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小さな妖精姫にとって、婚約者が男に走る程度は些事である

作者: 御金 蒼

歳の差幼馴染の短編を書こうとして別のものが出来ちゃいました。




「お嬢様、ご当主様がもうすぐお戻りになられますよ」

「うん、分かった」

「流石に、お嬢様の10歳の誕生日にまで帰って来ない等と抜かしましたら、使用人一同でストライキを起こすところでした」

「ふふ、怖い怖い」


 長いベルベッド絨毯の廊下で見かける使用人の皆の顔色が、今日は明るい。良かった。


 私がこの広く美しいロココ様式のような屋敷に来たのは、まだ4歳の頃だった。

 実はソレ以前の、此処に来る前の記憶が私は曖昧だ。


 恐らく、この体にいた本来の少女。

 リンディ・フィーナ・ハンプティーは、死んでしまったのだと思う。


 死因は虐待だ。


 身体中痣と傷まみれで痩せぎすの子どもの体で目覚めたのに、子爵家のお嬢様と教えられた時は驚いた。


 さて、お察しだろうが私は転移、または憑依という体験をしている元日本人である。残念ながらどんな性別や名前職業、つまりどんな人間だったのかは覚えていない。そもそも人だったのかも怪しいな。

 ただ、日本という国である程度生きて、その国の文化に染まっていたのは確かだ。


 だから、かなり達観したお子様ではあるものの、すくすく今育てられている。


 虐待親から私を引き剥がしてくれた、14も年の離れた婚約者殿━━イリアス・ザイン・アークフォードの元で。


 イリアス様は、私に(・・)とっ(・・)ては(・・)悪い人では無い。

 肩書きだけでも、私からすればお釣りどころか、勿体なさ過ぎて気絶しそうなレベルだ。

 若くして公爵位を継ぎ、王国最強の魔術師に与えられる『筆頭魔術師』の称号を持つお方だ。

 容姿も良い。漆黒の髪と長い睫毛に縁取られた鋭い藍玉の瞳を持つ端正な顔立ち。

 魔術師は基本今にも折れそうなくらい細い者が多いが、イリアス様は高身長な上鍛えていらっしゃるので筋肉もしっかり付いている。


 そんな男なのだが、私が好ましく思ったのは、外面よりも内面の方。


 口下手で体の方が先に動く節があるため誤解されやすいが……、


『この子は俺が面倒を見る。金輪際関われば殺す! この毒親共が……ッ』


 貴族にあるまじき言葉遣いで殺される寸前だった私を救ってくれた。

 そして、屋敷に連れて来て、お医者さんを手配してくれて……。

 衣食住の保証と、この先生きていくために必要な教育の機会をくれた。


 それだけでも、私には過ぎた事で、喜ばしい事だ。


 だから、まぁ……静観した訳である。




 ━━男に走った事(浮気)について。




 それがどうした……この状況。

 誕生日のお祝いに帰って来てくれたんだろうが……この世の終わりの如く、長椅子で項垂れている大男が居る。


「イリアス様? お帰りなさい?」

「……リンディか、悪いな……久しぶりに帰って来たのに」


 困惑を隠したくとも隠せず、すぐ側まで歩いて来た私の表情は、心配の色に染まっているだろう。


「如何しました?」

「……サイラスが……」


 それは間男の名前だ。

 壁際に控えていた侍従と侍女の空気が、氷点下まで下がっているのを肌で感じ取った。


 イリアス様は、婚約者である私にも平気でサイラス様との逢瀬について語る。

 子どもだから、意味を分かってないとでも思っているんだろう。


 私が普通の10歳児では無いと、気付いていないのだ。

 此処2年ほど……サイラス様のお家に入り浸り、同棲していたようなものだし。


「━━今度、結婚するらしい」


 ……驚いた。この人捨てられたのか。


 サイラス・サンクレア様とは、一度だけ面識がある。ベージュの髪にグレーの瞳を持つ、何処にでも居そうな色彩の方だが、中性的な魅力のある優しい男性だ。

 最初、間男とは知らずクッキーを貰った。

 きっと向こうは、自分が間男になっているとは思って無かったと思う。


 イリアス様から聞いたこれまでの話を纏めてみると「好き」や「愛してる」等、直接的な言葉は無かったから。


 それでも手を繋いでお出かけや、ハグ。唇以外へのキスと言ったやや過剰な接触はあったから、「もしかして」と思う瞬間はあったかも知れない。

 ……思い出すと、気分が沈むな。


 さて、そんなサイラス様は、宰相様の第2補佐官という立場にいらっしゃる。

 結構引くて数多だ。そんな彼の心を射止めたのは、辺境伯家出身の美しい女性騎士様。


「婿に入るんだと……。それで補佐官辞めて、嫁と領地に行っちまうんだとよ」


 ポタポタと。硬そうな皮膚の、大きな手の甲に滴が落ちていくのを見た。


「俺さぁ……死ぬほどダサかったんだ」


 イリアス様はこの容姿だ。まだ私が社交デビュー出来ないせいで、婚約者の話を信じる者はほぼ居ないそうで、登城すれば男女問わず若者達からハニートラップの嵐だったらしい。

 ……何それ知らない。もっと早く教えて欲しかった。


 そんな中、同年代なのに普通に接してくださったのが、サイラス様と王太子殿下だけだったそうだ。

 特にサイラス様には庇護欲を掻き立てられて、だからアタックしまくったと言う。

 結果、かなり前から彼が女性騎士に想いを寄せていたのに純粋に応援できず、見えない所で女性騎士を牽制した事もあったそうだ。


 そして今回、サイラス様をかけて王太子殿下立会で女性騎士と決闘までしたんだとか。結果は女性騎士の勝利……というか、イリアス様をそういう風には見れないと、勝負の半ばでサイラス様がキッパリ振ったそうだ。


