表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女と神官  作者: 綾瀬 律


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/4

1.聖女になった

神官と聖女の聖女版(聖女視点)です



 ある街から少し離れたとある森の中にはこじんまりとした家がある。

 森の中の静かな場所にポツンと。


 その家の周りには色鮮やかな花が咲いていた。

 そして少し先には開けた場所がある。床はふかふかした苔で、ベンチが一つ。

 そしてベンチから見える場所には青い可憐な花が咲いている。


 1人の男性がそのベンチに座った。そして青い花を見つめる。

「セレス、綺麗に咲いたよ…君の好きな花だ。見ているかい?私はずっと忘れないよ。君が忘れることを願っても、私は決して忘れない」


 静かに語りかけるようなその声はほんの少し震えていた。その頬に涙が流れる。

「ふっまだ無理だよ、セレス。どうして…」



 *****



 私は15才の時、聖女の代替わりの為に神殿で魔力を調べた。

 この国では常に3人の聖女が女神様の僕として仕え、女神様はこの国を守る。なので聖女はこの国を守る尊い人、そう誰もが教わる。


 僕もお母さんから聞いた。お兄ちゃんも一緒に聞いて

「聖女様って凄いんだね!」

 とお兄ちゃんが言った。

 僕は聖女って大変って思った。


 まさかその僕が聖女に選ばれるなんて思わなかった。だって僕は男だから。

 聖女は称号であり職業名だから、性別は関係ない。確かにそう聞いた記憶はある。あるけど、聖女だよ?女の人だよね?

 なのになんで僕なの?


 神殿で僕に神聖力があるって分かった時、お母さんもお兄ちゃんも複雑な顔をしていた。弟だけは

「セル兄ちゃん凄い」

 って喜んでた。


 僕はちっとも嬉しくなかった。だって僕は家族から離れて王都に行かなければならない。まだたくさんお兄ちゃんとか弟と遊びたかったし、勉強だってしたかった。


 後何年かしたら結婚して子供もできて、そんな当たり前が来るって思っていたのに、僕にはそんな当たり前は無くなった。


 聖女は神殿で暮らす。代替わりするまでずっと。それ以外の道は途絶えてしまった。

 多分、それが分かったからお母さんとお兄ちゃんは微妙な顔をしたんだと思う。

 お父さんが帰って来てから話をしたら、やっぱり微妙な顔をした。


 少なくとも10代は間違いなく神殿で終わる。清らかな子女が選ばれると神官の人に言われた。全く嬉しくない。

 そんな気持ちを持て余して、その日はよく眠れなかった。

 目が冴えて、喉が渇いたから部屋を出た。


 ん?灯りが…?

 そっと覗くと居間にお父さんとお母さんがいた。そしてお母さんが泣いていた。

「なんで、あの子が…男の子なのに、聖女なんて」

「あぁ、なんでこんな事に。あの子はまだ15才だ。なのにここから遠く離れた王都の神殿で暮らすんだ」

「帰ってくるわよね?」

「分からない…しかも男性の聖女は殆どいない」

「そんな…」

「風当たりが強くなければいいが」


 僕はそっと部屋に戻った。

 やっぱり男の聖女なんて珍しいんだ。いじめられるのかな?

