第124話 影蜘蛛の巣
泉の場所を出て、私たちは347階層の奥へと進んだ。
洞窟は——狭くなっていた。
天井が低くなり、壁が迫ってくる。時折、頭上の岩が突き出していて、屈まなければ通れない場所もあった。
「……窮屈だな」
ゼノが呟いた。
「ええ。でも——先に進むしかないわ」
エレナが答えた。
私たちは一列になって進んだ。
リオンが先頭、次にゼノ、私、エレナ、ケイン、ルナの順だ。
足音が——狭い通路に反響する。
カツン、カツン、という音が、何重にも重なって聞こえる。
そして——通路が、さらに狭くなった。
「……これは、厳しいな」
リオンが立ち止まった。
前方の通路は——肩がぎりぎり通るかどうか、という幅しかない。
「……通れるか?」
ゼノが尋ねた。
「……試してみる」
リオンが横向きになり、通路に入った。
身体を壁に擦りつけながら、ゆっくりと進む。
「……通れそうだ。でも——荷物が引っかかる」
彼が呟いた。
「荷物を先に送るか」
ゼノが提案した。
「……そうだな」
リオンは荷物を下ろし、通路の向こうへ押し出した。そして——自分も通り抜けた。
「……通れたぞ」
彼の声が聞こえた。
私たちも——順番に通り抜けていった。
ゼノが通る。
次に私。
狭い。
壁が両側から迫ってくる。
息苦しい。
圧迫感が——胸を締め付ける。
私は——ゆっくりと進んだ。
一歩、また一歩。
壁に身体を擦りつけながら。
そして——ようやく、通り抜けた。
「……やっと」
私は息を吐いた。
エレナ、ケイン、ルナも——順番に通り抜けてきた。
全員が通り抜けると——通路が開けた。
そこには——階段があった。
348階層への階段だ。
「……次の階層だ」
リオンが言った。
「ああ。行こう」
ゼノが頷いた。
私たちは階段を降り始めた。
階段は——長かった。
どこまで続くのか、わからない。
ただ——ひたすら、降りていく。
足が——重い。
疲労が溜まっている。
でも——止まれない。
そして——ようやく、階段が終わった。
348階層に——辿り着いた。
私は——足を止めた。
そこは——異様な場所だった。
天井も壁も——白い糸で覆われている。
蜘蛛の巣だ。
無数の蜘蛛の巣が、空間全体を覆い尽くしている。糸は太く、粘ついていて、松明の光を受けて鈍く光っていた。
「……何だ、これは」
ケインが顔をしかめた。
「蜘蛛の巣……ね」
ルナが呟いた。
「……ということは、蜘蛛がいるのか」
ゼノが警戒しながら周囲を見回した。
「おそらく——そうでしょうね」
エレナが答えた。
私たちは慎重に進み始めた。
床にも——蜘蛛の巣が張られている。
踏むと、ベタベタと足に絡みつく。
「……気持ち悪いな」
ケインが呟いた。
「文句を言っても仕方ない。進むぞ」
リオンが先頭を歩く。
私たちは——彼に続いた。
そして——その時。
天井から——何かが落ちてきた。
黒い影。
「危ない!」
私は叫んだ。
影が——リオンの頭上に降ってくる。
リオンが咄嗟に横に跳んだ。
影が——床に着地した。
それは——蜘蛛だった。
全長は一メートルほど。八本の足は鋭く尖っていて、身体は黒い甲羅で覆われている。複数の目が、赤く光っていた。
「……シャドウスパイダーか」
ルナが呟いた。
蜘蛛が——襲いかかってきた。
素早い。
八本の足で駆けてくる。
リオンが剣を振るった。
刃が——蜘蛛の足を切り落とす。
蜘蛛が悲鳴を上げた。
キィィィ!
甲高い音が空間に響く。
だが——蜘蛛は止まらなかった。
残りの七本の足で、リオンに飛びかかる。
「くっ!」
リオンが剣で受け止めた。
ガキィン!
