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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

天使の姿をした悪魔と、自分は醜い花の精と信じている小悪魔の娘の話

作者: 生肉こむぎ

「わあ……綺麗……」

 麗しい青年が言う。

 思わず声に出してしまった、というような表情。


「ここが、ルミルニの湖……ルミルニ地方……」


 青年の眼の前には、湖があった。森の湖の清い水は、鏡のように森を逆さまに映している。薄くて淡い青緑色の森。まあ、確かに綺麗ではある。なんでも保存したがる”人間族”が来たら絵画を描きたがるぐらいには、美しいだろう。


(……それとも、あのお花に言っているのかしら)

(……まあ、綺麗なお花だものね……)



 青年は、百合ユリとスズランに似たお花を嬉しそうに指で優しく触っていた。

「甘い香りだ……」


(ええ、そうよ。良い香りでしょう? 私も好きよ。その花は猛毒があるのだけれどね)

(あまり触ると、……指が火傷状態になるかもしれないわ)

(警告しようかしら……でも)

(……でも)


(あまり、声をかけたくはない……)



 色とりどりの花が咲く、森の奥には、小さな村があるのだけれど。

 私もその村の住人だ。妖精と精霊が暮らす、小さな村。

 醜いグウェンジル・アルトゥーシャと言えば、私のことだ。

 醜いと言われるのには理由がある。

 

 この村に住む花の精はだいたいにおいて、羽を生やして生まれてくる。

 私の羽は、目玉のついたの羽なのだ。しかも、獣のような毛がびっしりと生えた羽で、飛ぶには飛べるが、あまり上手くは飛べなかった。


 そして、私の髪の毛の色は、白色だった。この村の人々は白色の髪を忌み嫌う。それは、白色は死者を送る時の衣服の色だからだ。


 そして瞳は茶色だった。それは構わないのだけれど、皆にはある花の模様が瞳の中に無い。身体にまとわりつき、頭から生えている花も、なんだか枯れかけのダリアや枯れかけの小さな花々。言わば鉄錆てつさびすみあいの子みたいな色で、汚かった。


 

 醜いグウェンジル・アルトゥーシャ。

 花の精のくせに、花に愛されないアルトゥーシャ。

 醜いアルトゥーシャ。呪術で作られた呪い子のアルトゥーシャ。


『あの子はどこから来たの?』

『ニンゲンの村に住む化け物の子だよ。だからニンゲンの村から来たのさ』


『あの子ってニンゲンの夫婦がほんとの親なんだ。子供が生まれないニンゲンが子供が欲しくて、黒魔術を使って生んだんだって』

『あの子の父親は死体だったらしいよ。だからあんなに醜い羽が生えているんだよ』

『あの子はほんとうに精霊なの?』


『あの子はどうしてこの村に来たの?』

『あまりに醜くて、ニンゲンも飼っていられなくなったのよ』

『あんな子を置いておくなんて、酋長さまのお優しいこと』

『ほんとうほんとう』



『お水の魔法しか使えないんだよ。かわいそうなアルトゥーシャ』

『かわいそうだからみんなでやさしくしようね』

『ああ、かわいそうかわいそう』


 もう死んでしまったお母さまに連れられてやってきたこの村で初めて聞いた人々の私についての会話は、思い出すだけで身震いするようなものだった。


 皆がさざなみのようにつぶやくのを覚えている。

 その時に口の中に広がる苦い味も。

 胃の中や心臓の中でざりざりと砂のような音が立つような気がするのも。

 息苦しさも。


 皆がやさしくなった今の今でも。

 ぜんぶぜんぶ、覚えている。


 だから私はこの村が嫌いだ。

 だけれどこの村よりも世界は酷い場所かもしれない。

 

 なので私は今日も森でうろうろして、時間を潰してから、薬草を集めて、それをニンゲンの商人にメープルシロップで作ったキャンディと交換で売りつけるつもりで居た。


(便利な身体よね、花の蜜が含まれるキャンディを舐めるだけで……)

