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朱理のような小娘がいきなり法律事務所に電話したにもかかわらず、丁重に遇されたのは、事前に小日向が話を通してくれたからだった。
「そちらに、久瀬先生がご在籍かと思うのですが」
『申し訳ございません。久瀬はただ今外出中でして』
「そうですか。では、戻られましたら私の携帯電話にお電話いただけるよう、お伝えいただけますか」
『かしこまりました』
電話を切ると、朱理はインターネットで検索をかけた。
【千石貴文 勤務先 病院】
ネット社会とは恐ろしいもので、あっという間に結果が現れる。
【近畿大阪大附属病院】
家から地下鉄とモノレールを乗り継いで三十分ぐらいだろうか。
財布とスマホをひっつかみ、ともかく病院に向かう。
ガラス張りの壮大なエントランスに、美人だが愛想のない受付嬢が二人そろっていた。
(ん~どうしよかな)
千石貴文について調べることで真犯人に辿りつき、一刻も早く自分にかけられた疑いを晴らしたい。
それに、雪乃の行方も気になる。
一応、大学にも足を運んでみたが姿はなく、卒業間際の雪乃はアルバイトもしていない。
友達の家に転がり込んでいるのか、ホテル暮らしをしているのか。
それとも、この事件と雪乃の失踪には、関わりがあるのか。
いろいろ聞きたいが、捜査機関でもない朱理が真正面から尋ねたところで、病院側も教えてはくれないだろう。
いつもどおり鞄に入っていたタロットカードを出し、ロビーの待ち合い席で何度か切る。
引いてみたところ、【恋人】のカードが出た。
天使に見守られ、エデンで出会う若い男女。背後には知恵の実と、それをそそのかす蛇の姿もある。
文字どおり、恋愛や快楽を意味するカードだ。
(ってことは……)
「何してんねん、お前」
聞き覚えのある声に顔を上げると、珍獣でも見るような表情の久瀬翼と目が合った。
思わず指さして叫んでしまう。
「あーっ!ライオンキング!」
「だから、誰がやねん。しつこいなお前、持ちネタそれしかないんか」
「だってライオンキング以外、何者でもないような髪型してはるじゃないですか」
「褒めても無駄や。俺は子どもを相手にするほど、女に飢えてへんで」
「全く褒めてません」
ずばり言い切ると、翼は苦虫を噛み潰したような顔になった。
「お前な……それが命の恩人に対する態度か?」
「あっそうやった。その節は大変お世話になり、ありがとうございました」
深々と頭を下げると、毒気を抜かれたのか翼は肩をすくめる。
たんぽぽ色の頭がふわふわと揺れた。
金髪なんて大して珍しくないのに、病院でも目立ちまくっているのは、スーツ姿と迫力のある容姿のせいだろう。
認めたくはないが、翼は黙っていればイケメンの部類に入る。
変な髪型をやめたら、もっとモテるだろうが。
「それで?元気そうやし、通院しに来たんとちゃうやろ」
「まあ、いろいろあって」
言葉を濁していると、翼はすっと目を細めた。
「何や?何隠してるねん」
「千石さんは、何で病院に来はったんですか?頭でもおかしなりましたか。あ、元からか」
憎まれ口を叩くと、軽いげんこつが頭に落ちてくる。
「痛ったー!!女の子に何するんですか!」
「悪いなぁ、手が滑ったわ」
翼は手を振って、にやにや笑っている。
「で?何やねん。お兄さんに話してみぃ」
「雪ちゃんを探してるんですよ」
「風間雪乃か」
ははあ、と翼は腕を組むと、納得顔で頷いた。




