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「もう三日も家に帰ってきてないんです。事件とは関係ないのかもしれへんけど……千石先生が勤めてた病院やったら、何か分かるかと思って」
「ふうん……」
呟くと、翼はじっと朱理を見つめた。
あまりにも間近で臆面もなく凝視されて、朱理はたじろぐ。
もう一つの目的――千石殺しの真犯人を見つけ出すこと――がバレているのではないか。
「な……何ですか」
「そういやお前、あのときも変に鋭かったな」
「は?」
「トラックが突っ込んできたときや。突っ込んでくる前から、勝手に避けてたやろ。
最初に会ったとき、俺が千石貴文やないとすぐ見抜いたのも、確信があるみたいやった」
視線を逸らそうにも、爛々と光る瞳がそれを許さない。
朱理はごくりと唾を飲んだ。
「……いや別に、そういうわけじゃ」
「何でや?」
「何でって……。何でそんなこと聞くんですか」
「質問してるのは俺やろ。ちゃんと答えや」
低く凄まれ、朱理は両手を握りしめた。
(何なん、このプレッシャー)
「えっと……だからそれは、勘ですよ勘」
「勘か。まあそういうこともあるわな」
ようやく引き下がってくれたのでほっとしていると、翼は立ち上がった。
「ほな行こか」
「へ?どこへ?」
「千石と雪乃嬢のこと聞きたいんやろ」
と言うと、翼はずかずかと内科病棟に入っていき、ナースステーションの前で声をかける。
「松村法律事務所から参りました、弁護士の久瀬翼と申します。恐れ入りますが、看護師長はいらっしゃいますでしょうか」
新米らしい看護師が、はっとしたように目をみはった。
大きな瞳が愛らしく、つやつやした髪をポニーテールにしている。
「早坂は今、カンファレンス中なんですが……」
「そうですか。では、お戻りになられましたらお伝えいただけますか。『待合で待たせていただきます』と」
「失礼ですが、どのようなご用件でしょうか」
「『千石貴文の件で来た』とお伝えください」
間髪入れずに言い返した翼の瞳に、不穏な光が宿っている。
気圧されてか、新米看護師はごくりと唾を飲んだ。