(あとは水さえあれば生きていられるなんて)



 * * * * * * * * * *



 青年はまぶしいほどに美しかった。

 朝日のようにきらきらと輝く、金色の髪。どこまでも清廉な光を宿す、水色の瞳。眉毛がすこし凛々しいけれど、長いパサパサとしたまつ毛とぷるりとしたみずみずしい桃のような色の唇が、少しかわいらしい雰囲気を与えている。


――そして。

 大きな翼。白い羽を生やしている。頭には光輪が。


(花なんかより、貴方のほうがよっぽど綺麗だわ……)

(でも、見間違いじゃなかった。ほんとうに、光輪が……)



「貴方は、天使様……なの……?」

 思わずつぶやいていた。


「……わぁ! 可愛い女の子だねっ。白い髪の毛珍しいね!? 凄い綺麗!」

「…………?」

 可愛い女の子? ……なんだろう。

 天使族は思ってもないお世辞を言うのが礼儀なんだろうか。


「……ええと……」

「……凄いね、背中の羽、自前? 凄いもふもふで、目玉柄で可愛いねぇ! 僕の住んでる街だったら、可愛い可愛いって大人気になるよ」

「……ありがとう。……ええと。……おにいさんは、……天使、さま、なの?」

 初めて言われたお世辞に、すこし胸をどきどきさせてしまう。



「ン? ああ、僕!? えっ僕のこと興味持ってくれてるの!? 嬉しいなぁ~!」

 ニコニコとおにいさんは笑った。爽やかで柔らかくて、すこし高いけど男性の声だ。



「僕はね、天使様じゃないよ。うーん。でも天使には憧れてる。だから人助けが趣味かな」

「人助けが趣味ってうさんくさすぎるわ……」

 思わずつぶやいていたけど、はっとした。慌てて「あ、その。素敵な趣味ね」と言い直す。

「ねぇ、君の名前は何ていうの? 可愛いお嬢さん」

 ニコニコした状態の王子様のような笑顔を崩さずに、うさんくささも全身からあふれさせながら、おにいさんが言う。でも、キラキラした神々しい姿だ。近くで見ると、やっぱり髪の毛は宝石やスパンコールや金銀財宝を散りばめたみたいに、――いや、朝の川の流れのように、きらきら、きらきら、と光るのだ。


「ほんとうに、綺麗……」

 見ていると、頭がぼーっとしてくる。


「え。髪の毛? 天使の輪っか? それとも翼?」

「ぜんぶ、きれい。羨ましいわ」

「そうかなぁ。他の悪魔からは僕、ちょっと無能な王子様っぽい顔面とか、ちょっと人間に寄りすぎとか、色々言われるけど」

「嫉妬してるのよ。こんなに綺麗だもの」

 思わず、語気を強めて言う。



「君もでも同族が見たら『キレイ』って言うと思うよ?」

「そんな訳ない。皆私のことを化け物っていうの」

「ええー。酷いねぇ。その人達はきっと、ほんとうの化け物を見たことが無いんだと思うよ。こんなに可愛い化け物は居ないよ」

 お世辞だとは分かっているけど、本気でそう思っているみたいな声に、思わず心臓が跳ねた。



「そうだ、お嬢さん。この近くに村があるみたいな気配があるけど、村って宿屋とかある?」

「無いわ」

「はあー、じゃあ、ずっと飛行と歩きかぁ……」

「……どこに行くの?」

「うーん。知り合いに会いに行くんだ。ゴルゴリオンっていう名前の爺さんだよ。僕、あの人ちょっぴり苦手なんだけど、僕の母さんが世話になってるからね……」

「……ていうかちょっと待って。さっき”他の悪魔”って言った? あ、貴方悪魔なの?」

「えっ? うん。そうだよ。ホンモノの天使は地上に降りてきたりしないよ。ていうか存在するのかも不明だけど。……うーん。天使は地上に降りてくると、穢れちゃって堕天使になるんだそうだよ。ゴルゴリオン爺さんが言ってた。僕が小さい時に昔話をしてくれただけだけど」


