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「朱理ちゃん、こっちやで!」
レストランの入り口でまごついていると、スーツを着た男性が近づいてきて、声を張って言った。
「お久しぶりです!」
つられて朱理も大きな声が出る。
場所はグランフロント大阪二十一階にある、フレンチレストラン。
窓際の席からは美しい夜空と、ネオンのきらめく街並みが一望できた。
「しばらく見ぃひん間に、えらいぺっぴんさんになったなぁ」
べっぴんとは、関西地方の方言で『美人』を指す。
目を細めてうんうんと頷いている男性は、風間敏男。
高価なスーツを広い肩幅でびしっと着こなし、手首には金の腕時計、革靴はぴかぴかに磨き上げられている。
見るからにお金持ちなこの男性は、朱理の母の兄――つまりは伯父に当たる。
「本日は、わざわざお声がけいただき、ありがとうございます」
首をすくめながら朱理は言った。
母から「みっともない」とよく言われるものの、緊張したときについしてしまう仕草だった。
「いやいや、こっちこそ来てくれてありがとうやで。ほんなら何飲む?」
「あ、私、お酒弱いんで」
「おお、そうかそうか。ほな、オレンジジュースにしとき。わしも医者から酒止められてるよって」
そう言うと、風間敏男はウェイターを呼び、食前酒の代わりにミネラルウォーターとオレンジジュースを注文した。
「乾杯」
「ありがとうございます、乾杯」
(何に?)
よく分からないまま、朱理は折れそうに細いグラスのステムを持ち上げる。
フルコースを予約していたらしく、すぐに前菜が運ばれてくる。
「オードブルはラングスティーヌのカルパッチョ、緑色のものはピスタチオになります」
コース料理など、今までほとんど食べた経験がない。
マナーは合っているだろうかと考えながら、朱理はおっかなびっくり一番外側にあるナイフとフォークを手に取った。
しばらくの間、かちゃかちゃと食器にナイフとフォークの当たる音だけが響く。
「孝さん、元気にしてはるか?」
父の名前が出たので、朱理はこくりと頷いた。
「はい。あのー、伯父さん」
「ん?」
「私、今日お母さんから言われて来たんですけどね。何かお話があるって」
「まあ、そう焦りなや」
と言いつつも、伯父の目が鋭くなったことに朱理は気づいていた。
【JUDGEMENT.】。
会食の前、朱理が引いたタロットカードである。
中学生の頃にタロット占いにはまって以来、気になったり迷うことがあると、ちょくちょくカードを引いてみる。
そうするとヒントがもらえたり、気が楽になったりする。
癖のようなものだった。
(これは何かあるわ)
経験上、ジャッジメントのカードが出るときは、わりと大きなことが起こりやすい。
伯父の態度を見て、朱理は推測を強めていた。




