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「随分前から、小日向が親父と何か企んでいることは知っていた。
実行に移すためには、金と時間が要る。そのどちらも親父は持っている。
だから死ぬ間際になって社長業を辞めて、世話になった小日向に最後の恩返しってことでひと仕事したんだろ。共犯者として警察に捕まっても、自分だけは逃げ切れる」
「でも、小日向さんは?逮捕されちゃったやん」
「あいつは実行犯だ。さすがに逃げ切れないと覚悟の上だろ。娘の仇を討てたんだから、満足なんじゃねえの?」
「そんな……」
あまりにドライな言い方に、朱理は戸惑った。
雪乃は父親に迫る死にも、小日向の逮捕にも、動揺していないように思える。
動揺していないどころか、冷ややかにさえ見える。
二人とも誰より雪乃の傍にいて、長い年月を過ごした大切な人のはずなのに。
「その落ちつきぶりだと、あなたは、小日向さんが出頭される前に会われたのではないですか」
翼が尋ねる。
雪乃は父親の生気を失った顔から、翼に視線を移し、頷いた。
「ああ。自首を勧めた。『もう逃げ切れないだろ』ってな」
「千石さんが殺された後、音信不通になられたのはどうしてですか?」
「面倒くさかったんだよ。それに、動けば動くほど親父たちの思う壺って感じがした」
「思う壺とは?」
「そろそろ行ったほうがいいんじゃないか?担当弁護士の接見がない限り、小日向は黙秘を続けるぞ」
翼は微笑んだ。
「予想どおり賢いお嬢さんだ。よくご存じでいらっしゃる」
頭を動かすと、相変わらず四方八方に広がった金髪がダイナミックに揺れる。
「さっき、雪乃さんはおっしゃいましたね。『あんたの思いどおりには死んでもならない』と。
小日向さんはご自身の思いどおり、千石貴文を殺害しました。恐らく風間社長は、それに協力されたんでしょう。
では、あなたは何をもって、思いどおりにならないとおっしゃったのでしょう?
あなたが食い止めたかったことは、何ですか」
違和感の正体を突き止められて、朱理ははっとした。
そう。雪乃がなぜ姿を消したのか、なぜ今になって戻ってきたのか。
そして、なぜこれほどまでに父親や小日向を憎んでいるのか。
一番知りたかった謎は、いまだに手つかずで残されている。




