第126話 文字の部屋
通路を抜けると、私たちは356階層へと辿り着いた。
そこは——また、奇妙な場所だった。
小さな部屋がいくつも連なっている。
まるで——迷路のように。
「……複雑だな」
ゼノが呟いた。
「ええ。迷わないように気をつけないと」
エレナが答えた。
私たちは慎重に進み始めた。
部屋から部屋へ。
通路から通路へ。
全てが——似たような造りをしている。
「……目印を残した方がいいな」
リオンが言った。
彼は剣で壁に印をつけた。
簡単な矢印。
来た道を示すための印だ。
私たちは——彼に倣って、要所要所に印をつけながら進んだ。
そして——ある部屋に辿り着いた時。
私は——立ち止まった。
その部屋は——他とは違っていた。
壁一面に——文字が刻まれている。
古代の文字。
先ほどの石碑と同じような文字だった。
「……また、この文字か」
ケインが呟いた。
「ええ。でも——こんなにたくさん」
ルナが壁を見上げながら言った。
私は——文字をよく見た。
読めない。
でも——何かを感じる。
この文字——本当に、どこかで見たような気がする。
記憶の奥底に——何かがあるような。
「……セリア、また何か感じるのか?」
リオンが尋ねた。
「……いや。ただ——見覚えがあるような気がするだけだ」
私は答えた。
リオンは少し考え込んだ。
「……お前の記憶の中に、この文字があるのかもしれないな」
「……そうかもしれない」
私は頷いた。
私たちは——その部屋を後にした。
そして——また迷路のような通路を進んだ。
だが——十分ほど歩いたところで。
私たちは——また、文字の部屋に辿り着いた。
「……また?」
ゼノが首を傾げた。
「同じ部屋に戻ってきたのか?」
ケインが尋ねた。
「いや——違う」
リオンが壁を確認した。
「印がない。別の部屋だ」
確かに——印はなかった。
つまり——この階層には、文字の部屋が複数あるということだ。
「……何のための部屋なんだろう」
エレナが呟いた。
「わからないわ。でも——何か意味があるはずよ」
ルナが答えた。
私たちは——再び歩き始めた。
そして——また文字の部屋を見つけた。
三つ目の部屋。
四つ目の部屋。
五つ目の部屋。
この階層は——文字の部屋だらけだった。
「……全部、同じ文字なのか?」
ゼノが尋ねた。
「わからない。でも——似てるわね」
エレナが答えた。
私は——五つ目の部屋の文字をよく見た。
確かに——似ている。
でも——微妙に違う。
文字の配置が違う。
文字の形も——少しずつ違う。
まるで——何かの順序を示しているかのようだった。
「……これ、もしかして」
私は呟いた。
「何だ?」
リオンが尋ねた。
「……いや、何でもない」
私は首を振った。
考えすぎかもしれない。
でも——もしかしたら、この文字には順序があるのかもしれない。
物語のように。
最初から——最後まで。
私たちは——さらに進んだ。
六つ目の部屋。
七つ目の部屋。
八つ目の部屋。
そして——九つ目の部屋に辿り着いた時。
部屋の奥に——階段があった。
「……ようやくだな」
ゼノが息を吐いた。
「ええ。この階層、疲れたわ」
エレナが答えた。
私たちは階段へ向かった。
だが——その前に、私は振り返った。
九つの部屋。
全てに——文字が刻まれていた。
……何のための文字なんだろう。
ただの装飾?
それとも——何か意味があるのか?
わからない。
でも——いつか、わかる日が来るかもしれない。
私は——階段を降り始めた。
357階層へ。
階段は——長かった。
暗く、狭い。
足音だけが——響く。
そして——ようやく、階段が終わった。
357階層に——辿り着いた。
そこは——広い空間だった。
天井は高く、壁も遠い。床は平らで、黒い石で敷き詰められている。
そして——空間の中央には、また石碑があった。
「……また石碑か」
ゼノが呟いた。
「355階層と同じね」
ルナが言った。
私たちは石碑に近づいた。
高さは三メートルほど。
表面には——文字が刻まれている。
古代の文字。
私は——石碑を見た。
そして——思い切って、手を触れた。
その瞬間——。
光が——溢れ出した。
青白い光。
「またか!」
リオンが叫んだ。
光が——私を包み込む。
そして——。
映像が——流れ込んできた。
今度は——前よりも鮮明だった。
暗闇の中を、誰かが歩いている。
一人で。
足音だけが響く。
そして——前方に、光が見えた。
青白い光。
その光に向かって——歩いていく。
光の中に——剣が見えた。
五本の剣。
宙に浮いている。
そして——声が聞こえた。
『……進め』
低く、重い声。
『……一人で、進め』
映像が——途切れた。
光が——消えた。
私は——床に膝をついた。
「セリア!」
リオンが駆け寄ってきた。
「……大丈夫だ」
私は答えた。
でも——頭が混乱していた。
今の映像——。
一人で歩く、誰か。
五本の剣。
そして——声。
……あれは、何だったのか。
「……また、何か見たのか?」
リオンが尋ねた。
「……ああ。また映像が見えた」
私は答えた。
「どんな?」
「……暗闇を歩く誰かと、五本の剣」
私の言葉に、リオンは少し考え込んだ。
「……五本の剣?」
「ああ」
「……それは、何を意味してるんだ?」
リオンが尋ねた。
「わからない。でも——何か重要な意味があるような気がする」
私は答えた。
リオンは——黙って石碑を見つめていた。
「……この石碑、お前に何かを伝えようとしてるのかもしれないな」
彼が呟いた。
「……そうかもしれない」
私は頷いた。
そして——立ち上がった。
「……先に進もう」
私は言った。
「ああ」
リオンが頷いた。
私たちは——空間を進んだ。
そして——奥にある通路へと入った。
通路は——また長く続いていた。
私たちは黙々と歩いた。
誰も——口を開かなかった。
ただ——前を向いて、歩く。
そして——通路の先に、階段が見えた。
358階層への階段だ。
「……また階段か」
ケインが呟いた。
「ええ。でも——進むしかないわ」
エレナが答えた。
私たちは階段を降り始めた。
だが——その時。
私は——ふと、考えた。
五本の剣。
一人で歩く、誰か。
……あれは、誰だったんだろう。
そして——なぜ、五本の剣なのか。
私たちは——六人だ。
でも——剣は五本だった。
……なぜ?
私は——首を振った。
考えすぎだ。
ただの映像だ。
意味なんて——ないのかもしれない。
でも——心の奥底では、小さな疑問が残り続けていた。
私たちは——階段を降り続けた。
358階層へ。
そして——その先へ。
未知の場所へ。
私たちの旅は——まだ続いていた。
だが——私の心の中では、少しずつ——何かが変わり始めていた。
疑問が——積み重なっていく。
足音の揃い方。
呼吸の同期。
五本の剣。
一人で歩く、誰か。
全てが——バラバラのピースのように、心の中に散らばっている。
いつか——それらが繋がる日が来るのだろうか。
わからない。
でも——確かに、何かが近づいている。
真実が——近づいている。
そんな予感がした。