「外の世界は楽しい?」

「うん。楽しいよ。凄く楽しい」

「私も……旅に出ようかな」

「あっじゃあ一緒に人間の街を見物に行く?」

「えっ危なくないかしら……」

「いや、他の街は知らないけど、クレオンポリス王国は異種族の人が沢山居るよ」

 貴方も危ない気がするわ。悪魔族だし。


「僕ふだんは悪魔の街――霧の山のふもとの街に住んでるんだけど、そうだなぁ、君ってずっとここで暮らしてるの?」

「ええ」

「どうやって生計立ててるの?」

「お母さんに教えてもらった薬草の区別がつくから、それをニンゲンに売ってるわ。で、メープルシロップのキャンディを買うの。それを食べて、水だけ飲んで暮らしてるわ」

「うわあ……なにその質素の極みみたいな……。……お肉も食べないといつか倒れるよ……?」

「いいえ。花の精霊族は肉なんて食べないわ」

「ああ、花の精はそうだろうけど。君は……どこからどう見ても小悪魔族にしか見えないけど」

「……え。酷いわ。見た目の話?」

「いや、見た目もそうだけど、魔力の感じが……こう……餓死寸前ギリギリのところで生きてる小悪魔族って感じがする。ていうかずっとここでそんな暮らししてたら退屈で死んじゃうよ。趣味とか無いの?」

「無いわ。眠ることは好きだけど」

「えええぇ、それは誰でも好きだろ」

「……おにいさんは趣味が人助けなのよね」

「ン? うん」

「おにいさん、名前は?」


「君は?」

「グウェンジル・アルトゥーシャよ」

「うわあ」

「なに……?」

「名前まで小悪魔族っぽいじゃん。人間の勇者とか女神とか聖女の名前つけたがるのって、人間と小悪魔族だけだよ? やっぱり君が花の精霊は無理があると思うな。君ちゃんと鑑定士に鑑定して貰った?」

「いいえ。それは何?」

「鑑定士を知らないの!? ……異種族同士の間で――あー、異類婚姻をした時に子供が生まれたら、どの種族なのか調べるんだよ。水晶で」

「へえ……」

「調べてみたら?」

「いいえ。いいわ。別に、知りたくないし」

「どうして?」

 きらきらした水色の瞳がこちらを不思議そうに見つめる。


「……小悪魔だったって分かったら、私、どうやって生きていけば良いのか分からないわ」

「ああ、悪魔族の街に越してくれば良いじゃん。悪魔族と小悪魔族は住民票簡単に作ってもらえるぜ、あそこは」

「……ううん……今は今後のこと、考えたく無いかも」



「そっかぁ」

「あの。名前は?」

「教えない」

「なんで!? 私教えたわよね」

「悪魔族にとって名前は大事なんだよ。一生を捧げるような相手じゃないと、悪用されそうだし教えられないな」

「……でもなんて呼べばいいの?」

「……うーん。便宜上、ロザリウスって呼んで」

 ロザリウス。……ローザって確か薔薇よね? なんだか、沢山の薔薇みたいな名前だなと思った。



* * * * * * * * * *



 それから私はロザリウスさんと一緒に、人間の街を見た。精霊族だから受け付けないと思っていたさくさくのあげパンは、砂糖がたっぷりで、食べると物凄く美味しかった。


「お、おいしい……」

「ね? 美味しいよね。僕も好き」

「こんなに美味しいなんて……」


 今までキャンディだけで飢えを満たせていたのが不思議なくらいに、街ではたくさんのものを食べた。一応、キャンディの他にもニンゲンの商人さんからは銅貨や銀貨をまれに貰っていたのである程度のお金はあったのだけれど、全部ロザリウスさんが奢ってくれた。……申し訳ないわ。でも、この甘いさつまいものタルトも、ぶどうも、すごく美味しい……。



