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第53話 鋼鉄の試練


ハンマーが、振り下ろされた。


巨大な鉄塊が、空気を裂いて落ちてくる。


私は——横へ跳んだ。


ハンマーが、地面を砕いた。


轟音。


石畳が砕け散る。破片が飛び散る。そして——衝撃波。


目に見えない力の波が、私を襲う。


身体が浮く。吹き飛ばされる。


壁。


背中が壁に叩きつけられた。鈍い衝撃。肺から空気が押し出される。


「——っ!」


声にならない呻き。


床に落ちる。膝をつく。


痛い。


背中が、肩が、全身が——痛い。


アイアンゴーレムが、こちらを見ている。


顔のない顔で。


のっぺらぼうの頭部が、私の方へ向いている。


圧倒的な存在感。


体高4メートルの鋼鉄の巨人。


両手のハンマー。それぞれが、人間大。


私は——歯を食いしばって立ち上がった。


剣を構える。


ゴーレムが、再び動く。


ハンマーが横から薙ぐ。


私は伏せる。ハンマーが頭上を通過する。風圧で髪が舞う。


すぐに立ち上がる。


ゴーレムへ駆ける。


身体が——知っている。


この敵を。


弱点の位置を。


胸。


鋼鉄の胸部に刻まれた、魔法陣のような紋様。


あれが——弱点。


私は、ゴーレムの懐へ潜り込もうとした。


だが——


ゴーレムの蹴りが飛んできた。


「——っ!」


剣で受け止める。金属の激突音。火花。


でも——力が違いすぎる。


私の身体が、再び吹き飛ばされる。


地面を転がる。背中が、腕が、擦り剥ける。


肩の傷が開く。痛みが走る。血が滲む。


「……一人は、きつい」


呟きが、口をついた。


ゴーレムが、ゆっくりと近づいてくる。


重い足音。


ドン。ドン。ドン。


私は——立ち上がった。


剣を握り直す。


まだ、戦える。


戦うしか——ない。


-----


ゴーレムの攻撃が、連続する。


ハンマーの振り下ろし。


避ける。


横薙ぎ。


しゃがむ。


体当たり。


横へ跳ぶ。


全ての攻撃を、避け続ける。


身体が覚えている。この敵の動きを。攻撃のパターンを。


でも——反撃の隙がない。


ゴーレムの攻撃は遅い。だが、範囲が広い。一撃が重い。


避けるだけで精一杯だ。


体力が、削られていく。


呼吸が荒くなる。足が重くなる。


「このままでは……」


そう思った時——


ゴーレムのハンマーが、再び振り下ろされた。


私は、柱の影へ飛び込んだ。


ハンマーが、柱を直撃する。


石の柱が、粉々に砕け散る。


瓦礫が降り注ぐ。


私は腕で頭を守る。


石の破片が、身体に当たる。痛い。


でも——


隙だ。


ゴーレムの体勢が、一瞬崩れている。


私は、瓦礫の中から飛び出した。


ゴーレムの胸へ。


剣を振るう。


胸の紋様へ。


一閃。


剣が、紋様に当たった。


火花が散る。


金属と金属の激突音。


でも——


傷は、浅い。


紋様に、微かな傷がついただけ。


ゴーレムが、咆哮した。


金属の軋むような、耳を劈く音。


怒り。


ゴーレムの動きが、速くなった。


ハンマーが、連続で振り下ろされる。


私は、必死で避ける。


右へ。左へ。後ろへ。


一撃でも受ければ——死ぬ。


その確信があった。


「……一撃では、無理か」


呟く。


何度も、弱点を斬る必要がある。


でも——それだけの隙を、どうやって作る?


一人で。


この巨人と戦いながら。


-----


その時——記憶が、蘇った。


「弱点は胸だ! 何度も斬れ!」


誰かの声。


リオン?


「引きつける!」


別の声。女性の声。


誰?


