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第114話 死者の荷物

通路を進むこと十分。


私たちは——再び死体を発見した。


冒険者の死体が、三体。


血溜まりの中に倒れていた。全身が引き裂かれ、鎧は破壊されている。ヘルハウンドにやられたのだろう。


「……ここにもいたか」


リオンが呟いた。


私たちは死体の前で立ち止まった。


誰も——すぐには動かなかった。


「……行くぞ」


リオンが重い声で言った。


「荷物を——漁る」


彼が死体に近づいた。


私も——続いた。


死体は冷たかった。


血の臭いが鼻を突く。


私は死体の荷物袋を開けた。


中には——治療薬が二本、乾燥肉が少し、水筒が一つ。


「……治療薬、二本ある」


私は呟いた。


「こっちは三本だ」


リオンが別の死体から薬を取り出した。


「食料も少しあるわ」


エレナが三体目の死体を調べながら言った。


私たちは——死者の荷物を集めた。


治療薬、合計七本。


食料、二日分ほど。


水、少し。


「……助かった」


ゼノが呟いた。


だが——その声には、罪悪感が滲んでいた。


私も——同じだった。


死者から奪う。


それは——間違っているような気がした。


でも——生きるためには、仕方がない。


「……行こう」


リオンが立ち上がった。


私たちは死体を後にした。


だが——その時、私は気づいた。


……何かが、おかしい。


私は振り返った。


死体が——そこにある。


三体の死体。


引き裂かれた身体。


そして——剣。


剣が、死体の横に転がっている。


……剣。


私は——固まった。


なぜ、剣がそこにあるのか。


私の記憶が正しければ——人は死ぬと剣になるはずだ。


260階層の「真実の扉」で見た映像。


あの結晶が見せた光景。


人が死に、その身体が光に包まれ、剣へと変わっていく様子。


それが——真実のはずだ。


人が死ねば、その魂は剣に宿る。


そして、剣は1階層の幼児のもとへ転移する。


それが——この世界のルールだ。


なのに——なぜ。


なぜ、死体がそこに残っているのか。


なぜ、剣がそこに転がっているのか。


人が死ねば——死体は消えて、剣だけが残るはずだ。


いや——剣も転移するはずだ。


なのに——死体も剣も、そこにある。


……おかしい。


何かが——おかしい。


「セリア?」


リオンが振り返った。


「……どうした?」


私は——言葉に詰まった。


何と言えばいいのか。


この違和感を——どう説明すればいいのか。


「……いや、何でもない」


私はそう答えた。


リオンは少し不思議そうな顔をしたが、やがて前を向いた。


「……行くぞ」


私は——もう一度、死体を見た。


そして——前を向いた。


でも——心の中では、疑問が渦巻いていた。


なぜ、死体が残っているのか。


なぜ、剣が転移しないのか。


……わからない。


でも——確かに、おかしい。


私たちは——通路を進み続けた。


そして——344階層への階段を見つけた。


「……次の階層だ」


リオンが言い、私たちは階段を降りた。


344階層は——広い洞窟だった。


天井は高く、壁は遠い。床は岩がゴツゴツしていて、歩きにくい。所々に水溜まりがあり、その水面が青白い光を反射していた。


「……モンスターの気配は?」


ゼノが尋ねた。


「……わからない。でも、油断するな」


リオンが答えた。


私たちは慎重に進んだ。


陣形は——リオンと私が前衛、エレナとルナが中衛、ゼノとケインが後衛。


新しい陣形だ。


私は——リオンの隣を歩いた。


彼の剣が、松明の光を反射している。


「……セリア」


リオンが小声で話しかけてきた。


「……何だ」


「お前、さっき何か気になることがあったのか?」


彼は鋭い。


私は——少し迷った。


言うべきか。


でも——何と言えばいいのか。


「……死体のことが、少し気になった」


私は正直に答えた。


「死体?」


リオンが首を傾げた。


「……260階層で、結晶が映像を見せただろう。人が死ぬと剣になる、という」


私は言葉を続けた。


「でも——死体が残っている。剣も転移していない。それが——おかしいと思った」


リオンは——少し考え込んだ。


「……確かに、おかしいな」


彼が呟いた。


「俺も、今まで何度か死体を見てきた。でも——死体が残っているのは、当たり前だと思っていた」


「当たり前……?」


私は首を傾げた。


