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聖女と神官  作者: 綾瀬 律


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10/10

10.刺繍箱と花言葉

 ある街から少し離れたとある森の中には、こじんまりとした家がある。

 森の中の静かな場所にポツンと。


 その家の周りには色鮮やかな花が咲いていた。

 そして少し先には開けた場所がある。床はふかふかした苔で、ベンチが一つ。

 そしてベンチから見える場所には青い可憐な花が咲いている。花弁の真ん中は紫のきれいな花だ。


 1人の男性がそのベンチに座った。そして青い花を見つめる。

「セレス、綺麗に咲いたよ…君の好きな花だ。見ているかい?私はずっと忘れないよ。君が忘れることを願っても、私は決して忘れない」


 静かに語りかけるようなその声はほんの少し震えていた。その頬に涙が流れる。

「ふっまだ無理だよ、セレス。どうして…」



 *****



 私は神殿から持って来た刺繍箱を開ける。元々刺繍は刺したことがない。聖女になってから手慰みで始めた。

 最初はファルに贈る為。その後は家族とお世話になった人に、そして最愛の人に。


 きっと私を忘れて幸せになってと言っても聞かないだろうから。ならば忘れないように残そう。


 キッカケは何だったか。ふと抜けた髪の毛を見て思った。使えるか、と。

 で試しに使ってみたが細くて切れてしまった。ならば重ねどりでどうかと試せばいい感じになった。


 聖女の髪には神聖力が宿る。少しでも守りになれば、そんな思いで作り始めた。

 始めはファルを遠ざけた時。私の我儘に付き合わせてしまったお詫びだ。


 望んでないわけじゃない。それでも私はファルの自由を奪いたくなかった。今思えばきっとその時にはもう私にとって特別な存在だったのだろう。


 刺繍するのは女神にまつわるものか花だ。私は借りた本で花言葉を調べる。

 いくつかの花と花言葉を書き留めて刺繍箱に入れる。時間を見つけては刺した。


 集めた髪の毛は徐々に薄くなっていく。最初は濃い金色だったが、最後の方は淡い金色だ。重ねるとグラデーションがきれいだ。


 還俗してからも時間を見つけては刺繍を刺した。ファルがいない時を見計らって。

 どの花にするか。書き留めた中から選んだ。これとこれと…後はこれがいい。今の私たちにぴったりだ。


 それぞれ違う花。

 私は口下手だから自分の想いを言葉で上手く伝えられない。代わりに刺繍に想いを託した。

 ファルは分かってくれるだろうか。分かってもらえなくてもいい。私が知っていれば。


 刺繍した花の花言葉は

「愛しい人」「変わらぬ愛」「献身」

 そして

「生涯を共に」

 私の愛が伝わりますように…

 そして消えないように保存の守りをかけた。どうかファルを見守ってくださいと願いを込めて。


 2人で過ごした幸せな時間を胸に一針ひと針。そうして私の想いを込めたハンカチはなんとか完成した。

 最後の方は指が動かなくて少しガタガタしてしまった。それも私だ。きっとファルなら笑って許してくれる。




 寝ている時間は色んなことを考える。時間ばかりあるのに、何も出来ないから。殆ど寝たきりになってからは全てをファルに頼っている。


 食事も入浴も着替えも何もかもだ。ファルは嫌な顔どころか

「聖女時代にできなかったので、本望です」

 そう言って笑った。実際にその手際は見事で楽しそうにしていた。


 こんな最後も悪くない、そう思えた。




 それでもやっぱり夜になると恐怖が襲ってくる。ファルが寝ている間に私が死んだら?最後に伝えたい言葉を何も言えなかったら?

 暗闇が怖くて、でも言えない私に気が付いたファルは少し絞った灯りをつけてくれた。


 そんな薄氷を踏むような時間を超えたある朝、あぁついに。悟ってしまった。

 私の命はもう間も無く尽きると。


 家族と過ごした街を思い出した。お兄ちゃんや弟とケンカしたこと。お父さんに頭を撫でられたこと。お母さんに抱きしめられたこと。

 聖女になると分かった時の家族の顔もありありと思い出せる。


 見送る時のお父さんとお母さんの泣きそうな顔が思い出されて申し訳なくなる。お兄ちゃんと弟の顔も。きっともう立派な大人になって、もしかしたら子供もいるのかな。


 心配かけまいと連絡を絶っていたから、後で知って泣かせてしまうかもしれない。先立つ不幸をお許しください。それでも私に後悔はないから。


 そしてファルとの出会いを思い出す。慇懃な態度を崩さなかったファル。それでも私に寄り添ってくれた最愛の人。

 遠ざけることでしか想いを伝えられなかった私の元に戻って来てくれた。


 女神様、後少しだけ…ほんの少しでいいから時間を下さい。


 ファル、愛するファル。

 間も無く私の命が尽きると気が付いて、だからこそ最後まで笑ってくれたファル。ありがとう…最後に見た君の笑顔を忘れないよ。例えこの体が亡くなっても、魂の記憶に留めよう。



 手から力が抜ける。いよいよ、か…

 さようなら…ファルス、また会う日まで。


 刺繍した花の花言葉はね…





 その日、ある国の空に眩い光が立ち昇った。優しい光はゆらゆらと揺れながら、やがて空高く消えた。




 ―ファルス、今まで本当にありがとう。出会えてよかった。私はファルスのそばにいられた時間が宝物で、何にも変え難い宝物だった。また必ず会える、そう信じているよ。この手紙は刺繍箱の底に隠しておく。古語だからきちんと翻訳して欲しい―




 最後の言葉は自然と口をついて出た。

「あぁ、あったかいな。ファルのそばはいつだって暖かい。ファル…愛して…る」

 そう、過去形になんてしない、これからも変わらず愛してるよ…ファル。





 ハンカチに刺繍された花の花言葉は

「愛しい人」「変わらぬ愛」「献身」

 そして

「生涯を共に」




 完

セレスティア視点のお話でした…



*読んでくださる皆さんにお願いです*


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