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第1章-ある人生の物語

「無意識の中にあるものを意識化しなければ、それはあなたの人生を支配し、あなたはそれを運命と呼ぶだろう。」

— カール・グスタフ・ユング


都市はそれぞれのリズムで脈打っていた。

群衆の中でアイリンは足を止め、大型スクリーンに映し出された次の話題作の予告映像を見上げた。

『ある人生の物語』――そう、あの名前。まぎれもなく自分のものだった。

「本当に私なの?あの頃、恐怖と劣等感に支配されていた私が……」

微笑みながら、小さなため息のような笑いが漏れた。驚きと優しさが混ざった音だった。

「若い頃には遠すぎて手が届かなかった夢。それが、この歳で叶うなんて。」

胸の奥から、熱い感謝の波がこみ上げた。

「アイリン……あなたはやり遂げた。自分のペースで、自分らしく。だけど、ここまで来た。」

周囲の誰も知らなかったが、スクリーンに映るその物語は——

まさに彼女自身が、自分を救った道のりだった。

そして、その瞬間。思い出の風が彼女を包み込んだ。

すべては、何年も前に始まった——。

スペイン人の母と日本人の父の間に生まれたアイリンは、二つの世界を行き来して育った。

子供時代はスペインの陽射しとおやつに囲まれて過ごし、12歳の時に父の故郷・日本へ引っ越した。

その変化は、親しみのある扉が勢いよく閉ざされるような衝撃だった。

新しい土地、新しい言葉、新しい期待。適応しなければならないプレッシャーがのしかかった。

父は理解ある態度を見せてくれたが、母は不安からか、より厳しくなっていった。

異国で見下されないようにと、アイリンに完璧を求めたのだ。

そんな日々の中、彼女の癒しとなったのは父方の祖母だった。

穏やかな声と温かい手、そしていつも用意されたジャスミン茶。

ある日、祖母は優しく言った。

「アイリン。闇は、怖がるから力を持つの。名前を与えて、正面から見つめなさい。そうすれば、それが思っていたほど大きくないと気づくわ。」

この言葉から、「オスクリータ(影)」は生まれた。

母との言い争いのあと、心が傷ついたとき。

アイリンは、自分の中に小さくて嘲笑うような影を想像した。

不安や自己否定が頭をよぎるたび、その影は胸の奥で囁き、空気のように彼女の空間を覆った。

ある雨の日、制服がびしょ濡れになって帰ってきたアイリンに、祖母は静かに尋ねた。

「今日は、何かあったの?」

「……日本語を話すと、外国人みたいって言われた。きっと、私はどこにも属せない。」

祖母はそっと彼女の手を取り、はっきりと言った。

「違うの、アイリン。あなたは二つの世界の声を持っている。それは、宝物よ。」

その瞬間、アイリンの中に小さな種が蒔かれた。

いつ芽が出るかは分からなかったが、確かに何かが心に根付いたのだった。

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