サーシャ・ラスドア2
蛇に睨まれた蛙の如く俺は、店員さんに見られて縮こまっていた。店員さんに何かされた訳ではなく単純に俺が女の人と話すのが不得意なのだ。だから、昨日の迷子の女の子相手にぶっきらぼうな喋り方をしてしまったのだ。
別に女性恐怖症とかでは無いのだが、どうにも女の人相手だとテンパってしまうのだ。それに、人生初の女性物のお店で緊張も相まって、会話を成立させるのが困難になっていた。
「どんな服が好みかな~? 」
「あ、えっと、あの、その、き、着やすいのがいい…です……」
「うんうん、そっか~着心地は大事だね~」
モゴモゴと話す俺に店員さんは、嫌な顔をせずにゆっくりと話を聞いてくれる。
「じゃあ、これはどうかな~」
「あ、その、し、試着してみます」
店員さんから服を受け取ると試着室に入った。
今は、着ている服をゴソゴソと脱いで試着する。渡された服はこれ迄着ていたノースリーブのシャツの黒バージョンとショートパンツ、それから薄手のフード付きのコート、あと何故かニーソックスも渡された。
中々に女の子している服を渡され、面食らっていたが、今着ていたスカートよりもこっちのショートパンツの方がましな気がした。そして覚悟を決めて、おすすめされたのだから着てみようと思いテキパキと着替えた。
「着れたかな~」
「あ、はい! 」
丁度着終わったタイミングで店員さんが話し掛けてきた。プロの人はタイミングまで分かるのかと思っていると、店員さんがさらに話し掛けてきた。
「開けるね~」
「え、え、え ?」
突然の事に理解が追い付かず戸惑って居ると試着室の扉が開いた。
「わぁ~すごく似合ってるよ~!! 」
ニコニコしていた店員さんが目を輝かせてこちらを見ていた。
「うんうん、素材は良いと分かってたし~、似合うとは思ってたけど~、ここまで来ると流石に興奮しちゃうね~ !」
「え、あ、ありがとうございます ?」
最初から距離感は近かったが興奮して更に近くなったお姉さんが俺を隅々まで舐めるように見る。
女の人とこんな距離で話したのはラト以外では初めてだったからか、俺はどう動けば良いか分からず試着室が開けられたタイミングのポーズのまま止まっていた。
「あ~これも着て欲しいな~、いや、こっちも~」
困惑した俺を残して店員さんがお店の服とにらめっこしていた。
これ、このままここに居たら他の服も着せられて男の尊厳が著しく貶められる気がする。
逃げなければ !!
そう思い俺は意を決して店員さんに話し掛ける。
「あの、俺、この服買って帰ろうと思うんですけど…」
そう言った時に店員さんがグルッとこちらを向きがっしりと肩を掴んできた。
「試着…」
「え 、な、何ですか ?」
「これから渡す服全部試着してくれたら着て貰った服全部あげる…」
「え、いや、でも、店長さんとか作ってる方に許可とらないと……」
「大丈夫、私が作ってるし、私が店長だから」
あ、詰んだその言葉を聞いた時俺はそう思った。