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聖女と神官  作者: 綾瀬 律


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9/10

9.最後まで

 その日はファルが朝からバタバタしていた。

 私を抱えて階下に降りると、そっとソファに降ろす。

「少し待っていて」

 軽く頷くと体をソファの背に預けた。


 ファルが出掛けて行った。


 戻って来たファルの後ろから部屋に入って来た人を見て私は驚いた。

「お久しぶりです。セレスティア様」

 穏やかな声で言ったのは神官長だ。

「えっ…」

 神官長の隣にはマリウスもいる。ファルの顔がしてやったりと言っている。


「ファルス、用意は?」

「はい、後はベールだけです」

 ファルは私にふわりとベールを掛けた。驚いたままファルを見上げた私は頬を染める。その純白のベールは…それに今日の服も。



 思えば朝から少し変だった。今日に限って

「たまにはそういう服もいいだろう」

 そう言って取り出したのは白い寝巻きに薄い透ける布を重ねた服。

 前合わせの服の襟には繊細なレースまである。


「えっ?でも…」

 戸惑っていると

「私が可愛いセレスを見たいんだ」

 そう言って有無を言わさず着替えさせられた。


 柔らかな手触りの布は少しひんやりしていて、でもとても肌に馴染む。これはシルクか?

「セレスのか弱い肌でも大丈夫だろ?」

 顔が赤くなる。寝ている時間が長いからか、どうしても肌がカサつくのだ。嬉しい…


 なんてやり取りがあったのだ。


 ファルはにこやかに微笑むと

「式はしていなかったからな」


 そう、婚姻の届出はしていたが、式をしていなかった。だから今日、神官長を呼んだのか。きっとここの客間に簡易な祭壇を設けて…神官長に執り行って貰うのだろう。見届け人はマリウスか。


 ファルは私を抱き上げて客間の扉をくぐる。

 中は白い布で装飾された美麗な空間になっている。

「きれい…」

 思わず言葉が出る。陽の光がさして明るいその部屋は輝いているように見えた。本物の礼拝堂みたいだ。

 私が眠ったあとに用意したのだろうか。


「ふふっセレスの方がきれいだ」

 うっとファルを睨むがファルは蕩けそうに笑うばかりだ。ファルもきれいだった。淡い金色の髪は陽に照らされて私を見つめる甘やかな目は涼しげで、でもとても深い愛情を映していた。


 私のおでこにキスをすると祭壇に向かって進む。そう、お姫様抱っこでだ。神官長たちの前なので恥ずかしいが、歩けないので仕方ない。


 その後はお決まりの

 汝は…の誓い文句が神官長から問われ

「「誓います」」

 揃って答えた。

 ファルがベールを避けてそっと私に口付けをする。温かくて柔らかい唇は全てを包み込むような慈愛に満ちていた。


 私の頬を涙が伝う。泣くまいと思ったのに、ダメだ…嬉しすぎる。その涙を指で拭うと

「素敵な思い出をありがとう…」

 私は泣きながら精一杯微笑んだ。


 いつも穏やかな神官長と、表情を崩さないマリウスは私たちを静かに見守る。光でよく見えなかったが、2人の手が微かに震えていた。

 あぁ私は愛されている。聖女になって良かったとそう心から思えた。


 神官長とマリウスが帰ったあとに

「ファル、最高の式をありがとう。また大切な思い出が増えた」

 私も、そして私よりも長い時間を生きるファルにも…この日がいい思い出となるように。

 私がファルに残せるものはそれしか無いから。



 結婚式の後、緩やかに体調を崩した私は遂に起き上がれなくなった。

 それでもファルは毎日私を抱えて散歩に行く。


「今日はいい天気だね、セレス…ほら、花が咲いているよ」

「今日は雨だね、セレス。寒く無いかい?ベンチには座れないけど、雨の音も静かでいいね」

「今日は少し風が強いね。あぁ頬が冷えてる。温めてあげる」

 頷きながら景色を見てファルを見る。忘れないように、いつまでもいつまでも…その大好きな姿をこの目に焼き付けて。



 その日、散歩に行く前に

「ファル、私の部屋にある刺繍箱。持っていて欲しい」

 ファルの顔が強張った。気がついてしまったかい?

 いつもと変わらない朝、なのにいつもと違う言葉。


 ファルは気が付かないフリをして

「もちろん」

 そう答えた。


 ファルが気が付かないフリをしていることを、私が知っていても尚、ファルは知らないフリをする。

 私はファルが気が付いたことが、そして気が付かないフリをしてくれる、それが嬉しくて笑った。


 いつものベンチに腰掛ける。少しだけ空気が冷たい気がする。それでも私は毛布に包まれてファルの腕の中だから寒く無い。いや、とても暖かい。


「寒くないか?」

 私の頬をそっと撫でながらファルが聞く。

「ファルのそばはいつでも暖かい」

 そう、ファルのそばはいつだって暖かかった。私を包んでくれる腕が、撫でてくれる指が見つめる視線が…いつだって私を温めてくれた。


 そっと頭をファルの肩にもたせて見上げる。あぁファルはやっぱり素敵だなぁ…

 もっともっとそばでその顔を見たかった。もっと歳をとったファルを見たかった。色んなファルを見ていたかった。


「ファル、最後までそばにいてくれてありがとう。私は…幸せだった」

 ファルの顔がくしゃりと歪む。


「セレス、愛してる。いつまでも、いつまでも…ずっと」

 見つめ合い唇を重ねる。何度も、何度も。その温もりを忘れないようにと願いながら。



 私は毛布から手を出して力の入らない手をファルの頬に伸ばした。ファルの手が私の手の上から重ねられる。

 あぁ、ファル…愛おしいファル。ファルは精一杯の笑みを浮かべた。泣きそうな顔で、でも優しく…限りなく優しい笑顔で。

「あぁ、あったかいな。ファルのそばはいつだって暖かい。ファル…愛して……」


 手から力が抜ける。

 ファル、さようなら。もう目も見えない、温もりも声も聞こえない。最後までありがとう、ファル。

 愛してる…出会ってくれてありがとう。

 ファル…もっと一緒にいたかった。



「セレスティア…愛してる、これからもずっと、君だけを…」



 この日、森の中にはファルスの泣き声が響き渡った。




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