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タロットとライオン  作者: 凪子
【JUDGEMENT.】
3/25

「ジャガイモのポタージュでございます」


クリーム色のしたスープが運ばれてきた後、敏男はもう一度口を開いた。


雪乃(ゆきの)がハワイから戻ってきたんやけどな」


「あ、はい。先週会いました」


雪乃というのは風間敏男の一人娘で、朱理の一歳年上の従姉(いとこ)である。


大学三年から二年間のハワイ留学をしており、卒業式に出席するため帰国していた。


「うん。それでな、わし、あいつを結婚させよう思うねん」


たっぷり二秒間、朱理は目をぱちぱちさせた。


「……へ?」


結婚?


言葉の意味は理解できても、朱理の知る雪乃の姿とは全く結びつかない。


ちぐはぐなイメージを頭の中で修正しようとしていると、敏男が続けた。


「あいつもえらいはねっ返りやさかい、さっさと身ぃ固めさせんと嫁のもらい手がなくなる思うてな」


(それにしても、早すぎやろ。まだ二十二やで?)


朱理は首を捻った。


(雪ちゃん、ハワイで彼氏できたんかな? そんな話してなかったけど……)


風間敏男は、関西では有名な実業家である。


彼の父である風間敏行は『関西特殊製鋼所』を設立し、日本で初めて航空部品であるスポンジチタンの製作に成功した。


折しも時代は高度経済成長期、追い風に乗って会社は繁栄していくかに見えた。


だが、その矢先、敏行は病に倒れる。


物心ついた頃から事業を手伝っていた敏男は、中学卒業後すぐに関西特殊製鋼所を継ぎ、やがて世界に名だたるチタン加工メーカーへと発展させていった。


現在、『関西特殊製鋼所』は財閥系企業である往友グループの傘下に入り、『株式会社往友チタン』という名で工場と事業所を構えている。


年間売上高一千億円を誇り、従業員数は千五百人と、名実ともに大企業だ。


「オマール海老のソテー、アメリケーヌソース仕立てでございます」


敏男の食べるペースは早い。


うっかりしていると取り残されるので、ともかく朱理は海老を口に運んだ。


ぷりぷりとした触感と甘味が絶品である。


「それで、お相手の方って」


「それや」


敏男はフォークを置き、目をぎらっと光らせた。


恰幅はいいが身長が低く、ずんぐりむっくりな敏男だが、存在感は強大である。


その目力といったらもう、ひと睨みでカエルの五、六匹ぐらいは殺せそうだ。


「朱理ちゃん。雪乃の結婚相手に会うてくれへんか」


「え?結婚式の受付とかですか」


「ちゃうがなちゃうがな。まだ雪乃も相手と会うてへんねん。あいつより先に会うて、ほんまにええ男

か、朱理ちゃんの目で確かめてほしいんや」


「ええ~っ!!」


悲鳴とも歓声ともつかぬ、間延びした声が出る。

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