蜘蛛の牙が、剣に食い込む。
「リオン!」
ゼノが駆けつけた。
彼の大剣が、蜘蛛の胴体を斬りつける。
蜘蛛が——倒れた。
動かなくなった。
「……やったか」
ゼノが息を吐いた。
だが——その時。
天井から——また影が落ちてきた。
今度は——複数だ。
三匹、四匹、五匹。
次々と蜘蛛が降ってくる。
「くそ!まだいるのか!」
ゼノが叫んだ。
「陣形を組め!」
リオンが指示を出した。
私たちは陣形を整えた。
リオンと私が前衛。
エレナとルナが中衛。
ゼノとケインが後衛。
蜘蛛たちが——襲いかかってきた。
「来るぞ!」
リオンが叫んだ。
私は剣を構えた。
蜘蛛が——私に向かってくる。
八本の足が、床を叩く音。
カサカサカサ。
不快な音だった。
私は剣を振るった。
刃が——蜘蛛の足を切り落とす。
蜘蛛がバランスを崩す。
その隙に——もう一撃。
胴体を斬りつける。
蜘蛛が——倒れた。
「次!」
私は次の蜘蛛と向き合った。
横からリオンの剣が閃く。
彼は二匹の蜘蛛を同時に相手にしていた。
「エレナ、ルナ、援護を!」
リオンが指示を出した。
エレナとルナが中衛から攻撃を仕掛ける。
二人の剣が、蜘蛛たちを次々と斬りつけていく。
「ゼノ、ケイン、天井を見ろ!まだ降りてくるぞ!」
リオンが叫んだ。
「わかった!」
ゼノが天井を見上げた。
確かに——まだ蜘蛛がいる。
無数の蜘蛛が、天井の蜘蛛の巣に張り付いている。
「……多いな」
ゼノが呻いた。
蜘蛛が——また降りてきた。
ゼノとケインが迎え撃つ。
二人の剣が、空中の蜘蛛を斬り落とす。
戦闘は——激しかった。
でも——蜘蛛は弱い。
一匹一匹は——それほど強くない。
問題は——数だ。
次から次へと降りてくる。
「きりがないぞ!」
ケインが叫んだ。
「……巣を焼くしかないわ!」
ルナが言った。
「巣を?」
リオンが振り向いた。
「ええ!巣を焼けば、蜘蛛たちは逃げるわ!」
ルナが答えた。
「……やってみるか」
リオンが頷いた。
「松明を投げろ!巣に!」
リオンが指示を出した。
私は松明を掴んだ。
そして——天井の蜘蛛の巣に向かって投げた。
松明が——宙を舞う。
そして——蜘蛛の巣に着火した。
ボッ!
炎が——瞬く間に広がった。
蜘蛛の巣が——燃え上がる。
蜘蛛たちが——悲鳴を上げた。
キィィィィ!
甲高い音が、空間全体に響く。
蜘蛛たちが——逃げ始めた。
天井から、壁から、床から。
あらゆる方向へ——散っていく。
「……効いたぞ!」
ゼノが叫んだ。
炎は——すぐに消えた。
蜘蛛の巣は——灰になって落ちてくる。
そして——静寂が訪れた。
蜘蛛は——もういなかった。
全て——逃げたか、焼け死んだか。
「……終わったか」
リオンが息を吐いた。
「ええ……なんとか」
エレナが答えた。
私は剣を下ろした。
全身が——汗で濡れている。
疲れた。
数は多かったが——なんとか倒せた。
「……先に進もう」
リオンが言った。
私たちは——蜘蛛の巣の残骸を踏みながら、空間の奥へと進んだ。
焼け焦げた糸の臭いが——鼻を突く。
不快な臭いだった。
そして——空間の奥に、階段が見えた。
349階層への階段だ。
「……ようやくだな」
ゼノが呟いた。
「ええ。行きましょう」
エレナが頷いた。
私たちは階段へと向かった。
足音が響く。
六人の足音が——また少しだけ揃っている。
でも——私は、もう気にしなかった。
ただ——前を向いて、歩く。
次の階層へ。
未知の危険が待つ——その先へ。




