表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/110

第95話 深層への旅立ち


朝が来た。


窓の外が、明るくなっている。結局、ほとんど眠れなかった。夢の光景が、頭から離れなかったから。


剣の墓場。


宙に浮く、五本の剣。


『——俺たちは、剣になった——』


「……」


私は、ベッドから起き上がった。


体が重い。疲労が、まだ残っている。でも——今日は、出発する日だ。休んでいるわけにはいかない。


顔を洗い、装備を整える。空虚の剣を腰に下げる。治療薬を確認する。残り——15本。足りるだろうか。いや、足りなければ途中で補充すればいい。


部屋を出た。


廊下には、すでにリオンたちが集まっていた。


「おはよう、セリア」


エレナが微笑んだ。


「……おはよう」


私は答えた。


エレナは——そこにいた。確かに、そこに。昨夜、部屋で見た姿と同じ。生きている。


「よく眠れたか?」


リオンが尋ねてきた。


「……ああ」


嘘をついた。


「……よく眠れた」


リオンは——何も言わなかった。ただ、少しだけ私を見つめていた。まるで、何かを見透かすように。


「じゃあ、行くか」


ケインが言った。


「準備はできてる」


「私も」


ルナが頷いた。


「……ゼノは」


私が尋ねると、階段から足音が聞こえてきた。


「おう、待たせたな」


ゼノが現れた。


いつも通りの、ゼノ。笑顔で、大剣を腰に下げている。


「……」


私は——彼を見つめた。


ゼノは、そこにいる。


確かに、そこに。


生きている。


「どうした、セリア?」


ゼノが不思議そうに私を見た。


「……何でもない」


私は首を横に振った。


「……行こう」


-----


宿を出た。


街は、朝の光に包まれていた。人々が、ゆっくりと動き始めている。市場に向かう人、井戸で水を汲む人、子供と手を繋いで歩く人。


平和な、日常。


私たちは——その中を歩いた。


街の端へ。


そこには——階段があった。


下へ続く、階段。


301階層へ。


「……ここから先は」


リオンが言った。


「——もう、引き返せない」


「みんな、覚悟はいいか?」


「ああ」


ケインが頷いた。


「もちろん」


エレナも頷いた。


「当然だ」


ルナも。


「俺も」


ゼノも。


「……私も」


私も、頷いた。


「……行こう」


リオンが先頭に立った。


「では——出発する」


私たちは——階段を下り始めた。


一歩、また一歩。


街の光が、遠ざかっていく。


そして——暗闇の中へ。


-----


301階層。


階段を下りると、そこは広い通路だった。


天井が高く、壁には古代文字が刻まれている。松明の光が、オレンジ色の影を作り出している。


「……ここからだな」


リオンが呟いた。


「気を引き締めていこう」


私たちは——通路を進んだ。


六人で。


リオンが先頭。その後ろにケイン。次にエレナ。ルナ。ゼノ。そして、私が最後尾。


足音が、静寂の中に響く。


六人分の、足音。


「……」


私は——前を歩く仲間たちの背中を見つめた。


リオンの広い背中。ケインの軽やかな動き。エレナの金髪。ルナの銀髪。ゼノのがっしりとした体格。


みんな、そこにいる。


確かに、そこに。


でも——。


昨夜の夢が、頭をよぎる。


剣の墓場。


五本の剣。


『——俺たちは、剣になった——』


「……違う」


私は小さく呟いた。


「……夢だ」


「……ただの、夢」


「セリア?」


ゼノが振り返った。


「何か言ったか?」


「……いや」


私は首を横に振った。


「……何でもない」


ゼノは——少し心配そうな顔をした。だが、何も言わずに前を向いた。


私たちは——また歩き出した。


-----


302階層。303階層。


階段を下り続ける。


モンスターは、まだ現れていない。静寂だけが、支配している。


「……おかしいな」


ケインが呟いた。


「モンスターが、いない」


「ああ」


リオンも頷いた。


「300階層から先は、Sランクのモンスターが普通に現れるはずなんだが——」


「……警戒しよう」


エレナが言った。


「何か、あるかもしれない」


私たちは——剣を抜いた。


六人とも。


いつでも戦えるように。


304階層。305階層。


やはり——モンスターは現れない。


不気味なほどの、静寂。


「……何かが、おかしい」


ルナが静かに言った。


「この静けさは——異常だ」


「……」


私も、そう思った。


300階層より先は、地獄だとリオンは言っていた。Sランクのモンスターが普通に現れる、と。


でも——今は、何もいない。


まるで——。


まるで、私たちを待っているような。


「……行こう」


リオンが言った。


「立ち止まっていても、仕方ない」


私たちは——また歩き出した。


-----


306階層。


階段を下りると、そこは広間だった。


円形の広間。天井が見えないほど高く、壁には無数の古代文字が刻まれている。


そして——中央に、何かがあった。


「……あれは」


ゼノが呟いた。


台座だ。


巨大な、石の台座。


その上には——青白く光る結晶が置かれていた。


「……結晶」


ケインが台座に近づいた。


「260階層で見た、あの結晶だ」


「……ああ」


私も頷いた。


確かに、同じだ。


「触ってみるか?」


エレナが尋ねた。


「……いや」


リオンが首を横に振った。


「下手に触らない方がいい」