「今だ!」


また別の声。


私は——混乱した。


戦闘の最中なのに、記憶が流れ込んでくる。


5人で、戦っている。


このゴーレムと。


リオンが前衛で引きつけている。誰かが側面から攻撃している。誰かが後方から支援している。


そして——私が、弱点を斬っている。


一人じゃない。


5人で。


でも——


今は、一人だ。


「……一人じゃ、無理だ」


その言葉が、自然と口をついた。


でも。


「お前なら、できる」


リオンの声が、聞こえた気がした。


幻聴?


記憶?


わからない。


でも——その声が、力になった。


私は、剣を握り直した。


「……やるしかない」


ゴーレムが、再びハンマーを振り上げる。


私は——動いた。


わざと、ゴーレムの正面へ。


ハンマーを誘う。


ゴーレムが、ハンマーを振り下ろす。


私は——ギリギリまで引きつけて。


横へ跳んだ。


ハンマーが、地面を砕く。


ゴーレムの体勢が崩れる。


大振りの隙。


今だ。


私は、全力で駆けた。


ゴーレムの胸へ。


剣を振るう。


紋様へ。


一撃。


火花。


二撃。


亀裂が入る。


三撃。


亀裂が広がる。


ゴーレムが咆哮する。


ハンマーが横から迫る。


避けられない。


私は——剣を盾のように構えた。


ハンマーが、剣に当たる。


衝撃。


身体が吹き飛ぶ。


地面を転がる。何度も。何度も。


止まる。


痛い。


全身が、悲鳴を上げている。


でも——


私は、立ち上がった。


剣は、折れていない。


空虚の剣は、無傷だ。


ゴーレムの胸を見る。


紋様に、亀裂。


あと一撃。


あと一撃で——倒せる。


ゴーレムが、こちらへ歩いてくる。


動きが、少し鈍い。


ダメージを受けている。


私は——最後の力を振り絞った。


駆ける。


ゴーレムもハンマーを振り上げる。


同時。


私とゴーレムが、同時に動く。


ハンマーが振り下ろされる。


私は——その下を滑り込んだ。


ゴーレムの懐へ。


剣を、胸の紋様へ。


全力で。


突き込んだ。


剣が——紋様を貫いた。


ゴーレムの動きが、止まった。


咆哮が、途切れる。


そして——


崩れ落ちた。


巨大な鋼鉄の身体が、地面に倒れる。


轟音。


床が揺れる。


沈黙。


戦闘終了。


-----


私は——地面に膝をついた。


剣を杖のようにして、辛うじて倒れないでいる。


疲労困憊。


全身が痛い。


肩の傷が悪化している。血が、服を染めている。


背中、腕、脚——全てに打撲。擦り傷。


呼吸が、荒い。


「……きつい」


呟きが、空間に溶ける。


一人での戦闘。


その限界を——実感した。


このまま進めば——


いつか。


死ぬ。


その予感が、確信に変わりつつあった。


でも——


「進むしかない」


その言葉も、同時に浮かんだ。


矛盾している。


進めば死ぬ。


でも、進むしかない。


私は——何をしているんだ?


答えは、出なかった。


-----


私は、ゆっくりと立ち上がった。


自分の状態を確認する。


重傷ではない。


でも——消耗が激しい。


このまま進めば、次の戦闘で——


「……一旦、戻るか」


その判断が、自然と下された。


転移石を取り出す。


手に、小さな石を握る。


でも——


迷った。


地上へ戻れば——


あの視線。


ギルドでの囁き。


「ダリウスを殺した」


「人殺し」


あの目。


恐怖と、非難と、同情が混じった——あの視線。


「……」


でも、このままでは戦えない。


治療が必要だ。休息が必要だ。


私は——転移石を握りしめた。


「……戻る」


決断する。


光が、私を包んだ。


171階層が、遠ざかっていく。


アイアンゴーレムの残骸が、小さくなっていく。


そして——


視界が、白く染まった。

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