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タロットとライオン  作者: 凪子
【THE TOWER.】
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(私、雪ちゃんと恋バナしたことなかった)


雪乃が誰を思い、何を考え、どんな人が好きなのか聞いてみたことがなかった。


そのせいで、悪気なく傷つけてしまったのかもしれない。


『分かった。俺が悪かった。そういうのは一切信じへんタチなんや。占いとか直感とか、運命とかいうやつは』


気がつくと、翼は肩をすくめて詫びていた。


『だからって、それが全く存在してないとは言い切られへん。ないって証明した奴はおらんわけやしな』


「……」


あっさり謝られて、振り上げた手の行き場がなくなり、宙ぶらりんな沈黙が続いた。


『風間雪乃を探したいんやろ。俺も協力させてくれ』


「……」


『もう二度と、お前のことは馬鹿にせえへん。今度こそ約束する』


「……分かりました」


朱理は頷いた。


ロック解除ボタンを押そうとしたとき、後ろから現れた人影がカメラに映った。


「あれ、小日向さん?」


『ご無沙汰しております、朱理お嬢様』


丁寧なお辞儀をすると、小日向秀雄は暗証番号を押して、オートロックをあっさり解除する。


そして翼を促して、二人はあっという間に一一五〇号室までやってきた。


「どうして小日向さんがここに?」


「わたくしは社長に命じられて、数日に一度、こちらのマンションに伺っています。掃除や換気、郵便物の受け取り、他の人間が訪れた形跡がないかの確認などをしております」


「そっか。それでこんなに綺麗に片づいているんですね」


朱理の言葉に対しては、小日向は微笑を浮かべたまま黙っている。


「小日向さんは、雪乃お嬢さんと仲がよかったんですか」


スカイビューの美しい窓辺に佇んでいた翼が、不意に振り向いて尋ねた。


「仲がいい、という表現が適切かどうか分かりませんが……わたくしは雪乃お嬢様がお生まれになる前から社長の秘書を務めておりますので、お人柄はよく存じ上げております」


「風間社長とは旧知の間柄なんですよね」


「はい。社長がお若いころに、私が勤めておりましたホテルをご愛用くださいまして、それ以来三十年以上のお付き合いになります」


「社長の娘である雪乃さんは、あなたにとっても娘のような存在ですよね」


「おそれ多いことですが、家族のように大切に思っております」


「その雪乃さんが行方不明になった。しかも、見合い相手は何者かに殺されている。そのわりに、あまり動揺されていませんね。なぜですか?」


「そのように見えますでしょうか」


「はい」


朱理は言葉を差し挟むこともできず、二人の会話に圧倒されていた。


これは、尋問というやつなのだろうか。


「……雪乃お嬢様は、ふらりと行先を告げずに出かけられては、数日でお戻りになることが時折ございました。ですから最初のうちは、特に気に留めておりませんでした。しかし、これほど長い間お戻りにならないのは初めてです」


恭しさと哀しみを器用に織り交ぜた表情で、小日向は言った。


「警察には届けたんですか?」


「社長のご指示で、先週の水曜日に捜索願を提出いたしました。しかし、受理はされたものの、捜索はしていただけないようです」


「そうでしょうね。この国の一年間の失踪者は約八万七千人。明らかな事件性がなければ警察は動かない」


翼は小日向の正面まで歩いてくると、至近距離で目を見て言った。


「雪乃さんの行先に心当たりはおありですか」


「いいえ」


ほとんど唇を動かさずに小日向は応じた。


「あなたは雪乃さんの行動範囲を知っているはずですよね。よく行く店や、友人関係、趣味の集まり。彼女が行きそうな場所を教えていただけませんか」


「ご存じかと思いますが、雪乃お嬢様は先月帰国されたばかりです。大学に入学されて一人暮らしを始められてから、わたくしは雪乃お嬢様と接することはほとんどありませんでした」


「だから何も知らない?」


「お役に立てず、誠に申し訳ございません」


挑発的に問われ、小日向は慇懃に応じた。


「では質問を変えます。あなたはなぜ、千石貴文を雪乃さんの見合い相手に選んだのですか」


朱理はびくっとした。


自分も以前、全く同じ質問を小日向に投げかけたことを思い出したのだ。


しかし、そのことを翼に話した覚えはない。どうして翼は知っているのだろう。


「確かに千石貴文はイケメンで医者で金持ちだが、雪乃さんとは十歳年が離れている。しかも離婚歴があり、子どももいる。そんな男を、なぜ大事なお嬢さんの結婚相手候補に選ぶんです?」


小日向は沈黙している。


朱理にとっても、ずっと疑問に思っていたことだった。


質問を投げかけたときは、あっさりかわされてしまったけれど、それでも心の奥に残っていた。


「答えられませんか?」


翼が一歩踏み込んだとき、着信音が鳴り響いた。


「失礼」


小日向がスーツの胸ポケットからスマホを取り出し、耳に当てる。


その表情がすうっと青ざめたのを見て、朱理は嫌な予感がした。


「……はい。分かりました。失礼します」


通話を切ると、小日向は神妙な表情で告げる。


「恐れ入りますが、お話は別の機会にさせてください。……社長がご危篤です」

































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