 僕は憂鬱になってやっぱり眠れなかった。


 その翌日から神殿で聖女についての勉強が始まった。聖女について、その役割や歴史。神聖語の勉強も。

 儀式のやり方とかお祈りの仕方、そして神聖力の譲渡の作法。


 全てを覚える為に、どんどん詰め込まれる。

「聖女様になるのです。この程度は問題ありませんよね!」

 神官は年配の男性で、かなり厳しかった。だから僕は怖くて萎縮した。


「聖女様になるのにそんな卑屈では困ります!胸を張って!!」

 …それを妨げてる元凶に言われても自信なんて付かない。むしろ自信をへし折る為に教えてるんじゃないかって思うくらい厳しかった。


 僕は毎日へとへとで、家に帰ると泣いた。でも僕が泣くと家族は困る。そう気が付いてからは夜、ベッドの中で泣いた。狭いけど自分の部屋があったから。

 周りに聞こえないように声を殺して泣いた。


 泣いて寝るから朝は目が腫れてる。すると神官が

「なんと情けない顔をしているのですか!」

 言葉は丁寧だけど怖い。悔しくて、でも誰にも頼れなくて必死に頑張った。


 僕は段々と表情を無くして、1ヶ月に及ぶ勉強が終わる頃には神聖語は古語まで読めるようになった。

 それは女神様の加護によるみたいで、習得も早い。


 ただ、その加護は人それぞれで、僕の加護は他の人より強いと分かるのは随分後の事だ。

 その僕ですらボロクソに言われたのだから、あの神官は相当意地が悪いんだと思う。


 あの神官とは別に王都の神殿から迎えの神官が来た。その人は僕に目線を合わせて

「聖女様をお迎えか上がりました。明日、出発です。私物は一切持ち込めませんので、御身一つで大丈夫です」

 この人は優しそうだ。


 元の神官に迎えの神官が

「学習はどんな状況ですか?」

 と聞くと苦笑して

「最低限です」

 あんなにがんばったのに。僕はまた泣きそうになった。


 迎えの神官は

「大丈夫です。女神様の加護がありますから。後は日々の生活で慣れます。心配しないで」

「甘やかして恥をかくのはこの子だ」

 意地悪な神官は反論した。


「この子ではありません。聖女様です。我々は聖女様の優劣を決める立場にありません。口を慎みなさい」

 僕がおろおろしていると

「大丈夫。私が同行します」

 優しく微笑んでくれた。


 こうして僕は家に帰った。

「明日、出発する」

 お母さんの目に涙が溜まった。

「もう…?」

 頷く。


 その日の夜は僕の好きな食べ物が並んだ。

 神殿に入ったら食べられないものばかりだ。卵も肉も魚も…。僕は涙が出て止まらなかった。


 その日はお父さんがお湯を貰ってきて、お兄ちゃんと弟と体を流した。小さな手で弟が背中を擦ってくれる。強い力でお父さんが耳の後ろを洗ってくれる。お兄ちゃんは優しく手を洗ってくれた。


 そして夜はお兄ちゃんと弟とくっついて寝た。あったかいなぁ。もうこんな日は来ないんだって思ってやっぱり悲しかった。

 神殿でのお勤めが終わったらもう20代だ。お兄ちゃんも弟も結婚してるだろう。


 僕が帰る場所はもうない。それがとても悲しかった。思い出も何もかも、持ち出すことはできないから。

 翌朝、静かな朝食が終わると迎えの馬車が来た。

 僕は忘れないように、みんなの顔をしっかりと胸に刻んで神殿の馬車に乗った。


 お母さんもお父さんもお兄ちゃんも弟もみんな馬車が見えなくなるまで手を振ってくれた。

 僕は泣かなかった。だって僕は聖女だから、もっと大きなものを背負わなくちゃいけないから。


 それに僕が頑張れば、みんなが幸せでいられる。だから僕は弱音なんかはかないで、頑張るよ!


 育ててくれてありがとう。多分もう戻ることのない故郷の景色を、僕は馬車の窓からしっかりと目に焼き付けた。



 1ヶ月の馬車の旅を終えて、その日、王都にある中央神殿に着いた。

 旅に出てから、僕は聖女の服を着ている。白を基調とした前合わせのくるぶしまである服で、裾と袖、襟に金糸の刺繍が入っている。その下に首元を覆うような膝下丈の肌着を着て、下は裾が広がったゆったりしたパンツだ。腰は紐で縛っている。

 そして頭から足元までをすっぽりと覆うベール。


 中からは見えるけど、外からは僕の顔が見えないらしい。偏光素材って言うんだとか。

 聖女は一部の人にしか顔を見せない。神殿のトップである枢機卿、神官長、そして聖女付きの神官意外は。

 他の人には顔を見せちゃダメと言われた。


「聖女様。これからあなたは神殿の中でも女神様にお仕えします。あなたの個人としての存在は秘匿され、その名も聖女様である間は捨てて下さい。あなたは個人ではなく、聖職者となるのです」