「もしかしたら、精霊族の森は魔力とか清い力で満ちているから、それを吸収してるおかげで何も食べずに済んだのかもね」

「…………? 小悪魔族は悪魔でしょ? じゃあ魔力じゃなくて清い力なんて浴びたら死ぬんじゃないの……?」

「やだなあ、小悪魔族は平気だよ。だって聖なる清い力を好む精霊や妖精と、魔力やしょう気を好む悪魔族が交わって生まれるのが小悪魔族だからね」

「……そうなの」

「君って知らないことがたくさんあるんだね」

「……そうみたい」

「嬉しいな。僕、ひょっとしてジルの先生になれる?」

「そうかもしれないわ」

「ふふ」

「よろしくお願いします、先生」

「どーんと任せて!」



* * * * * * * * * *



 ゴルゴリオンさんという人との用事を済ませる間じゅう、街を見て回ることにした。街をうろうろするのは楽しいわ。ここでは色んな姿の人が居て、色んな種族の人たちが居るから、気後れすることもないし。


……すると、獣人のおにいさんに声をかけられた。酒場から出てきた狼族みたいなおにいさんだ。もふもふだわ……。


「うわー、おねえちゃん、めちゃくちゃキレイだね!? その花飾り、凄い独創的で俺好きかも」

「花飾り……? あ……いいえ、これは花飾りではなくて……」

「えっもしかして異種族とか? あっ異種族っていうのは人間から見た――」

「ええ。そうよ」

「凄い良い香りするし、いいね、毎日その色とりどりの綺麗な花を見て過ごせたら、楽しいだろうなー。俺だったらもう毎日鏡の前に張り付くね」

 なんちゃって、みたいな感じでニコニコしているおにいさん。酔っているのか、顔がほんのり赤いわ。

……ん? 色とりどり……?


「もう、酔っ払いすぎですよ。私の花は……」

「あれっもしかして、お嬢ちゃん、あの天使みたいな人の知り合い?」

「あっはい」

「なんか凄い顔してるし、俺もう行くね。いやぁ、よい旅を」

 おにいさんが、私の羽をぽんぽん、と優しく励ますように叩くと、ニコニコしながらまた酒場の中へ消えていった。



…………。……あれっ。ロザリウスくん、どうしてそんなに怖い顔をしてるのかしら。もしかして、私が知らない人に誘われて勝手に単独行動すると思ってたのかな……。



* * * * * * * * * *



「ジル。僕はね、ジル。もう少し他者に対する危機感を持って欲しいな」

「たとえば、金髪青目の王子様みたいなルックスの天使にしか見えない悪魔さんに気をつけなさいとか?」

「いやいやいや、それは僕だから。僕は善人だから良いけど、僕以外のヤツは、男も女も危ない人が大勢居るんだよ?」

「怪しすぎるわ。主に貴方が」

「酷いなぁ。僕はジルのことが大好きなのに」

「出会ったばっかりよ?」

「ジルは可愛いんだもん。雰囲気が小動物みたいだし、羽もモフモフだし、性格も面白いし。なんか、こう、初々しい感じがたまらない」

「やっぱり貴方、危ない人な気がするわ」

「恋なんてした事無いんでしょう?」

 首をかしげて、少し意地悪な表情で……優越感が見え隠れするような、でもとてもとても愛おしいと思っているような……よく分からない複雑な表情をしている。



「ええ。そもそも人と喋った事もあまり無いの」

「そうなんだ。悪魔の街に連れて帰ったら、モテモテだろうなぁ、君。それはヤだけど、でも悪魔の街にも見せたいものが沢山あるし……それになんていうか道中で聴いてた君の思い出話、ふつうに村八分というかいじめで胸糞悪いからもう森には帰らないほうが良いんじゃない?」

