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ボルボで乗りつけたのは、昭和レトロの漂う定食屋だった。
箱型のテレビに黒光りする柱、使い古された机や椅子、壁には毛筆で『とんかつ定食 八百五十円』『からあげ定食 七百八十円』などと書かれた半紙がひしめき合っている。
物珍しそうに見ていると、翼がからかうように言った。
「お嬢は、こういうとこは初めてか」
「お嬢って言うのやめてください」
朱理がむすっとしていると、お冷やを持ってきたふくよかな女性が、目尻に皺を寄せて微笑んだ。
「あら、翼君やん。まいどおおきに」
「うぃっす。おばちゃん元気やった?」
「元気してるよー。この間はありがとうね。えらいぺっぴんさん連れてるやん!」
「まあな。スタミナ定食二つで」
「はいよっ」
翼が勝手に注文したので、朱理は仰天した。
「ちょっと。勝手に頼むんやめてください。私にも選ぶ権利あるでしょ」
「お前にはない。俺が奢るんやからな」
「いやいや、奢っていりませんって。そういう横暴なことしてると、いつかハイエナの群れに崖から蹴落とされますよ」
「ええかげんライオンキングから離れろ。俺はお洒落な金髪弁護士や。橋本徹知らんのか?」
「元大阪府知事と自分を同列に語らんといてください」
「せやな。俺のほうが大物や」
(ここ、笑うとこ?)
呆れて物も言えない朱理である。
「スタミナ定食おまちっ!」
どん!!と目の前に置かれたのは、豚の生姜焼き、から揚げ、味噌汁、キャベツたっぷり、それに大盛りのご飯だった。
朱理は女子にしてはよく食べるほうだが、それでも勇気の要るボリュームである。
「ここで食うのはスタミナって決まってるんや。うまいで」
翼は自信満々に笑っている。
ごくりと唾を飲んで生姜焼きに箸をつけると、肉のうまみとタレの甘味、生姜のピリッとした辛みが口の中で広がって絶品だった。
「おいしい~!!」
「どや、うまいやろ」
さも自分の手柄かのように、どや顔を見せつけられる。
ただ、お世辞抜きで本当に美味しかった。
から揚げは外はサクサク、中はジューシーでニンニクと生姜の味が効いている。お酒のあてにもぴったりだ。
味噌汁は具だくさんの豚汁風味で、箸がどんどん進む。
夢中になって食べていた朱理は、翼が銃の照準を絞るように目を細めたことに気づかなかった。
「――で?お前の勘、どっから来とるんや」
白米をかき込んでいた朱理は、喉の奥に詰まってむせ返った。
慌てて冷たい水で押し流す。




