第116話 346階層の罠
数時間の休息を終え、私たちは再び歩き始めた。
345階層の奥へと進み、やがて階段を見つけた。
「……346階層だ」
リオンが呟き、私たちは階段を降りた。
346階層は——奇妙な場所だった。
そこは、まるで人工的に作られた広間のようだった。床は平らな石板で敷き詰められ、壁には規則正しく柱が並んでいる。天井は高く、青白い光が満ちていた。
「……何だ、ここは」
ゼノが周囲を見回しながら呟いた。
「まるで——神殿みたいね」
エレナが言った。
確かに、神殿のような雰囲気があった。
荘厳で、静謐で、どこか神聖な空気が漂っている。
「……モンスターの気配は?」
ケインが尋ねた。
「……わからない。でも、油断するな」
リオンが答えた。
私たちは慎重に広間を進んだ。
足音が、石板を叩く音に変わる。
カツン、カツン、という規則正しい音が、広間に響いた。
そして——広間の中央に、何かがあるのが見えた。
それは——台座だった。
円形の台座。
高さは腰ほど。
表面には、複雑な文様が刻まれている。
「……何だ、これは」
リオンが台座に近づいた。
私たちも続いた。
台座の上には——何も乗っていなかった。
ただ——台座の中央に、小さな窪みがある。
「……何か、嵌めるのか?」
ゼノが呟いた。
「わからないわ。でも——何かの装置みたいね」
ルナが台座を観察しながら言った。
私は周囲を見回した。
広間の四方に——扉があった。
四つの扉。
それぞれが、異なる方向を向いている。
「……四つの扉か」
リオンが呟いた。
「どれを選ぶ?」
ケインが尋ねた。
リオンは考え込んだ。
「……まず、台座を調べよう。これが何なのか、わかるかもしれない」
彼がそう言い、私たちは台座を詳しく調べ始めた。
台座の表面には、文字のようなものが刻まれていた。
だが——読めない。
古代の文字だろうか。
「……これ、何て書いてあるんだ?」
ゼノが尋ねた。
「わからないわ。見たことない文字ね」
エレナが答えた。
私も文字を見た。
複雑な形。
曲線と直線が入り混じっている。
……でも、何かを感じる。
この文字——どこかで見たような気がする。
「……セリア、何か知ってるのか?」
リオンが尋ねた。
「……いや、わからない。でも——見覚えがあるような気がする」
私は正直に答えた。
リオンは少し考え込んだ。
「……お前の記憶の中にあるのかもしれないな」
「……そうかもしれない」
私は頷いた。
でも——思い出せない。
記憶の奥底に——確かに何かがあるような気がする。
でも——掴めない。
「……とりあえず、扉を調べよう」
リオンが言い、私たちは四つの扉を順番に調べた。
扉は——全て同じ造りだった。
黒い鉄でできていて、表面には何も刻まれていない。
取っ手もなく、どうやって開けるのかわからない。
「……開かないな」
ゼノが扉を押してみたが、微動だにしなかった。
「鍵がかかってるのかしら」
エレナが言った。
「おそらく——台座が鍵なんだろう」
ルナが台座を見ながら言った。
「台座の窪みに、何かを嵌める。それで——扉が開く」
「じゃあ——何を嵌めるんだ?」
ケインが尋ねた。
「……わからない」
リオンが答えた。
私は——また台座を見た。
窪みの形。
円形で、直径は五センチほど。
……何かを嵌める。
でも——何を?