「でも、行く所が他に無いの」

「僕と暮せば良いかも」

「…………。……知り合ったばかりの男性の家に泊まるのはちょっと……。飽きられた時とか喧嘩した時に行く場所が無くなっちゃうわ」

「心配しないでよ。喧嘩なんてしないし、僕は親切な悪魔さんだから。別に君と喋るの飽きたからって家を追い出したりはしないよ。少なくとも、君が豹変して家の中の物を壊しまくったとしても、次の家が見つかるまでは物置きくらいは貸してあげるよ?」

「私は狂犬じゃないわ……」

「冗談でーす」

 指で、トン、とおでこを押された。

 思わず、身体にぞくりとした感覚が……心地いいようなおぞましいような、よく分からないむずがゆい感覚が走る。


「……もう……心臓に悪いからやめて頂戴」

「でも家を貸してあげるって言ってるのは本当だよ。まあ、狭苦しい家だけどさぁ。君って掃除とかはできる?」

「たぶん、ある程度は……できるけれど。私と住むという話はもう貴方の中では進んでいるのね?」

「駄目だった?」

「だめじゃないわ。とても助かるけど、好意に甘えていいのかしら。というか、私、頭からバリバリ食べられて、骨だけになったりしない?」

「うーん。食べることは無いと思うよ。まずそうだし」

「……美味しそうなら食べたの?」

「ニワトリさんの見た目なら食べたかもなぁ」

「…………」

「冗談だってば」

「…………」

「えっちな事はしたくなるかもしれないけど。我慢するから安心してよ。僕童貞だから安心だし」

「…………!?」

「えっ何その驚きよう。違うよ? 仲良かった子は居たけど、僕ほら天使みたいな見た目じゃん? だから禁欲主義が一時期ブームになってて……ほら、セックスしないと魔力上がるんじゃないかなって思って……いや、実は真逆だったんだけど……。…………」

「……そうなのね」

 思わず笑ってしまう。禁欲主義が趣味の悪魔。語感がなんだか愉快だわ。

「あー、ジルちゃんに笑われる筋合いは無いぞ」

 ちょっとふくれている。きらきらした髪の毛が綺麗だ。目鼻立ちも綺麗だ。こんなに綺麗な人が心まで優しいなんて事があるのだろうか。



「ね、ジルちゃん。この後、僕の腕の中に収まってくれてたら、悪魔の街まで飛んでいくけど」

「……食べられちゃうわ」

「どう見ても同族だから食べないって。ニンゲンじゃないんだし」

「……ウン」

 うなずく。どうせ、生きているのか死んでいるのか分からない日常を送っていたし、この先あの森に戻っても、どうせつまらない日常を延々と繰り返すだけだろうと思う。疎外感だってきっと消えない。


 だったら。悪魔の明らかに罠にしか見えない誘いに乗ってみても、良いんじゃないかしら。駄目だったら、逃げれば良いわ。そしてそのままどこかへ旅へ行ってしまおう。そう思った。



「それにしても、見違えるようだよね」

「なにが……?」

「君の花。すごく綺麗な色になってる。花屋で売ってる花みたいだよ」

「…………」

「やっぱり栄養が足りてなかったんだね」

「…………」

「お花、すごく綺麗」

「…………」

「ジル?」

「…………」



「……考え事? やっぱ止めとく?」

「……止めないわ。貴方についていって、危険な目に遭ったら自業自得ね」

「顔の良い不審者って思われてる? ひょっとして僕」

「思ってないわよ。信じるわ。何の根拠もないけれど」

「危険な橋を渡るなぁ。嬉しいけど、僕だったら絶対僕なんかの事信用しないよ」

 でも、と彼は続けた。



「君が信じてくれたその気持ち、僕、裏切らないように気をつけるね」

 優しい声だった。風に吹かれて、甘い花の香りがした。

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