 親から貰った名前は捨てなければならない。


「そして、道中にお話をした通り、言葉遣いに気を付けてください。あなたは我々の誰よりも位が高いのです。分かりましたか?」

「…理解した」

 満足そうに笑う。


「あなたは第一聖女様としてアウレリア様へ神聖力の譲渡を行います。到着したらすぐ、女神の間へ向かいます。内宮を通って内殿へ、そこに女神の間があります。あなたに付く神官の名前はファルスです。移動には聖騎士が2名付きます。儀式のやり方は覚えていますね?」

「覚えている。女神の間に入るのは先頭が聖騎士。次いで私。私は中央にある女神様の像の前に立ち、まず膝をつく」


「膝のつき方は?」

「片膝」

 頷くと

「そうです。男性の聖女様は片膝、女性の聖女様は両膝です。それから?」

「そこで十字を切って挨拶をし、そのまま壇上に上がる。そこで両膝をついて手を重ね…」

「重ね方は?」

「左手が上に両手を重ね、女神像の御御足おみあしに触れる」


「触れてからは?」

「神聖力を女神様へ注ぐ」

 軽く手を叩くと

「素晴らしいです。しっかりと覚えましたね。緊張すると思いますが、過去の聖女様たちは女神様の前に行くと不思議な心地がしたといいます。なので大丈夫ですよ」


 不安はあったが、もうなるようにしかならない。神殿に馬車が着いた。()は少し待ってから、促されて馬車から降りた。

 そう、聖女は()なんて言ってはいけないのだ。

 玄関にはすでに2人の聖女がいた。身が引き締まる思いだ。


 聖騎士に先導されるままに進む。私は聖騎士の後ろだ。少し後ろから迎えに来た神官が付いてくる。私の後ろに2人の聖女が続く。序列第一位の聖女、それがこんな所でも垣間見えた。


 外殿と呼ばれる区画を通り過ぎて渡り廊下を通った。内宮をさらに進み内殿に入る前に

「私はここまでです。聖女様、行ってらっしゃいませ」

 神官は両手を合わせて深く頭を下げた。

 私は頷くと先導する神官に付いて内殿を進み、大きな両開きの扉の前に着いた。


 女神の間だ。

 本当だ、不思議な感覚。初めてなのに懐かしい。ここで待っておられたのですね…女神様。

 扉が開く。私は中に入った。途端に光が部屋に溢れたような気がした。

 両側に2人の聖女が並んだことを確認して前に進む。部屋の真ん中あたりで膝を付いた。


 空気が緊張する。

 やはりか…私はベールの中で目の端に捉えた神官が息を呑んだのを見た。

 そして十字を切るとまた光が部屋を満たす。


『良く来た…』


 私は女神様に祝福されている。それが分かった。光が収まるとその体勢で壇上に上がり、手を重ねて女神様の御御足おみあしに触れる。

 途端に体の中から何かが引き摺り出される感覚があった。あ、体に力が入らない。


 そしてゆっくりと床に向かって上体が傾くのが分かった。そしてやはり目の端であの神官を捉えた。

「第一聖女様!」

 声が聞こえた気がする。

 朦朧とする中で、しっかりとした腕に抱き起こされたような、そんな気がした。


 私は男の聖女だけど、それでも受け入れてもらえるのだろうか?


 女神の間で私が片膝を付いた時の反応が、好意的ではなかった…気が付きたくなかった。

 私を抱き起こしてくれた神官は私付きの神官だろうか?


 私付きの神官は私を、男の聖女を受け入れてくれるだろうか?




シリーズ化しました!

こちらだけを読んでも大丈夫ですが

『神官と聖女』

を先に読むことをお勧めします



*読んでくださる皆様へ*


面白いと思って貰えましたら、↓の☆から評価、いいねやブックマークをよろしくお願いします!


評価は特に嬉しいです♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