「二人には謝ったよ。……でもさ……、ずっとずっと、男なのに……好きだったんだ。まだ諦められなくて、悔しいんだ」


 パタパタと、涙の量が増える。


 嗚呼、私……酷い事を今されている。


 将来を約束している私の大好きな人が、私以外を好いている。そんな話を聞かされている。


 本当なら怒るべきだ。軽蔑すべきだ。罵詈雑言を吐き捨てた末に殺して、私も一緒に死んでしまっても良いかもしれない。


 なのに━━、


 貴方の頬に添える手が止まらない。

 指先に黒い髪が絡むと、胸の奥が熱くなって、唇が綻ぶ。

 顔を上げさせて私だけを映す瞳に、優越感を覚える。


 好き。

 好き。

 好き、━━━━好き。


 額に額をコツンと合わせた。


「リンディ……?」

「イリアス様、私は貴方の何ですか?」


 スラスラと出る声に、自分でも少し驚いた。

 春の風のように、滑らかで優しく出たものだから。


「大事な……だい、じ、な…………、ッ!?」


 額を離して私を見るイリアス様の目はギョッとしている。

 理解してないと思われていたのでは無く、婚約者だと忘れ去られていたのか、……道理で。


「リンディ、ちが……ごめ━━」


 侍従達に、目配せで退室してもらう。

 そしてこの人が、見当違いな事を言い始める前に、長椅子の上に私も乗った。

 宝物のように愛おしさを込めて。優しめだけれど、赤子よりも強く。

 彼の頭を抱きしめるために。

 私は優しい陽だまりになる。


「謝らないでください」


 愛おしい。貴方の甘いミントのような匂いが髪から香ると、大事にしたくて堪らなくなるの。


「頑張りましたね」


 この人は大きいから、まだ小さな私は腕が疲れる。それでも頭の後ろと、肩から背に回す腕に込める力を抜きはしない。

 貴方はとても強い人だけど、ずっとそうである必要は無い。


「辛かったですね」


 トン、トン、と。甘い蜜を流し込むように囁く。

 今は甘えて、受け止めるから。


「大丈夫ですよ」


 大好きよ。大好きなの。

 拒絶しないよ。


「私は、貴方の側におります」


 貴方が私以外を愛しても。

 ふふ、くすぐったい。背中に貴方の太い腕が、苦しいくらい力強く回されるから。

 私たちの距離が、ゼロになる。


「私だけは、貴方を見捨てません」


 結局はこうして(・・・・)戻ってくるって、信じてるから。


「私の全ては貴方の物です」


 笑え、優しく。

 貴方が安心出来るように。貴方の心が、少しでも安らぐように。


「……何で、そんな事が言えるんだ? 俺、この2年間最低だったのに……」


 もう、本当に……。綺麗で、格好良くて、可愛い人。


「だって、誕生日や……何か私が上手く出来たお祝い事の時は、こうして帰って来てくれて、抱きしめて一緒に眠ってくれるでしょう?」


 意味の深い、愛を確かめ合うような直接的な触れ合いは無い。貴方は絶対にしない。私も許さない。あってはならない。


 でも本を読んでもらって、腕の中で眠るだけなら、おやすみのキスまでなら、神様にだって許される。


「私ね、アレが大好きなんです。世界で一番、貴方の腕の中が安心するんです」


 ナイフで切り刻まれて、鞭で打たれて、薬品で爛れた酷い背中を、服越しに撫でてもらうの。


 もう痛みなんて無いのに、泣いてしまう程嬉しいんだ。胸の奥が、満ち足りるんだ。


『大丈夫だ、遠くに痛みは飛ばしてやるからな』


 微睡の中、ランプシェードに照らされる温かな記憶。

 言葉に、優しさに、救われたんだ。


「愛しております」


 つむじに一つキスを贈ると、体勢が変わった。

 イリアス様のお膝の上に乗せられて、ぎゅうっと抱きしめられるようになった。


「ごめんッ、ごめんな……。絶対にリンディ以外見ないからッ!


 ━━━━死ぬまで、死んでもッ! お前だけの俺になるからッ」


 泣き続ける貴方の耳元で「約束ですよ」と、囁いた。

 やっと心が戻って来てくれた━━と。私も涙を一筋、頬に感じた。






 後日、デビュー前ではあるものの、牽制のために彼の登城に付き添った私は『白銀の妖精姫』だなんて密かに呼ばれ始めた。そうして、ただの後見人と思われているイリアス様の元に私目当ての釣書が殺到し、彼が嫉妬に狂って王城を半壊させる事件が起きる。

 予想外だったけれど、漸く彼へのハニートラップが無くなったと、王太子殿下からの手紙に私は安堵したのだった。

軽く設定を載せます。


【主人公】

リンディ・フィーナ・ハンプティー (10歳)

子爵令嬢。長く柔らかな銀髪に淡い秘色のキラキラした大きな瞳の妖精系の美少女。

背中と両脚に古傷が多数ある。

丁寧に話すべき相手以外には事務的とも男まさりとも取れる大人びた口調。


【ヒーロー】

イリアス・ザイン・アークフォード (24歳)

公爵。黒髪に藍玉の瞳を持つ絶世の美形。

宮廷魔術師ではあるが役職は無い。が、筆頭魔術師の称号は持っている為、結構な頻度で戦場や魔物討伐に出向く。

男女問わずのハニトラのせいで、実は人間不信になりかけてた。

サイラスという男に懸想していたが、実はリンディへの想いの方が強い(※無自覚)ヤベェ男。

今後はリンディ一筋で溺愛しまくる。

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