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タロットとライオン  作者: 凪子
【The Moon.】
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それから数日、朱理は久しぶりの実家でごろごろして無為に過ごした。


エントリーシートの作成やOB訪問、SPIテスト対策など、就職活動のためにやらなければならないことは山ほどあるが、どれも手をつける気にならない。


「朱理?起きてる?」


部屋の扉をノックされ、母が入ってきた。


「お母さん、今から雪乃ちゃんのマンションに行こうと思うんやけど、あんたも来る?」


「んー……私はええわ。バイトあるし」


朱理は気のない返事をした。


雪乃とは喧嘩別れしたきりで、あれから連絡もとっていない。


顔を合わせるのは気まずいし、正直、許せないという思いもあった。


母は「そう?」と深く詮索せず出かけていったが、しばらくして電話がかかってきた。


『雪乃ちゃん、留守みたいやわ』


「ふーん。どっか出かけてるんと違う?」


適当に返事したものの、ふっと嫌な予感がした。


テーブルの上に置いてあったタロットカードの束を広げて、左回りによく混ぜる。


(雪ちゃん今どこにいる?)


念じながら右回りにシャッフルし、カードをよく切って三つの束に分ける。


組み合わせてから再びカードを切り、上から七枚目のカードを引くと、結果が現れた。


【THE MOON.】


空にかかる悩ましげな月、湖のほとりで吠える犬たち、水辺に上がってくるザリガニ。


不穏、という言葉が胸に浮かんだ。


月のカードはそれほど悪い意味ではないのに。


(嫌な感じがする)


あんなふうに喧嘩別れしてしまったせいだろうか。


顔を合わせたくはないが、いないとなると不安が募る。


(雪ちゃん、千石さんが亡くなったの知ってるんかな)


お見合い相手が殺されたと聞けば、さすがの雪乃も動揺するだろうか。


それに、亡くなったと報道されたのは、朱理が千石と会った日の翌日なのだ。


(いや、ないわ。雪ちゃんはスルーやろな)


朱理は首を振った。


実の父親の病気にさえ、あんなに冷酷な態度なのだ。


お見合い相手が死んだところで、意に介さないに違いない。


Moon。月。雲隠れにし夜半の月影。


【雪ちゃん。今どこ?】


ラインを送っても既読もつかない。


三日経ったところで、小日向から連絡があった。


『雪乃お嬢様の捜索願を出してまいりました』


「えっ。じゃあ、雪ちゃん、まだ帰ってないんですか?」


『はい。三日前の朝にマンションを出られて以来、一度も帰っておられません』


ちくりとした棘が胸を刺す。


三日前の朝といえば、朱理が千石と会った翌日だ。


あのとき、雪乃は文字どおり血相を変えていた。


電話をかけてきたと思ったら、直後にホテルまでやってきて――。


(あれ?)


ふと、心に違和感がよぎった。


タクシーから雪乃を見つけたとき、とても驚いた。


だって、あまりにも早かったから。


千石貴文と会うことも、どのホテルで会うかも、雪乃には知らせていなかった。


久瀬翼のときとは違って、最初から二人で会うつもりだったから。


けれど雪乃はなぜか朝から電話をかけてきて、すぐさまホテルに現れた。


(どうやって?)


電話の後、朱理が身支度をしてホテルを出るまで十分ほど。


いくら雪乃の家が市内とはいえ、それこそ電話を切ってすぐにタクシーに飛び乗っても間に合わない。


知っていたはずだ。


雪乃は朱理がどこで誰に会っているか知っていたのだ。


そうでなければ、あんなに早く来られるはずがない。


もしかしたら――雪乃は電話をかけた時点で、ホテルのすぐそばにいたのかもしれない。


(でも、何のために?)

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