「ああ。死体が剣になる、というのは——魂が剣に宿る、という意味だと思っていた。肉体は残る。だから、死体も残る」


リオンが説明した。


「……そうか」


私は——納得した。


確かに、そう考えれば辻褄が合う。


魂が剣に宿る。


肉体は残る。


だから、死体も残る。


「剣が転移しないのは……わからないな」


リオンが呟いた。


「もしかしたら、転移するまでに時間がかかるのかもしれない」


「……そうかもしれない」


私は頷いた。


でも——心の奥底では、まだ疑問が残っていた。


本当に、それだけなのだろうか。


何か——見落としているような気がする。


「……前方に何かいるぞ」


ゼノが警告した。


私は前を向いた。


洞窟の奥に——影が見えた。


動いている。


複数の影だ。


「……モンスターか」


リオンが剣を構えた。


私も剣を構えた。


影が——近づいてくる。


そして——姿を現した。


それは——ゴブリンの群れだった。


十体ほど。


小柄な身体、緑色の肌、鋭い牙。


手には、錆びた剣や棍棒を持っている。


「……ゴブリンか。厄介だな」


リオンが呟いた。


「数が多いわ」


エレナが言った。


ゴブリンたちが——襲いかかってきた。


「来るぞ!」


リオンが叫び、私たちは迎え撃った。


私は——前衛として、最前線で戦う。


ゴブリンが剣を振り下ろしてくる。


私は剣で受け止めた。


ガキィン!


衝撃が腕に伝わる。


でも——ゴブリンの力は弱い。


私は剣を払い、反撃した。


刃がゴブリンの胸を切り裂く。


ゴブリンが倒れた。


「次!」


私は次のゴブリンと向き合った。


横からリオンの剣が閃く。


彼は二体のゴブリンを同時に相手にしていた。


「セリア、右!」


リオンが叫んだ。


私は右を向いた。


ゴブリンが背後に回り込もうとしていた。


「させない!」


私は剣を振るった。


刃がゴブリンの首を捉える。


ゴブリンが崩れ落ちた。


「エレナ、ルナ、援護を!」


リオンが指示を出した。


エレナとルナが中衛から攻撃を仕掛ける。


二人の剣が、ゴブリンたちを次々と倒していく。


「ゼノ、ケイン、後ろを頼む!」


リオンが叫んだ。


「任せろ!」


ゼノが後衛から飛び出してきたゴブリンを斬り倒した。


戦闘は——激しかった。


でも——私たちの連携は、うまく機能していた。


リオンと私が前衛で敵を食い止める。


エレナとルナが中衛から援護する。


ゼノとケインが後衛を守る。


新しい陣形は——機能していた。


そして——最後のゴブリンが倒れた。


「……終わったか」


リオンが息を吐いた。


「ええ……なんとか」


エレナが答えた。


私は剣を下ろし、深呼吸した。


前衛で戦うのは——想像以上に疲れる。


常に最前線で、敵の攻撃を受け止め続ける。


リオンは——ずっとこれをやってきたのか。


「……セリア、よくやった」


リオンが声をかけてきた。


「お前の動き、素晴らしかったぞ」


「……ありがとう」


私は答えた。


でも——心の中では、疑問が残っていた。


なぜ、私の身体はこんなにも動けるのか。


まるで——何度も前衛で戦ったことがあるかのように。


……わからない。


でも——確かに、身体は知っている。


私たちは——先へ進んだ。


344階層を抜け、345階層へ。


そして——また、死体を見つけた。


今度は一体だけ。


「……また、漁るか」


ゼノが呟いた。


私たちは死体に近づいた。


そして——荷物を漁った。


でも——私は、また気づいた。


死体が——そこにある。


剣も——そこにある。


……おかしい。


やはり——おかしい。


でも——誰も気づいていないようだった。


リオンも、ゼノも、エレナも、ケインも、ルナも。


誰も——この違和感に気づいていない。


……それとも、気づいているけど、口に出さないだけなのだろうか。


私は——わからなかった。


ただ——この違和感だけが、確かに心の中に残り続けていた。

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― 新着の感想 ―
>「もしかしたら、転移するまでに時間がかかるのかもしれない」 死体が在るという事は、短期間にそれだけの人数が先行していたという事なので、それは違和感も生じるでしょう。 朽ちた鎧、装備や、缶詰の様な長…
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