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『朱理様。朱理お嬢様』
小日向の声に、朱理ははっと我に返った。
「ごめんなさい、小日向さん。何か、電波悪くて」
『そうでしたか。大変失礼いたしました。
それでは、雪乃お嬢様が見つかり次第、またご連絡させていただきます』
「あっ、あの!」
思わず呼びとめてから、朱理は口ごもった。
『はい、何でしょうか』
「えっと……小日向さんはどうして、雪ちゃんのお見合い相手に千石さんを選ばれたんでしょうか」
何となく気になりつつ聞けなかったことが、ずばりと口をついて出た。
電話の向こうでしばらくの間、小日向は押し黙る。
『……そうですね。年齢、職業、経済面、容姿、性格、さまざまな点を加味した上で判断したのですが、このようなことになってしまい、大変残念に思っております』
「雪ちゃんは千石さんが亡くなったこと、知ってるんでしょうか?それでショックのあまり、どこかへ行ってしまったとか」
『さあ、そこまでは……。ただ、雪乃お嬢様は日本にお住まいの頃から、ふらりと出かけて二、三日お戻りにならないことはよくありました。何か大きなきっかけがあって行動を起こされたわけではないのかもしれません』
「でも私、心配で。何か……嫌な予感がして」
雪乃の失踪と、今回の事件は無関係なのかもしれない。
けれど、このタイミング。
既読にすらならないライン。【月】のカード。
何かが起こりそうな気がして、怖い。
そのとき、ぱっと頭に顔が浮かんだ。
(ライオンキング)
久瀬翼だ。
彼なら千石貴文のことも知っているし、雪乃を探す手がかりを持っているかもしれない。
(まだ助けてもらったお礼も言えてへんし)
朱理はソファーの上に身を乗り出して言った。
「小日向さん。松村法律事務所の電話番号、教えてもらえますか」




