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タロットとライオン  作者: 凪子
【JUDGEMENT.】
4/25

「それって、お見合いってことですか。お相手は?」


「医者や。小日向が段取りしてくれてな」


「小日向さんが」


小日向英輔(こひなた・えいすけ)は、敏雄の専属運転手である。


三十年以上敏雄の傍に寄り添い、支え続けた盟友だと聞いている。


「真鯛のポアレと白ネギのエチュベ、ソースヴァンブランでございます」


「雪乃もあのとおり、ちょっとも女らしくない奴やからな。いきなり見合いや言うて話持っていっても、相手蹴り飛ばして帰ってきそうやろ」


(んー、確かに。否定できへん)


内心で深く頷きつつも、表面上は平静を装って言う。


「私が行っても、あんまり意味ないんじゃないですかね?雪ちゃんが好きか嫌いか、合うか合わへんかのフィーリングが大事やと思いますし」


「あかんあかん。あいつは男見る目ないねん」


大げさに手を振って、敏男はちぎったパンを口に放り込む。


そろそろメインディッシュが来る頃だ。


朱理は食べるペースを早めつつ、敏男の言葉を待った。


「わしも会社経営してるさかい、世の中のことは、それなりに心得てるつもりや。今日び大学出てすぐ見合いして結婚する女の子なんか、おらんのも分かってる。女の子でもバリバリ働いて、子ども産んでも辞めんと定年まで働く時代や。そういう考え方を否定するつもりは全くないねん。せやけどな」


言葉を切って、敏男はきっと表情を改める。


「一生独りで生きていくっていう道は、思てる以上にしんどいねん。失業したとき、病気になったとき、支えてくれるんは最後は家族や。特に、雪乃は一人っ子やからな。六十、七十なって、周りの友達が子どもや孫に囲まれてるときに、自分は一人きりの家に戻る。この寂しさ、心細さは相当辛いで。今説明したところで想像もつかへんと思うけどな」


物すごい熱量で敏男が話すものだから、ついつい引き込まれて頷いていたら、湯気を立てたメインディッシュがやってきた。


「牛ホホ肉の赤ワイン煮込み、フォアグラ添えになります」


(きたーっ、フォアグラ!高級食材の代名詞!やけど、よく分からん!)


「働くのは構へん。二人で稼いで、ええ暮らししたらええねん。けど、やっぱり男と女では生涯年収が違う。何かあったときに生活していくためにも、結婚はしといたほうがええんや。日本は恵まれた国やけど、女が一人で生きていけるほど甘ないで」


睨みを効かせながら敏男が言い放つ。


朱理は、ごくりと唾を飲んだ。


(いや、それ、私に言われても……)

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