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007 刀は人を狂わす

 宮廷暮らしの学生、という身分で現在ここにいる。


 が、今のところ学生らしいことは何もしていない。

 初日を除く三日間を式典に費やし、三十余の儀式をこなした。

 退屈で死にそうになる。

 一回死んでるけど。

 こういうところは日本の血を引き継いだ()()だなと実感させられる。

 新参者の僕が無駄に奇声をあげて()きまわすのも式典担当者に申し訳ないので、おとなしく無難に参加した。

 別に僕の意思でこの世界に転入してきたわけではないが、この退屈な儀式も()()()()()()()()()()()()()と思えば、多少の面倒は我慢しよう。

 何と言っても、一応僕のためだしね。

 まあ、これがあと二日も続けば奇声を上げて、『僕はそういう人なんで』と堂々退場するのだが。

 残念ながらその機会は訪れることなく、無難に式典は終わった。

 儀式の内容は退屈なので省略、儀式の最後の最後に刀を一振り拝領した。

 これが、こっちの世界の身分証になるらしい。

 魔力がある人は、皆持つそうな。

 物騒な身分証だな。

 そういえば天野さんが服を用意してくれた。

 なんだか本当はスカートを履かせたかったらしいのだが、僕が強硬に反対したので、フリル付き半ズボンでお互いの妥協点を見出した。

 それにしても・・・、服飾には大して興味ないが、高い生地やら細工を凝らしているやらが僕がの目にも明らかだった。

 そう言えば、これ一着が何人分かの年収になるとか、何とかの職人がどうだか言っていた。

 何の実績もない僕にすごい待遇だこと。


 刀を受け取ってから僕は自室に戻り、ベッドの上で刀を鞘から抜いてみた。

(これを持つってことは、斬り合うってことだよね)

 形は日本刀だが、なんともまあ…

 重量感があり、刀身が光を受けてキラキラ光る。

 波のように揺れている刃文は、鉄の塊から生まれたとは思えない美しさだった。

 そもそも鉄なのかな。

 

 刀を構えてみる。

 やっぱり、こういうのは使ってみないと―――

「ええい、無礼者!そこへ直れ、斬り捨ててくれるわ!」

「・・・・・・」

 何か感じが出ないな。

 刀から出るオーラ的な何かを受けきれていないのだ。多分そんな感じ。

 刀が僕に本気でやれと囁いている。

 大河ドラマ(たいが)の神が微笑んでいる、今僕は将軍なのだ。

 ベッドの上に立って、一呼吸の後――――


 いきなり土下座する。

「殿、おやめくだされ」

 すっと立ち上がり、土下座していた方向に―――

「我一人とて敵将が首討ち取ってくれるわ!」

「馬、引けええええええぇぇ!!!」

「皆の者、殿を止められよ」

 殿と家老を交互に演じる。

「ええい、離せ!離さぬかぁああああ!」

「と、殿おおおおお!」


 だいぶ感じは掴めてきた。一人で殿と家老を大河並みに演じきっている。

 こういうのは恥ずかしがってはダメだ。人格が乗り移った鬼気迫る演技とやらを見せてやる。

 

「斬られたくなければ道を開けい!」

 刀を抜いてポーズをとる。

「恐れながら申し上げます。殿のお心は痛いほど理解いたしまする。何卒(なにとぞ)お考え直しを」

 座ったり立ったり忙しい。

「黙れ!忠義の心はありがたいが、この戦いに臆しては武門の誇りが立たぬ」

「されど、殿!ご自分の命を軽んじられては、民もまた迷いましょうぞ。今一度ご英断を…」

「うるさい!こおわしに二の言はない。たとえこの命果てようとも、悔いはないわ!」


 だいぶノってきた。ノリノリだ。ここで奥方登場させるか。


「あなた様が戻らねば、わたくしも……」(声高め)

「すまぬ!奥方、わしはこの国の・・・―――――

 

 一人三役時代劇をやっていると、いつの間にか僕の部屋に入っていた天野さんが、申し訳なさそうな顔で見ていた。

「夕食誘いに来たっすけど、何か御免っす……」


「あっ、そうそう制服の他にも別の服も持ってきたっすよ」

 気まずさから話題を変えてきた。

「じゃーん、これが訓練服っす」

 ん、体育の授業にでも使うのか……って、これ女性物だよね。

 着物とレオタードを組み合わせたような服だ。

 何かところどころ硬いし。

 着物の内側に鉄板でも入れているのか、関節部分に掛かるところ以外は硬くなっている。

「これ何に使うの?」

「まあ、こっちの世界で言う戦闘服っすよ」

 綺麗でしょ、ってはしゃいでいる。

「男物ありますよね?確かに女装趣味はありますけど、露出趣味はない」

「ええぇーーーーー」

 不満の声を上げるがここで引き下がってはいけない。

「さっちゃんは絶対こっちが似合うっすよ」

 似合う似合わないの問題ではない。

「いや、この股間はやばいんですよ」

 モノがはみ出そうである。

「そもそも、この服が一般的なの?本当に女性が着て、そこらじゅうを闊歩してるの?」

「一般的っすよ。そこらじゅう闊歩闊歩っすよ」

 軽く言うなぁ。

 意匠を凝らしているのも、華やかで綺麗なのも理解できるが、体型に自信がない人はこれどうするんだ。

「まあ、これは()せるためっすからね。戦場では目立つのも必要なんっすよね」

 えっ、何その戦場って単語。平和国憲法で育った身としては敏感に反応してしまう。

「今日、刀貰ったでしょ。それでこれ着てバッサバッサっと斬り伏せるんっすよ」

「誰が」

「僕がっすよ」

 ・・・・・・まぁ、それは置いといて。とりあえずはこの服だ。

「バッサバッサはいいとして、この股間は物理的に無理だ」

「さっちゃんの大きさなら、ちょっと膨らむ程度っすよ。股に挟めば大丈夫っす」

 そんな適当な。何気に僕の()()を馬鹿にしてないか。

「じゃあ、天野さんも、こんなの着るの?」

「……いや、ちょっとこれは()ずいっすねー」

 恥ずかしいんかい。




―――――――――――――


天野が着せようとしていた訓練服

戦闘服の中では最も軽装備のもの

必要に応じて、スカートやら上着やらを着る

挿絵(By みてみん)


それにスカートやらトップスを追加したもの

挿絵(By みてみん)

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