「……探すしかないな」
リオンが言った。
「この広間のどこかに——鍵になるものがあるはずだ」
私たちは広間を隅々まで探し始めた。
柱の陰、壁の隙間、床の石板。
全てを調べた。
だが——何も見つからなかった。
「……ないな」
ゼノが呟いた。
「おかしいわ。絶対にどこかにあるはずなのに」
エレナが言った。
私は——考えた。
鍵になるもの。
円形で、直径五センチ。
……何だろう。
そして——その時、私は気づいた。
天井だ。
私は天井を見上げた。
青白い光が満ちている。
そして——その光の中心に、何かが浮いているのが見えた。
「……あれを見ろ」
私は天井を指差した。
皆が天井を見上げた。
「……何か、浮いてるぞ」
ゼノが呟いた。
確かに——何かが浮いていた。
円盤のようなもの。
青白く光っている。
「……あれが、鍵か?」
リオンが呟いた。
「でも——どうやって取るんだ?あんな高いところ」
ケインが尋ねた。
天井は——遥か上方にある。
十メートル以上はあるだろう。
跳んで届く高さではない。
「……何か方法があるはずだ」
リオンが言い、私たちは再び広間を調べ始めた。
そして——ルナが何かを見つけた。
「……これを見て」
彼女が柱の一つを指差した。
柱の側面に——小さなレバーがあった。
「……レバー?」
ゼノが近づいた。
「引いてみるか?」
「……慎重にな」
リオンが警告した。
ルナが——レバーを引いた。
カチャ、という音がした。
そして——柱が動き始めた。
ゴゴゴゴ……という重い音と共に、柱がゆっくりと上昇していく。
「……階段だ!」
エレナが叫んだ。
確かに——柱が階段のように変形していった。
段差ができ、天井へと続く道ができる。
「……すごいな」
ケインが呟いた。
階段が完成すると、私たちは登り始めた。
一段一段、慎重に。
階段は狭く、手すりもない。
落ちれば——大怪我は免れないだろう。
「……気をつけろ」
リオンが先頭で登っていく。
私たちも続いた。
そして——天井近くまで辿り着いた。
浮いている円盤が——すぐ近くにある。
「……取れるか?」
ゼノが尋ねた。
リオンが手を伸ばした。
指先が——円盤に触れた。
その瞬間——円盤が光を放った。
眩い光。
私たちは思わず目を閉じた。
そして——光が収まった時。
円盤は——リオンの手の中にあった。
「……取れたぞ」
リオンが呟いた。
「やったわ!」
エレナが喜んだ。
私たちは階段を降りた。
そして——台座の前に集まった。
リオンが——円盤を窪みに嵌めた。
カチャ、という音がした。
そして——台座が光り始めた。
青白い光が、文様を辿って流れていく。
そして——四つの扉が、一斉に開いた。
ガゴン、という重い音と共に。
「……開いた」
ゼノが呟いた。
私たちは扉を見た。
四つの扉。
全て開いている。
でも——その先は、暗闇だった。
何があるのか、見えない。
「……どの扉を選ぶ?」
ケインが尋ねた。
リオンは四つの扉を見比べた。
「……わからない。どれも同じに見える」
「じゃあ——正面の扉にしましょう」
エレナが提案した。
「……そうだな」
リオンが頷いた。
私たちは正面の扉へ向かった。
そして——扉の先へと足を踏み入れた。
暗闇の中を進む。
松明の光だけが頼りだった。
そして——通路が見えた。
長い、真っ直ぐな通路。
私たちは通路を進んだ。
だが——その時。
床が——動いた。
「!?」
私は足元を見た。
石板が——沈んでいく。
「罠だ!」
リオンが叫んだ。
その瞬間——壁から、無数の矢が飛び出してきた。
「伏せろ!」
私たちは咄嗟に伏せた。
矢が頭上を通過していく。
ヒュンヒュンという音が響く。
「くっ……!」
ゼノが呻いた。
矢が止むのを待つ。
数秒後——矢が止んだ。
「……大丈夫か?」
リオンが尋ねた。
「……ああ、なんとか」
ゼノが答えた。
私たちは立ち上がった。
誰も——怪我はしていなかった。
「……罠があるのか」
ケインが呟いた。
「ああ。これから先——気をつけないとな」
リオンが答えた。
私たちは——再び歩き始めた。
今度は——より慎重に。
床を確認しながら、一歩一歩進む。
346階層は——ただのダンジョンではなかった。
罠が仕掛けられた——試練の場だった。
そして——私たちは、その試練を乗り越えなければならなかった。




