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「……ご名答」
ライオン男は不敵な笑みを見せた。
「俺は久瀬翼や。千石貴文やのうて残念やったな」
「やっぱり……」
興奮と混乱で、心臓が破裂しそうになっていた。
自分の推理が当たっていたという喜びと、さらなる疑問が胸の中で渦巻いている。
「何で?何でこんなことするんですか」
「せやけど、お嬢さんも風間雪乃と違うやろ」
二人はほぼ同時に言ったので、声が重なり合ってロビーに響いた。
朱理は息を呑んだ。
(ばれてた……)
とっさについてしまった嘘だが、どうやら久瀬翼には見破られていたらしい。
挙動不審になっていると、翼は長い人さし指で朱理を指した。
「どうせ金目当てで見合いに割り込んできたんやろ。汚い奴やな~」
「なっ、違いますよ!」
朱理は思わず腰を浮かし、テーブルをばんと叩いた。
異質なものを見るような周囲の視線が一斉に注がれる。
「……すいません」
誰に言うでもなく、朱理は肩を縮めてすごすごと席につく。
「ほんなら風間雪乃の友達で、彼女の身代わりで見合いに来た。そんなところか」
「身代わりじゃありません。雪ちゃんも」
朱理は言って、スマホの画面に目を落とした。
先ほど送ったラインは既読にすらなっていない。
「雪ちゃんも来る予定やったんです。一人やと心配やから、私が」
「お目付け役か」
「……そんなとこです」
手持ち無沙汰になって、朱理は目の前のロイヤルミルクティーを飲んだ。
ぬるくなっていたが、甘くて濃くて美味しかった。
「本物は」
「ん?」
「どこにいてはるんですか、ほんまのお見合い相手は」
「知らん」
ぶっきらぼうに翼は言い捨てた。
「知り合いじゃないんですか?ていうか、何で雪ちゃんのお見合いのこと知って」
「あーガタガタうるさいな」
言いながら、翼は勢いよく席を立つ。
(せや、小日向さん)
もともと雪乃の見合い相手は、敏男の運転手である小日向英輔が選んだ。
小日向なら、この奇妙な状況の原因について知っているかもしれない。
(ああ~小日向さんの連絡先、聞いといたらよかった)
世代が上であまり接したこともないため、ラインどこか携帯の番号も知らなかった。
スマホを握りしめ歯噛みしていると、
「一つだけ忠告しといたるわ」
長身の翼は、椅子に腰かけている朱理を見下ろして言った。
「千石貴文に近づくな」
「……は?」
朱理は怪訝な顔で聞き返す。
それ以上翼は何も言わず、長い手足を動かして悠々と歩き去った。
(何?何なん?あの人……)
混乱した頭では、答えを導き出すことはできない。
ただ分かるのは、このお見合いが完全に失敗に終わったということだけだった。




