貴族
…キョトンとした顔で俺を見つめて少し経った頃。状況が飲み込めた少女は、瞳一杯に涙を浮かべ俺の服をハンカチ代わりに泣き始めた。
俺と同じぐらいの歳の女の子が、不気味な男に馬車の中で詰め寄られたらどれだけ恐ろしいかっただろうか。
安心させようと精一杯優しく頭を撫でた。
泣き始めて十数分後。
女の子は直前まで泣いていたせいで鼻声のまま名乗った。
「エルリア・フーヴァでず。この度ば危ない所を助けて頂きありがどうございまじだ……ズビ」
駄目だ、涙は止まっても鼻水が止まってないせいでとても残念な感じになってる。
「ご、ご丁寧にどうも、俺はサーシャ・ラスドアよろしく」
双方名乗りが終わってこれまでの経緯を聞いていたのだが、十数分泣いたせいで声も少し枯れていて濁音が酷く一旦落ち着くまで待つことになった。
エルリアさんを待つ間に、ラトやフレイ達もこちらへ来た。ラト達へ説明し終えた頃に、エルリアさんは落ち着いた。
「大変お待たせ致しました、もう大丈夫です落ち着きました。…事の経緯を私の口から語らせていただきます」
エルリアさんが語ったこれまでの事は聞いていてあまり気分が良いものではなかった。簡単に説明すると、エルリアさんは父親と仲が悪い。しかし、それは父親からエルリアさんに抱く気持ちだ。エルリアさんから見たら何故嫌われたのか分からないのだ。
「つまり、エルリアさんは今回の事は父親が仕掛けたものだと言うんだね?」
「ええ、あの殺し屋も馬車の御者も全部含めてです」
これは想像してなかった、馬車内にいた男は分かるが御者の男までグルとは思わなかった。
エルリアさんの家庭の事情を聞いていつの間にか険しい顔になっていたのか彼女は顔色を伺うようにしていた、