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――それからのことは、よく覚えていない。
気がつくと、警察署の取調室の中だった。
薄くドアは開いているが、息苦しいほど狭く、椅子と机だけが置かれた殺風景な部屋だ。
名前と住所、それに事件当日の行動を朝から晩まで何度も何度も聞かれ、ようやくおぼろげに分かってきた。
(私……疑われてるんや)
恐らく、被害者である千石貴文と、最後に会った人物は自分なのではないか。
だから、彼を殺した容疑者として、警察は事情聴取しているのだろう。
絶望的な気分で、朱理は天を仰いだ。
「じゃあ、今度は逆から行こう。我々が部屋に来る前、君は部屋で何してた?」
「寝てました」
「その前は?」
「家に帰りました」
「どこから?」
「ホテルからです」
「どうやって帰ってきたんや」
「タクシーで」
「家に帰る前に、誰かと会った?」
雪乃のことが頭に浮かび、思わず朱理はかぶりを振る。
何となく、雪乃のことは言わないほうがいい気がした。
「いいえ」
「じゃあホテルに泊まった夜のことは?」
「覚えてません」
「どうやってチェックインしたんや」
「覚えてません」
「部屋に入ったとき、被害者の千石さんと一緒やったんか」
「分かりません」
「千石さんと性交渉があったんか?」
「は?」
朱理は目を剥いた。
「千石さんとセックスしたんかと聞いてる」
「してません」
「他のことは全部覚えてないのに、そのことは覚えてるんか」
「覚えてませんけど、そんなん、してたら分かります」
「どうやって分かるんや」
怖い顔で尋ねられ、朱理は顔が真っ赤になるのが分かった。こんな屈辱は初めてだ。
言葉が出てこずにいると、刑事は別の質問を投げかけてきた。
「君と千石さんは初対面やったんやろ」
「はい」
「初めて会った男にホテルの部屋で襲われて、抵抗して揉み合って、殺してしまったということはないか?」
朱理は絶句した。
(やっぱり……千石さんを殺したのは、私やと思ってるんや)
信じられない。
今までまっとうに生きてきた自分が、殺人を疑われている。
衝撃に数秒遅れて、凄まじい怒りが胸を突き上げてくる。




