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「雪乃ちゃん……!」
病室の前で待っていた朱理の両親が、雪乃の姿を見るなり飛んできた。
「よう来てくれたね。もうほんま、間に合わんかと思っとったんよ……」
げっそりとやつれ、頬のこけた朱理の母が、雪乃の手を両手で握り締める。
そのすぐ傍で、朱理の父が母を注意深く見守っている。
やや腰を落とした体勢は、いつ母が倒れても支えられるように準備しているかのようだった。
「叔父様、叔母様。このたびは大変ご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした」
雪乃は深々と頭を下げた。
あまりにも美しいお辞儀に、その場にいた全員が息を呑む。
「ええのよ、ええのよ。とにかく戻ってきてくれたんやから。少しでも、お兄ちゃんのそばにいてあげて」
「……はい」
雪乃は凜とした表情で、病床に横たわる父――風間敏男の顔を見つめている。
相変わらず危篤状態は続いているものの、今は集中治療室ではなく専用の個室に移っている。
病室への家族の立ち入りや、寝泊まりも自由だ。
それら全てが、最期が近いということを暗示していた。
「お母さん、小日向さんは?」
「それが、昨日から連絡が取れへんのよ。何回も電話かけてるんやけど」
今までどんなことがあっても、小日向英輔は風間敏男の傍を離れなかった。
それが今、生死の境にいる敏男を置いて、音信不通になっているという。
一体どういうことだろう。
「よくできてるよ。それに、とびきり悪趣味だ。あんたの考えることらしい」
突如として口を開いたのは雪乃だった。
朱理がぎょっとして見ると、彼女は病床近くに置かれた椅子に腰かけ、真っ白な顔で眠り続ける父に向けて話しかけているようだった。
「私は帰ってきた。あんたの最期を見届けるために。あんたの思いどおりには死んでもならないと伝えるために」
翼が何事か話しかけ、朱理の両親が病室から出ていく。
残ったのは雪乃、朱理、翼、そして昏睡状態の風間敏男の四人となった。
窓の外から差し込む光が花瓶の水を透かし、壁に金色の波紋を描いている。
昼間の病室は明るく、白く、静謐だった。
「……思いどおりって、どういうこと?」
問いかけると同時に、朱理の脳裏に引いてもいないタロットカードの絵柄が浮かんでいた。
【JUSTICE.】
正義を意味するカードだ。
左手に剣、右手に天秤を持ち、頭に王冠をかぶった裁判官は、中性的な姿で真っすぐに正面を見つめている。
Tシャツにジーパンをはいた雪乃の姿に、なぜかそのカードが重なった。
裁判。司法。そして、正義。
単語から自然と、千石貴文の事件が連想される。全てを見通す裁判官の目も。
「……雪ちゃん、千石さんを殺した犯人を知ってるん?」
その問いかけに、雪乃はかすかに目をみはった。
「いつもの直感か?」
「答えて」
「相変わらず、直感だけは強いんだよな……」
雪乃は処置なしというふうに首を振った。
そして、朱理の目を見つめて告げる。
「そうだよ。千石を殺したのは小日向と、ここにいる親父だ」




