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私が輝く時

「愛とは互いを見つめ合うことではなく、同じ方向を向いて外を見つめることである。」

— アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ


アイリーンとディランは、愛と尊重、そして共に築く夢を土台に、結婚生活をスタートさせた。最初のうちは、すべてが新しく刺激的だった。空っぽのアパートは、少しずつ家具や本、写真や思い出で満たされていった。しかし、装飾以上に、彼らが本当に望んでいたのは「共に生きる人生」だった。

日々のリズムは、表面上はうまくいっているように見えた。ディランは企業でのキャリアアップに集中し、アイリーンは翻訳者としての道を追い続けた。二人は限られた時間を大切にし、即興のディナーや自宅映画会を楽しんでいた。

だが、一緒に暮らすということは、沈黙や意見の食い違い、生活リズムのずれも共有するということだった。それは想像以上に難しかった。ディランの仕事は多忙を極め、彼の成功への意欲が次第に生活の中心となっていった。一方、アイリーンは、仕事と妻としての役割の両立に努めていたが、理想に届かないと感じることが多かった。

かつては些細に思えた違いが、少しずつ浮き彫りになっていった。ディランは無機質で整った空間を好み、アイリーンは温もりを求めていた。植物、カラフルなクッション、壁に飾る家族の写真——最初は笑って済ませていたが、次第に疲れた表情や短い返事、会話のない夕食が積み重なり、緊張感が漂い始めた。

ディランは次第に、家の外に承認を求めるようになった。大学時代の友人であり今の同僚でもあるアンドレアは、彼の近くに居続けた。ある日、彼女は何気ない口調でアイリーンに言った。

「職場の女性たち、ディランのこと尊敬してるのよ。本当に優しくて、いつも助けてくれるから」

その時は軽く流そうとしたが、やがて彼女たちが仕事外の時間にまでディランに電話をかけてくるようになると、不安の波が押し寄せた。

ある夜、アイリーンはついに話し合う決心をした。

「ただ親切にしてるだけだよ」とディランは驚いた様子で言った。「どう受け取るかは相手次第だし、変な期待を持たせてるわけじゃないよ」

彼は、自分の承認欲求が二人の間に小さな亀裂を生じさせていることに気づいていなかった。アイリーンにとっては、それは昔からの「自分は足りない」という感覚を再び呼び起こすものだった。

オスクリータが戻ってきた。

今回は、厳しい非難ではなく、静かな囁きだった。冷たく、よく知っている声。

ある晩、ディランの部長昇進を祝う会社のパーティーが開かれる前夜、アイリーンは彼を驚かせようとした。彼女は静かで品のあるドレスに身を包んだ。ディランはその姿に目を見張り、慌てて彼女を抱きしめた。

彼は深くキスをした——まるで、忘れかけていた大切な何かを思い出そうとしているかのように。彼は優しくドレスの肩紐を下ろした——まるで、誤解を脱ぎ捨てるかのように。

二人は互いを抱きしめ、まるで帰る場所に戻ったかのような安心感に包まれた。

翌朝、鏡の前でメイクをしていたアイリーンは、ふと目尻の隅にオスクリータの影を見つけた。

「見てごらん」と声が囁いた。「ドレスを着たって、彼が他の女性を見なくなると思ってるの?」

今回は、動じなかった。

彼女は鏡に近づき、自分の目を見つめた。

「今日は、私は自分のために輝く。彼のためじゃない。誰のためでもない」

その言葉に、影は静かに退いていった。

その夜、彼女は自然体の美しさを引き立てるドレスを着た。ディランが彼女を見た瞬間、言葉を失った。彼女の瞳は、彼女だけが持つ内なる光で輝いていた。

「君は……本当に美しい」と彼は言った。

彼女はウィンクし、堂々と彼の前を歩いた。その夜、彼女はディランのパートナーというより、自分自身だった。

パーティー会場では、二人は注目を集めた。ディランは洗練されていて魅力的。アイリーンは静かに、そして力強く輝いていた。同僚の一部は尊敬のまなざしを向け、ある者は嫉妬すらした。だが、アイリーンはもう脅威を感じていなかった。自分が誰か、はっきりと分かっていたから。

その平穏は、酔った女性の一人がディランに堂々と媚びを売り始めたことで破られた。アイリーンは遠くからその様子を見ていた。胸が沈んだ。

しかし、ディランはすぐに気づいた。言葉を発することなく、彼はそっと近づき、アイリーンの手を強く握った。その仕草がすべてを語っていた。

——彼女は、唯一無二の存在だった。最初からずっと。

家に帰ると、ディランはしばらく黙って、アイリーンがメイクを落とすのを見つめていた。

「一つ、言ってもいいかな?」と彼は聞いた。

「うん」と彼女は答えた。その声には、何か大事なことが込められていると感じた。

「今夜、みんなが君を見ていたとき、僕も見ていた。そして心の中で思ったんだ。『僕は本当に幸運だ』って。君がどれだけ美しかったからじゃない。君が、どれほど心を開くのが難しい人かを知ってるから。それでも、君は心を開く。誰にも見えないものと、毎日戦っている。その姿を、僕は心から尊敬してる」

アイリーンは俯いた。メイクは消えていたが、その顔は輝いていた。それは光ではなく、言葉の真実が与えた輝きだった。

「時々、怖くなるの」と彼女は囁いた。「世界中があなたを褒め称える中で、あなたが誰も見ていない時に私の存在を忘れてしまうんじゃないかって」

彼はそっと近づき、彼女の額に優しくキスをした。

「僕は絶対に、君を見続けるよ」

二人は黙って抱き合った。その静かな瞬間が、世界から彼らを守ってくれるかのようだった。

その後数日、ディランは昇進とともに周囲の称賛を受けた。「あんな女性が妻なら、誰だって頑張るよね」——そんな言葉が彼のプライドをくすぐった。知らず知らずのうちに、彼は称賛をますます渇望するようになっていた。

アイリーンは見ていた。彼女は彼を愛していた。だが、愛は彼の承認欲求と競い合えるものではないと分かっていた。

そして、あの問いが静かに、でも執拗に心に浮かんだ。

——もし、私がもう彼のために輝かなくなったら?

だが今回は、その問いはオスクリータではなく、彼女自身からだった。

答えはまだ見つかっていなかった。けれど、ただ一つ確信していた。

彼女は、自分自身のために輝き続けることをやめない


あの日、彼の隣で輝いていた私は、

もう誰の影にも怯えていなかった。

私は知っている——

私が私である限り、私は光を失わない。



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