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「あ、あの~……千石先生やったら眼科なので、三階になりますよ」
隣にいた色白な看護師が、遠慮がちに口を挟む。
一重の目が細められており、おっとりした雰囲気があった。
「はい、存じております。警察の方も何度も事情聴取に来られてますよね」
「はあ。捜査とか何かで……」
「川崎さん、西口さん!」
奥から鋭い声がして、二人は文字通り飛び上がった。
「はい!!」
声を揃えて返事すると、ナースステーションに飛び込んでいく。
取り残された朱理は、ふわふわしたタンポポ色の後頭部を見つめて言った。
「で、どうするんですか?」
もちろん警察だって病院に訪れ、一通り千石貴文について捜査しているはずだ。
だが、直近の見合い相手だった風間雪乃についてまでは、そこまで調べていない可能性がある。
現場の医療関係者なら、何か知っていることがあるかもしれない。
朱理がそう考えていると、翼は出し抜けに言った。
「とりあえずお前、目にかゆみを感じろ。今すぐに」
「はあ?!」
「よし、結膜炎とドライアイとものもらいになったな。診察や」
と言うなり、ぐいぐい腕を引っ張られ、眼科に連れていかれる。
受付で待つこと数十分、朱理は全く身に覚えのない病名を訴えて眼科医の診察を受ける羽目になっていた。
「ん~多少充血はしてますが、炎症などはありませんね。目薬をさしておけば大丈夫でしょう」
眼鏡をかけた若い眼科医は、レンズを覗き込むと数秒で診断を下す。
「先生、質問があるんですが」
「えーっと、あなたは」
「この子の兄です」
抜けぬけと翼が言うものだから、朱理は目が飛び出そうになった。
「僕が以前ここに通院していた際、千石先生にお世話になったのですが」
カルテを持って傍にいた看護師が、その名前にびくっと反応する。
医師は一瞬険しい目をしたが、すぐに穏やかな笑みをたたえて言った。
「そうでしたか。残念ですが、千石先生は当院にはもう在籍していません。大学病院ですので、医師の出入りも多いんですよ」
「殺されたんですよね、千石先生」
今度は、はっきりと医師の顔色が変わる。
朱理は横目で看護師を見た。
彼女もまた、青ざめた顔で立ち尽くしている。
(何で?)
千石貴文が殺されたことは、二人ともとっくに知っているはずだ。
警察から事情聴取を受けた経験もあるに違いない。
なのに、なぜこんなに驚いた表情をしているのか。




