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翼の車で病院に向かう間、車内には奇妙な沈黙が立ち込めていた。
朱理は手持ち無沙汰で、不安で仕方なかったので、タロットカードを取り出して何度か切り、一枚めくってみた。
【THE TOWER.】
《塔》のカードだ。
バビロンの塔を暗示する絵柄で、巨大な尖塔の頂上に裁きの雷が落ち、王冠や人が落下している。
崩壊、破壊を意味するカードだ。
見た瞬間、嫌な予感が強まった。
(伯父さん……)
ゆっくり話したのは、レストランで一緒に食事をしたときが最後だ。
その後もいろいろ助けてもらったのに、結局何もお返しができなかった。
このまま何もできないまま、別れを告げることになるのだろうか。
「小日向さん。ご家族への連絡は」
翼の静かな声を聞いて、朱理ははっと我に返った。
「美枝子様、孝様と、親戚方々には連絡をさせていただいております。雪乃様は音信不通ですが、何度か携帯電話にメッセージを入れさせていただきました」
(ああ……間に合わないかもしれへん)
絶望的な気分になって、朱理は顔を覆った。
雪乃の考えていることはよく分からない。
雪乃と敏男の関係がどういうものだったかも知らない。
けれど、親の死に目に会わなくてもいいとは到底思えなかった。
(お願い。死なんといて、伯父さん。私が絶対、雪ちゃん見つけるから……!)
時間がこんなに惜しいと思ったのは初めてだった。
普段は水のように流れているのに、今は一滴一滴がこぼれ落ちて、すり減っていくように感じる。
もっと早く、もっと本気で雪乃を探しておけばよかった。痛烈な後悔が襲ってくる。
「落ちつけ」
低い声が響いて、運転席の翼は前方を見つめたまま呟いた。
「まだできることはある。最後まで諦めるな」
まるで心を読んだかのような、的確な言葉だった。
朱理は奥歯を噛みしめて頷いた。
口の中はからからに乾いていて、わずかに鉄の味がした。




