第118話 死闘の始まり
「首を狙え!」
私の叫びが空間に響いた。
リオンが——動いた。
血に塗れた顔で、剣を構え直す。彼の目には、まだ諦めの色はなかった。
「ゼノ、左から!ケイン、右から!」
リオンが指示を出した。
「エレナ、ルナは後退して傷の手当てを!セリア、俺と正面から行くぞ!」
「……わかった!」
私は剣を握り締めた。
獣が——こちらを見ていた。
赤い目が、私たちを値踏みするように見据えている。
まるで——どこから襲えば、最も効率的に殺せるかを計算しているかのように。
「……行くぞ!」
リオンが駆け出した。
私も——続いた。
獣が吠えた。
ガァァァオォォ!
耳を劈くような咆哮が空間を震わせる。
そして——獣が突進してきた。
地面が揺れる。
ドスン、ドスン、ドスン!
巨大な身体が、恐るべき速度で迫ってくる。
「右へ!」
リオンが叫び、私たちは別々の方向へ跳んだ。
獣が——私たちがいた場所を通過する。
だが——今度は止まらなかった。
身体を捻り、尻尾を振り回してくる。
「くっ!」
私は剣で受け止めた。
ガキィン!
衝撃で身体が浮く。
地面を滑りながら、なんとか体勢を保った。
「セリア!」
リオンが獣の注意を引く。
彼が獣の正面に回り込み、剣を振るった。
獣が——爪で迎撃する。
ガキィィン!
火花が散った。
その隙に——ゼノとケインが左右から攻撃を仕掛けた。
ゼノの大剣が、獣の左側から振り下ろされる。
ケインの長剣が、右側から突き出される。
だが——獣は両方を見切っていた。
左足でゼノの剣を弾き、右足でケインを蹴り飛ばした。
「うわっ!」
ケインが宙を舞い、地面に叩きつけられる。
「ケイン!」
エレナが叫んだ。
獣が——ケインに向かって跳躍した。
巨大な身体が宙を舞う。
このままでは——ケインが押し潰される。
「させない!」
私は駆け出した。
身体が——勝手に動く。
最速の軌道を選び、最適なタイミングで跳躍する。
空中で剣を振るった。
刃が——獣の横腹を切り裂く。
浅い。
だが——獣の軌道が逸れた。
獣はケインの隣に着地し、地面が砕ける。
「……助かった」
ケインが息を吐いた。
獣が——私を睨んだ。
赤い目が、憎悪に燃えている。
そして——咆哮した。
ガァァァオォォ!
今度は——私に向かって突進してくる。
速い。
あまりにも速い。
避けられない——。
「セリア、伏せろ!」
リオンの声が聞こえた。
私は咄嗟に伏せた。
獣の爪が——頭上を通過する。
風圧で髪が舞い上がった。
そして——リオンの剣が閃いた。
彼の大剣が、獣の首を狙う。
獣が——咄嗟に身を捻った。
刃が首を掠め、浅い傷を作る。
「くっ……浅い!」
リオンが舌打ちした。
獣が尻尾を振り回す。
リオンが後退したが——間に合わなかった。
尻尾がリオンの脇腹を打ち、彼が吹き飛ばされた。
「リオン!」
私は叫んだ。
リオンが地面を転がり、壁に激突する。
ゴツン、という鈍い音。
彼は——動かなくなった。
「……リオン!しっかりしろ!」
ゼノが駆け寄った。
獣が——今度はゼノに向かった。
「来るな……!」
ゼノが剣を構えた。
だが——獣の速度は落ちない。
爪が——ゼノに迫る。
「ゼノ!」
ケインが割って入った。
彼の剣が、獣の爪を受け止める。
ガキィン!
だが——ケインの力では、受け止めきれない。
爪が剣を押し潰し、ケインの肩を切り裂いた。
「ぐあっ!」
ケインが悲鳴を上げた。
血が飛び散る。
「ケイン!」
エレナが駆け寄ろうとした。
だが——獣が振り向き、エレナを睨んだ。
「……っ」
エレナが硬直する。
獣が——エレナに向かって跳躍した。
このままでは——。
「させない!」
ルナが割って入った。
傷を負った肩を押さえながら、剣を構える。
彼女の剣が、獣の爪を受け止めた。
だが——力負けする。
ルナが膝をついた。
「くっ……!」
彼女が歯を食いしばる。
獣が——もう片方の爪を振り上げた。
ルナを——押し潰そうとしている。
「ルナ!」
私は駆け出した。
全力で——走る。
距離が——縮まる。
間に合え——!
私は跳躍し、剣を振り下ろした。
刃が——獣の前足を斬りつける。
獣が悲鳴を上げた。
ギャオォォ!
初めて——獣が痛みを感じた声だった。
獣が後退する。
私はルナの前に立ち、剣を構えた。
「……ありがとう」
ルナが呟いた。
「気にするな」
私は答えた。
獣が——私を睨んでいた。
前足から、血が滴っている。
傷は——浅い。
でも——確かに、ダメージを与えた。
「……首だ。首を狙わないと」
私は呟いた。
でも——どうやって?
獣は速い。
力も強い。
正面から首を狙っても——躱される。
何か——方法があるはずだ。
「……セリア!」
リオンの声が聞こえた。
振り向くと、彼が立ち上がっていた。
脇腹を押さえながら、剣を構えている。
「……お前、動けるのか!」
私は叫んだ。
「ああ……なんとか」
リオンが答えた。
血が——彼の服を染めている。
でも——彼は立っている。
「……みんな、聞け」
リオンが言った。
「俺が囮になる。セリアとゼノが、左右から首を狙え」
「でも——お前、怪我してるだろう!」
ゼノが反対した。
「構わない。今、倒さないと——全滅する」
リオンの声は——冷静だった。
「……わかった」
私は頷いた。
ゼノも——渋々頷いた。
「エレナ、ルナ、ケイン。お前たちは後退しろ」
リオンが指示を出した。
三人は——頷き、後方へ下がった。
獣が——また動き始めた。
低く唸りながら、私たちに近づいてくる。
「……行くぞ」
リオンが呟いた。
そして——彼が駆け出した。
傷を負った身体で、獣に向かって走る。
獣が——リオンに向かって突進した。
リオンが剣を振るう。
獣が爪で迎撃する。
ガキィン!
衝撃でリオンがよろめく。
だが——彼は止まらなかった。
再び剣を振るい、獣の注意を引き続ける。
「今だ!」
私とゼノが——動いた。
左右から、獣の首を狙う。
私の剣が、右側から。
ゼノの剣が、左側から。
同時に——振り下ろされた。
獣が——気づいた。
だが——間に合わない。
二本の剣が——獣の首に食い込んだ。
ギャアアアアァァァ!
獣が絶叫した。
血が——噴き出す。
獣が暴れる。
私とゼノが吹き飛ばされた。
地面を転がり、なんとか立ち上がる。
獣が——まだ立っていた。
首から血を流しながら、まだ立っている。
「……まだ、倒れないのか……!」
ゼノが呻いた。
獣が——こちらを睨んだ。
赤い目が——憎悪に燃えている。
そして——最後の力を振り絞るように。
獣が——咆哮した。
ガァァァオォォォォォ!
空間全体が震える。
そして——獣が突進してきた。
最後の——突進。
「……来る!」
リオンが叫んだ。
私たちは——剣を構えた。
戦いは——まだ終わっていなかった。