「罠かもしれない」


私たちは——台座を迂回して、次の階段へ向かった。


だが——その時。


結晶が、光り始めた。


「……!」


私たちは立ち止まった。


青白い光が、結晶から溢れ出す。


そして——。


映像が、空中に浮かび上がった。


「……何だ、これは」


ゼノが呟いた。


映像には——剣が映っていた。


無数の剣。


床に突き刺さっている剣。壁に突き刺さっている剣。宙に浮いている剣。


「……」


私は——その映像を見つめた。


見覚えがある。


昨夜の夢で見た、あの光景。


剣の墓場。


「……これは」


リオンが呟いた。


「……何なんだ」


映像が、切り替わった。


今度は——人が映っていた。


冒険者たちだ。


深層を進んでいる。


そして——モンスターと戦い、傷つき、倒れていく。


倒れた冒険者の体が、光に包まれる。


そして——剣だけが、残る。


映像は——それを繰り返し映していた。


人が死ぬ。


剣が残る。


また人が死ぬ。


また剣が残る。


延々と。


「……」


私たちは——言葉を失っていた。


映像が、消えた。


結晶の光も、弱くなった。


静寂。


「……あれは」


エレナが震える声で言った。


「……警告?」


「……いや」


リオンが首を横に振った。


「……記録だ」


「過去の、記録」


「……」


私は——結晶を見つめた。


昨夜の夢は——夢ではなかったのか。


あの剣の墓場は——本当にあるのか。


「……行こう」


リオンが言った。


「ここにいても、仕方ない」


私たちは——次の階段へ向かった。


だが——心の中では、不安が募っていた。


-----


307階層。308階層。309階層。


階段を下り続ける。


やはり——モンスターは現れない。


静寂だけが、続いている。


「……気味が悪いな」


ケインが呟いた。


「本当に、何もいない」


「……」


私は——前を歩く仲間たちを見つめた。


リオン。エレナ。ケイン。ルナ。ゼノ。


みんな、そこにいる。


確かに、そこに。


でも——。


何かが、おかしい。


何かが——違う。


でも、それが何なのか、分からない。


「セリア」


ゼノが私を振り返った。


「大丈夫か? さっきから、ずっとボーッとしてるぞ」


「……ああ」


私は頷いた。


「……大丈夫だ」


「無理するなよ」


「……ああ」


私は——また前を向いた。


だが——心の中では、不安が募っていた。


昨夜の夢。


剣の墓場。


五本の剣。


『——俺たちは、剣になった——』


その声が——何度も、何度も、頭の中で響いていた。


そして——306階層で見た映像。


無数の剣。


死んでいく冒険者たち。


残される剣。


「……」


私は——自分の剣を見下ろした。


空虚の剣。


この剣も——いずれ、あの墓場に行くのだろうか。


私が死んだら。


「……」


考えないようにした。


今は——ただ、前へ進むだけだ。


-----


310階層。


また、広間に出た。


そこには——何もなかった。


転移装置も、台座も、何も。


ただ——空っぽの広間。


「……転移装置が、ない」


ケインが呟いた。


「……ああ」


リオンも頷いた。


「300階層から先は——もう、転移装置はない」


「……つまり」


エレナが言った。


「……地上には、戻れない」


「……そういうことだ」


リオンが頷いた。


私は——息を呑んだ。


「……戻れない?」


私は呟いた。


「……一度、地上に戻ろう」


「装備を整えて、治療薬を補充して——」


「無理だ、セリア」


リオンが私を見た。


「もう、戻れない」


「300階層から先は——一方通行だ」


「……でも」


私は言葉を続けようとした。


だが——リオンが首を横に振った。


「諦めろ」


「進むしか、ない」


「……」


私は——みんなを見た。


エレナ、ケイン、ルナ、ゼノ。


みんな——黙っている。


「……本当に、戻れないのか」


私はゼノに尋ねた。


「……ああ」


ゼノも頷いた。


「俺も、リオンから聞いた」


「300階層から先は、転移装置がない」


「一度進んだら——もう、戻れない」


「……」


私は——自分の治療薬を確認した。


残り——15本。


これで、どこまで行けるのか。


「大丈夫よ、セリア」


エレナが微笑んだ。


「私たち、一緒にいるから」


「……ああ」


ケインも頷いた。


「一人じゃない」


「……そうだ」


ルナも静かに言った。


「一緒に、行こう」


私は——みんなを見つめた。


リオン。エレナ。ケイン。ルナ。ゼノ。


みんな、そこにいる。


確かに、そこに。


「……分かった」


私は頷いた。


「……進もう」


リオンが笑った。


「それでこそ、セリアだ」


「では——行くぞ」


私たちは——次の階段へ向かった。


もう、戻れない。


進むしか、ない。


一歩、また一歩。


深層へ。


そして——真実へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽しんでいただけましたら、 感想・ブックマーク・アクションをしていただけると励みになります。
― 新着の感想 ―
>「300階層から先は——一方通行だ」 と、言っている一方で >「300階層から先は、地獄だ」 93話で300階層から先の話をしている。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