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(だから嫌やったんや)
翌週になっても、まだ朱理の頭は怒りで煮えたぎっていた。
タロット占いが好きだと言うと、周りの人間、特に男性がどういう反応を示すかはよく知っていた。
一度小学校のクラスでからかわれて嫌な目に遭ってから、朱理は慎重にタロットのことを隠していた。
今では、知っているのは家族と雪乃ぐらいのものだった。
(ライオンキングのアホ!!)
雪乃の家のマンションの合鍵は、今は叔母である朱理の母が預かっている。
今日、朱理はそれをこっそり借りて、家宅捜索をするつもりだった。
(家に勝手に入るなんて、よくないけど……。雪ちゃん、まだ帰ってけぇへんし)
千石貴文の勤めていた病院では、雪乃の行方が分かるような手がかりは見つからなかった。
千石の死と雪乃の失踪は無関係なのだろうか?
だとしたら、いまだに戻らない雪乃は、全く別の事件に巻き込まれた可能性がある。
大阪市北区にある分譲タワーマンションの一室を伯父の敏男が購入して、名義は雪乃のものになっていた。
オートロックのエントランスに、受付には人形みたいに整った顔立ちの女性が二人並んでいる。
雪乃の部屋は1150号室だった。
「お邪魔します……」
念のためチャイムを押してみたが、もちろん返事はない。
大理石の玄関、白を基調にした1LDKの部屋は、殺風景と言っていいほど片づいていた。
まるで――。
(最初から誰も住んでなかったみたい)
ピンポーン。
朱理は飛び上がった。
急いで廊下とダイニングの間に設置されているモニターを確認する。
(宅配かな)
映っていたのは、ふさふさとした金髪をなびかせた不遜な男、久瀬翼だった。
「出たーっ!!」
思わず朱理は叫んでいた。
通話ボタンを押して問いかける。
「何であんたがそこにおるん!?」
『それはこっちの台詞や』
と、翼は小憎らしいしかめっ面をしている。
『出かけるときは行先を知らせろ言うたやろ。そのためにラインも教えてやったのに』
「何言うてるんですか、人のことあんな馬鹿にしといて」
『とりあえず開けろや』
「開けません。帰ってください」
翼は無言でじっと睨みつけてくる。
画面越しでも迫力があるが、朱理はてこでも引く気はなかった。
「久瀬さんは口悪いし、すぐ人のことけなすし、約束も守らへん。そんな人と一緒にいたくないし、信用できません。それに、私は雪ちゃんを探してるんです。暇じゃないんです!」
雪乃が姿を消して、かれこれ二週間近くになる。
敏男とは、事故に遭った日以来連絡を取っていないけれど、きっと行方不明になった娘のことを心配しているはずだ。
(それに、もしかしたら……私のせいかもしれへんし)
あんなふうに大喧嘩した後、ふっつり行方をくらませるなんて、よっぽど腹を立てたのかもしれない。
今まで喧嘩したことは数えきれないほどあったけど、そのどれもと様子が違っていた。




