野球をするなら?!
放課後、今日は秘密基地集会も無く真と健児と共に帰路につこうと昇降口をでた。
グラウンドでは運動部が放課後の練習に勤しんでいるのが見える。そんな景色を眺めていると、健児が思い出したように言った。
「そういや最近恭介の姿を見ねぇな。どこ行ったんだ。」
「でも、お兄ちゃんってハマり症だけど飽きっぽいから。また違うものにハマってたりするかも。」
そんなことを話していると、噂をすれば何とやら。恭介が現れた。
「お前ら何帰ろうとしてんだよ。」
恭介から発せられた言葉には部活顧問がサボり生徒に向けるような呆れが感じられた。
「何って、今日は集会も何も無いじゃねぇか。」こちらも負けないくらいの呆れ様で健児が言い返す。
「何言ってんだよ。言っただろ、野球をするってな。これからは部活ばりにやっていくぞ。もう、試合も申し込んできた。来週の日曜にここで。相手チームは蔵間高校だ。」
場の空気が凍りつくのを感じた。第一野球をするにはメンバーが最低9人は必要だったはずだ。
「ちなみにメンバーは?」
「俺に、真。健児に譲だ。」
「あとは?」
「十分だろ。なんだ、譲は俺たちだけじゃ不安なのか?大丈夫だって、俺と真なんか中学で3年連続陸上選手だぜ。それに見ろ。健児なんかバットなんか持たずに腕振っただけでもホームラン狙えそうじゃねぇか。」
恭介は多分、いや絶対野球のルールを知らないだろう。いまの言動が物語っている。
「おいおい。いくら俺でも腕だけホームランなんてありえねぇだろ。」
珍しく健児が常識的な発言をした。いいぞ健児。そして野球の難しさでこのバカを落胆させてやれ。
「流石に俺でも腕だけじゃ2ベースヒットが限界だぜ。」
健児に期待したのが間違いだった。明らかにこいつも野球のルールを知らないな。
真が何か言うかと期待したが結局歯止めは効かずに恭介の思惑通りとなってしまった。
仕方が無いので、僕が恭介に野球を教えることにする。
「恭介、野球をするにはメンバーが最低9人は必要なんだよ。それに道具も、そこら辺はどうするつもりなのさ。」
「なっ?!9人…メンバーはお前たちの人脈に期待する。道具はもう調達済みだぜ。」
メンバーは置いとき、なぜ道具があるか不思議に思っていると、意外とすぐにその答えは見つかった。新人戦が近いはずの野球部が大会間近なのに自主トレやら基礎練習やらをしているのに気がついた。
聞くと部室荒らしに遭ったらしい。十中八九恭介だろう。なんというか、本当に申し訳ないことをした気持ちでいっぱいだ。
「やることは決まったな。まずはメンバー集めだ。老若男女問わずあと2日で9人の精鋭を集めるぜ。それじゃあ、ミッション開始だ。」
と、こんな風に春の終わりから、長い長い夏が始まったのである。