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君の声を最後まで

作者: 桜橋あかね

「……え、歌手活動を辞めちゃうの?」

「うん。実家の両親が亡くなってね……家業を継げるのは私しか居なくてさ」


▪▪▪


私の名前は、西河まみ。

今は成人して、普通の会社員をしているんだけど……かつて高校の時に、仲の良い男女5人組でバンドを組んでいて学校内外で活動していた時期があったんだ。


で、その時のメインボーカルを務めていたのは一番の親友であった園田友夏。

彼女は高校を卒業してからは、都会のバーで専任歌手にならないかとスカウトされて上京した。


あれから何年か経った頃―――

友夏から『歌手活動を辞める』と、告げられたのだ。


▫▫▫


「確か、友夏の実家って小さな本屋だったよね」


そう私が言うと、友夏は頷いた。

「閉業しようかと思ったんだけど、『本屋が無くなるとさみしい』って常連さんの声があってね。それで、辞めて継ごうと思ったのよ」


バーの店主にはもう話は通してあって、先月末にもう辞めたという。


「……友夏の歌声、もう聴けなくなるの寂しいな……」


実のところ、専任歌手になってから何度か聴いていた。

専任になってから、さらに上手くなっていたのに―――


「まみっちにそう言われてうれしーよ」

手を横に振りながら、友夏が返す。


「あのさ、友夏」

「ん?なーに」


頭の中をよぎった事を言ってみた。

「高校ん時のバンド仲間を集めてさ、一日限りかつ最後のステージをしたいんだけどいいかな」


「まみっち……気持ち、分かったよ。バンド、復活しよか」


▪▪▪


その後、私は他のバンド仲間にメッセージで連絡をした。

ドラムの智樹に、ギターをやっていた茜に栞里だ。

(ちなみに私はキーボードを務めていた)


『友夏の声が聴こえなくなるんか……それだったら、俺は協力するぜ』

最初にコメントしてくれたのは、智樹だ。


『智樹の言う通りね。私も久しぶりにギター弾きたくなっちゃった』

栞里が返事をする。


『ちょうど、半月後に次女の文化祭があるんだけど……()し物を予定していた、インディーズのバンドマンが出れなくなって困っていたのよ。私の方から学校に問い合わせてみて、入れられるかどうか聞いてみるよ』

茜がそう返事をくれた。


「ありがと、みんな……」


『なーに、俺たちァ三年間も共に切磋琢磨した仲じゃねえか』

『そーよそーよ』


皆の言葉に、助けられた。


()し物に入れられなかった場合は、智樹が気を利かせて地元の商店街のステージを借りると返事してその場では解散した。


▫▫▫


翌日、文化祭の話は通ったと茜から返事が来た。

―――そして、5人は久しぶりに集まった。


「楽器は私の名義で月末まで借りたわよ」

栞里がそう言った。

その機材が、揃っている。


「ありがとー栞里」

私が言う。


「曲なんだがな、倉庫を探してみたら活動していた時期の楽譜を見つけてな。時間もねえだろうし、それでいいか?」

智樹が言うと、皆は頷いた。


「それじゃ、早速練習でもやりましょうか!」


それから、何回か練習を重ねた。

久々だったのに、息のあった演奏が出来ている。


「……懐かしいわ。あの時にタイムスリップしたみたい」

練習中、ふと友夏が呟いた。


「そうね」


あの時は、皆が意見を出し合って練習してたっけ。

相当前だけど、今この時でも変わりはない。


「まみ、本当にありがとう」

「まだ本番じゃ無いわよ、友夏……いい想い出にしようね」


▪▪▪


そんなこんなで、文化祭当日を迎えた。

順番は、昼の部の最初だ。


準備中、茜の次女が声を掛けた。

「お母さんに皆さん……急遽の出演、ありがとうございます」


どうやら、生徒会の演し物担当で例のバンドマンの応対は彼女が担当していたらしい。


志緒(しお)さんでしたっけ……感謝するのは、私の方ですよ。とってもいい舞台を組んで貰えたのだから」

友夏がそう返す。


「そう言って頂けて幸いです。……それでは、私は事前アナウンスしてくるのでそれでは」

そう言うと、会釈をしてその場を離れた。


「準備出来たから、少し音慣(おとな)らしするぞ」

智樹がそう言うと、調節をし始めた。


『もうまもなく、演し物ステージのお昼の部を開催いたします。皆様、どうかお集まりください』

ぞろぞろと、ステージに人が集まってきた。


『それでは、これよりお昼の部を始めまーす。最初に盛り上げてくれるのは、一日限りの復活という「スターエンジェル」の皆様の演奏です!』


司会にそう言われ、友夏がマイクを持って喋り始めた。


「皆様、こんにちは。私たち『スターエンジェル』と言います」


高校時代のバンドだったこと、卒業後に歌手活動をしていたこと、事情で辞める時に最後のステージをそのバンドで締めようと思ったこと―――


「今から、私の……スターエンジェル最後のステージをどうかお聴きください!」


こうして、演奏が始まった。


▫▫▫


演奏中、私は泣きそうになっていた。

あの時の輝きが戻ってきたが、それと同時に無くなるとう寂しさが入り乱れているからだ。


最後の五曲目が終わり、私たちは頭を下げた。


観客席からは、アンコールの声が大きくなる。

その声で、5人は頭を上げた。


友夏は目に溜めた涙を、手の甲で拭いながら言う。

「アンコール、ありがとうございます。それでは本当に最後の曲を、お聴きください……『君の声を最後まで』」


▪▪▪


友夏の……もとい、『スターエンジェル』の最後のステージは大盛況で終わった。


この想い出は、いつまでも5人の心に残っている。

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