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第120話 最後の一撃

私たちは——動いた。


満身創痍の身体で、血に塗れた剣を握り締めて。


リオンが先頭を走る。脇腹から血を流しながら、それでも彼の足は止まらない。


ゼノが続く。左腕は使えない。だが、右手一本で大剣を握り締めている。


私も——走った。


肋骨が軋む。


呼吸のたびに、鋭い痛みが胸を貫く。


でも——止まれない。


ここで——止まるわけにはいかない。


「全員で行くぞ!」


リオンが叫んだ。


「首を——同時に狙う!」


獣が——咆哮した。


ガァァオォォ!


怒りと恐怖が混ざり合った、絶叫。


そして——獣も突進してきた。


最後の力を振り絞って。


地面が揺れる。


ドスン、ドスン、ドスン!


距離が——縮まる。


十メートル。


五メートル。


三メートル。


「今だ!」


リオンが叫んだ。


私たちは——跳躍した。


リオンが正面から。


ゼノが左から。


私が右から。


三方向から——獣の首を狙う。


獣が——爪を振り回した。


だが——間に合わない。


三本の剣が——同時に獣の首に突き刺さった。


ガキィィィン!


鈍い衝撃音が響く。


刃が——深く、深く食い込む。


獣が——絶叫した。


ギャアアアアアァァァァ!


耳を劈くような悲鳴。


血が——噴き出した。


黒い血が、宙を舞う。


私の顔に——獣の血が飛び散った。


生温かく、鉄の臭いがする。


「……まだだ!」


リオンが叫んだ。


「押し込め!」


私たちは——剣を押し込んだ。


全身の力を込めて。


刃が——さらに深く沈んでいく。


獣が暴れた。


巨大な身体が、狂ったように暴れる。


私たちは——吹き飛ばされた。


地面を転がり、壁に叩きつけられる。


「ぐっ……!」


痛みが全身を駆け巡った。


私は——獣を見た。


獣が——まだ立っていた。


首に三本の剣を突き立てられたまま、まだ立っている。


血が——滝のように流れ落ちている。


床が——血の海になっていく。


獣が——一歩、前に踏み出した。


ドスン。


そして——もう一歩。


ドスン。


私たちに——向かってくる。


「……嘘だろ」


ゼノが呻いた。


「まだ——立つのか……」


リオンも——信じられないという顔をしていた。


獣が——口を開いた。


牙が——血に染まっている。


そして——低く唸った。


グルルル……。


最後の——力を振り絞って。


獣が——突進してきた。


だが——その時。


獣の足が——もつれた。


ドサッ。


獣が——倒れた。


巨大な身体が、地面に崩れ落ちる。


ドォォン!


空間全体が揺れた。


獣が——動かなくなった。


赤い目の光が——消えていく。


そして——完全に、消えた。


「……終わった、のか?」


ケインが呟いた。


誰も——すぐには答えなかった。


ただ——獣を見つめていた。


血に塗れた巨大な身体。


首に突き刺さった三本の剣。


そして——消えた赤い目。


「……ああ」


リオンが答えた。


「終わった」


その言葉と共に——私の膝が折れた。


地面に座り込む。


全身から——力が抜けていく。


「……やった、のか」


ゼノも座り込んだ。


「ああ……やったんだ」


リオンも——膝をついた。


私たちは——全員、地面に座り込んでいた。


誰も——すぐには動けなかった。


ただ——呼吸をするだけで精一杯だった。


「……みんな、生きてる?」


エレナが尋ねた。


「ああ……なんとか」


リオンが答えた。


「ルナは?」


私は尋ねた。


「……気を失ってるけど、呼吸はしてる。大丈夫」


エレナが答えた。


私は——安堵の息を吐いた。


誰も——死ななかった。


満身創痍だが——全員、生きている。


「……治療しないと」


エレナが立ち上がった。


彼女も傷を負っているが、まだ動ける。


「治療薬、残ってるわね?」


「……ああ、少しだけ」


ゼノが荷物を確認した。


「五本……いや、四本だ」


「足りるかしら……」


エレナが不安そうに言った。


「……足りなくても、使うしかない」


リオンが答えた。


エレナは頷き、治療薬を取り出した。


まず——ルナに。


彼女は気を失っているが、傷は深くない。治療薬を飲ませると、少しずつ呼吸が安定していく。


次に——ゼノ。


彼の左腕は、深く切り裂かれている。治療薬を傷口にかけ、包帯を巻く。


「……ありがとう」


ゼノが呟いた。


次に——ケイン。


彼の肩も、深い傷がある。同じように治療する。


そして——リオン。


彼の傷は——最も深い。


脇腹、腕、足。


全身が傷だらけだ。


「……リオン、あなた無茶しすぎよ」


エレナが呆れたように言った。


「……わかってる。でも——仕方なかっただろう」


リオンが苦笑した。


エレナは治療薬を使い、丁寧に傷を手当てしていく。


そして——私。


「セリアも、見せて」


エレナが言った。


私は服をめくった。


脇腹に——大きな痣がある。


肋骨が——おそらく折れている。


「……痛そうね」


エレナが顔をしかめた。


「……まあ、な」


私は答えた。


エレナは最後の治療薬を使い、私の傷を手当てした。


「これで——全部ね」


エレナが呟いた。


治療薬は——全て使い切った。


でも——命に別状はない。


全員——生き延びた。


「……本当に、よく生き残ったな」


ゼノが呟いた。


「ああ……奇跡だ」


リオンが答えた。


私は——獣の死体を見た。


巨大な身体が、そこに横たわっている。


もう——動かない。


そして——その背後には、骨の山。


無数の冒険者が——この獣に殺された。


でも——私たちは生き残った。


「……行こう」


リオンが立ち上がった。


「ルナを運ぶ。休める場所を探す」


「ああ」


ゼノが頷いた。


私たちは——ルナを担ぎ、広間を後にした。


獣の死体を——背に。


骨の山を——背に。


そして——通路の先へと進んだ。


通路は——長く続いていた。


私たちは黙々と歩いた。


誰も——口を開かなかった。


ただ——前を向いて、歩く。


そして——通路の先に、階段が見えた。


347階層への階段だ。


「……ここで休もう」


リオンが言った。


私たちは階段の前で座り込んだ。


全身が——痛い。


疲労が——限界に達している。


「……よく、生き延びたな」


ゼノが再び呟いた。


「ああ……本当に」


リオンが答えた。


私は——天井を見上げた。


暗い天井。


微かな光が、揺れている。


……私たちは、生き延びた。


でも——これからも、こんな戦いが続くのだろうか。


もっと強い敵。


もっと危険な状況。


……耐えられるのだろうか。


私は——わからなかった。


でも——今は考えない。


今は——ただ、休む。


生き延びたことを——噛み締める。


私は目を閉じた。


疲労が——全身を包み込む。


そして——意識が遠のいていった。


足音が——聞こえた。


カツン、カツン、という規則正しい音。


六人の足音。


揃いすぎている足音。


でも——私は、もう気づく余裕もなかった。


ただ——眠りに落ちていった。


深く、深く——。

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