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姻戚関係が増えれば、その分、一人あたりの取り分は減る。
雪乃の夫に相続権はないが、実質、雪乃が受け取った遺産を夫婦で分け合う形になるからだ。
敏男が娘にできる限り財産を譲りたかったのだとすると、雪乃が独身でいることはむしろ好都合だ。
(じゃあ、あのときグランフロントで言ってたことは、全部嘘やったん……?)
「そしておっしゃるとおり、あなたは、親にあてがわれた相手で満足するような方ではない。
だから千石貴文の存在はフェイクだ。
本当の目的は、千石の存在を使って、あなたと朱理さんの間を引き裂くことだ」
雪乃の顔色が変わった。
「……え?」
言われている意味が分からず、朱理は聞き返した。
「どういう意味ですか?久瀬さん」
雪乃は蒼白な顔で、視線だけで人を殺せそうな目つきで翼を睨みつけている。
「これ以上、俺は何も言いません。話すか話さないかはあなた次第です。あとはお二人で」
翼は席を立った。
「え、ちょ、何それ。ここまで言って、そんなん……」
追いかけた朱理を振り向きもせず、翼は扉を締めた。
そして、また室内はピッ……ピッ……という命の音以外は、静寂が支配する空間となった。
雪乃は扉を燃えるような瞳で睨みつけたまま、ぴくりとも動かない。
きつく噛みしめた唇と、強張った顎が震えていた。
「雪ちゃん、大丈夫?」
朱理が声をかけても、石のように黙っている。
手を伸ばしかけて、でも何となく触ってはいけない気がして、朱理はためらった。
「伯父さん、ずっと前から手術と入院、繰り返してはったんやってね。覚悟はできてるって言ってたけど……やっぱり怖いよね」
死を目前にした父親と、殺人の共犯者となった父親。
風間敏男は今、雪乃の目にどう映っているのだろう。
「私、雪ちゃんが何で伯父さんを拒否するのか、死にそうやのに会いに来ぇへんのか、全然分からんかった。雪ちゃんのこと、意地悪で自分勝手な人やと思った。
でも、それだけじゃないんやよね?
だって伯父さんも小日向さんも、千石さんを殺す計画を立てて実行して、そこに私や雪ちゃんを巻き込んだんやもん。
雪ちゃんは雪ちゃんでひどかったけど、伯父さんは伯父さんで、犯罪に娘や姪を巻き込むって……かなりの悪人よね」
雪乃は黙ったままだが、少しだけ頭が動き、薄茶色の髪が揺れたように見えた。
「伯父さんは私に嘘をついてたんやね」
朱理は今度は雪乃にではなく、風間敏男に向かって話しかけた。
「私は伯父さんの、いいところばっかり見てたみたい。本当の伯父さんを、全然分かってなかった。
……多分、雪ちゃんは最初からそれを知ってた」
風間敏男の表情は、安らかといっていいほど凪いでいる。
その顔を見ていると、朱理の心も不思議と落ちつきを取り戻していた。




