46
「何で……何で連絡くれへんかったんよ」
朱理はぎゅっと拳を握りしめた。
「何で帰ってきてくれへんかったんよ、こんな大変なときに!!」
「うるさいな」
激昂する朱理をものともせず、雪乃は綺麗な指で無造作に頭をかきながら、横目で翼を見つめる。
「あんたが、松村先生とこの翼君か」
「そうです。はじめまして、雪乃お嬢さん」
二人はじっと見つめ合い、しばらくして雪乃が呟いた。
「ふうん……なるほどな」
「何がなるほどなん?それにさっきの話、ケイちゃんって」
雪乃は朱理を手で遮り、翼に問いかけた。
「親父の病室は?」
「七八七号室です。ご案内します」
翼は手で行く先を示し、雪乃を先導した。
「ちょっと待ってよ!」
朱理は慌てて二人の後を追う。
二人とも背が高く、大きな歩幅なので、追いつくのに必死だった。
(何で久瀬さんは、雪ちゃんに驚いてないの?)
まるで彼女の登場を最初から分かっていたかのように、揺るぎなく物事が進んでいく。
「雪ちゃん、小日向蛍って」
「あー面倒くさいな。だから戻ってくるのが嫌だったんだよ」
あからさまに邪険な顔をされて、手を振り払われる。
傷ついた気持ちと、怒りと、不信感が同時に湧いてきて、朱理は地団太を踏んだ。
「何やのよ、それ。こっちがどんだけ心配したと思ってんの!!」
「病院で騒ぐな、ヒステリー女」
どうしてだろう、自分でもエスカレートしていく感情が止められない。
雪乃の顔を見て、驚いた。嬉しかった。ほっとした。
これでやっと、伯父さんに会わせることができると。
(やのに……何でこんなにイライラするの?)
「お嬢さん」
エレベーターに乗り込むと、小声で翼が耳打ちした。
「気持ちは分かるけど、今は雪乃お嬢さんを親父さんに会わせるのが先や。事は一分一秒を争う」
「分かってます。分かってますけど……」
噛みしめた唇から血の味がする。
父親が危篤だというのに、この期に及んで雪乃は平然とした顔をしている。
そして、何の説明もしようとしない。
どうして戻ってきたのかも、なぜ行方をくらましていたのかも。




