主将VS筋肉まん
翌日になって僕は恭介に言われた通りメンバー探しを開始したのだけれど、昼をすぎても1人も集められないでいた。
部活でも同好会でもない上に得体の知れない集まりに加わりたいなんて思う物好きはいないだろうし。
全く成果を得られずにため息を吐きながら購買部に来ると、真達が集まっていた。
「譲じゃねぇか。首尾はどうだよ?1人でも捕まえられたか?」
「そういう、健児は?」
「今、5杯目だ」
と、どや顔で空になった購買のオムライスの皿を見せてくる。
こいつは脳みそまで筋肉で出来ているのか、まともな会話を臨めないようだ。
こうなればクラスの男子に可愛いことで定評のある真に期待しよう。
真は校内のミスコンでエントリーしていないにも関わらず、1位を攫うという偉業を2年連続で果たしている。
だからエントリーした女子には反感を買っているが、男子には人気絶大なのである。
「真のほうは?」
「クラスの葛木さんが参加してくれるって、男の子には怖くて話しかけられないよ。」
そうだ、真は見た目は可愛い女の子で元気な性格でも極度の人見知りだった。
まぁ女子でも1人加入しただけで大きな進歩だろう。
だけどまだ僕達を入れても5人だ。あとの4人はどうしよう。
するとオムライス6杯目を食べ終わった健児が。
「ソフト部主将の関根を勧誘しようぜ。主将っていうくらいだから、強ぇんじゃね?」
と、さながら頭の上に電球を灯したようなハツラツとした様子だ。
ソフト部主将なのにも関わらず勧誘するなんて如何にも健児らしい。要するにバカである。
というわけで部活帰りの関根妃里さんを捕まえた。
「よう!関根。早速だが、俺らと野球をしねぇか?報酬はプロテインだ。」
前置きもなしに早速も何も無いだろうに。
仕方がない。何せ健児はバカだから。
しかし、関根さんの返答は意外なものだった。
「あたしを加入させたいなら勝負しようよ。健児君とあたしで。君があたしのボールを一球でも前に飛ばすことが出来たら入ったげるよ。」
予想と裏腹にかなり好戦的な関根さん。
「君って運動部の間では有名なんだよね、何せ入学当初に部活の仮入部で部活を渡り歩き、部長全員に勝っちゃうなんて異常でしょ?」
そんなことがあったのか。
最初から異常な体格だと思っていたが、どうやら健児はただの筋肉じゃないらしい。
「ほう。俺の筋肉伝を知ってなお、勝負しようってか?面白え!俺の上腕二頭筋の前に沈みなぁ!!」
本人はカッコイイと思っているであろうそんなマッスルな奇声を上げる。
考えても見れば部長陣にとっては先代の仇と言った所だろう。なにしろ入学したばかりの若輩に3年生がまともに競技し負けるなど思わなかっただろうし、それにより競技を諦めた先輩もいたらしい。
これは言わば因縁の対決だ。部長の信念と、健児のプロテインを賭けた。
「放課後第2グラウンドで待ってるからね。逃げるなよ!」
そんな捨て台詞に可憐な笑顔を向け走り去って行く関根さんを見送り、早速健児に野球のルールを教えることにした。