを気にしてるんだ。だから、忘れてしまう。気が張ってるんだと自覚ができた。

 そして、あたしは此処の所の旅で酷使してきた脚のマッサージを湯船で行う。揉んで置くと気持ちが良い。パンパンに張っていた筋肉が(ほぐ)れて行く。でも、大分慣れてきたなと思う。この旅にも。そして、延光や隆にも。

 なんて事を思ってると、時間が来た。

 あたしは、ゆっくり湯船から上ると、貸し浴衣を身につけ、せんべいを頬張って、牛乳瓶を片手に延光達と合流した。


「さて、明日からやけど!中山から内子周りと言う事で異存なかろか?」

 ホテルに戻ったあたし達は、ご飯を摂った後、湯冷めしない内に話をした。

「それで良いと思うよ?こちらの上浮穴の方で行くと、もう、山だらけだしね?それに、高知の市内行きになってしまう。それじゃあ、延光寺に行くにはわざわざ戻らないといけないでしょ?」

 そう言うことで、誰も、昨夜決めたルート変更を言い出さなかった。

 まだ、南宇和へと向かう道も有るにはある。が、かなりな遠回り。これは流石に堪える。

 だから、もっと直線的な道を考えた。

 中山町に行く道は確かに山道だけど、それでも、遠回りよりは良いだろう。今日の川内町への山道を考えると、力が萎えるけれどもね?それだけあの坂はきつかったからである。

 そして、この旅初めての、ベッド。

 ああ、自宅を思い出すよ。スプリングがちょっと違うけど、横たわったら、寝心地が、畳の上にお布団を引いたものとは全く異なってて、懐かしい。そして、あたし達は、明日に備えて、消灯を早めにした。

 というか、皆疲れきってて、その上、気持ちの良いお湯と、ご飯で眠くて仕方なかったのだと思う。あたしは、夢見ることなくグッスリと眠ることが出来た。旅行始まって以来の快眠だ。

 明日、大変な事が起こるとも知らずに。


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